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映画と本と音楽と、猫が好き。駄作にも愛を。

『白いリボン』

2011年09月20日 | 映画(さ行)
『白いリボン』(原題:Das Weisse Band)
監督:ミヒャエル・ハネケ
出演:クリスティアン・フリーデル,レオニー・ベネシュ,ウルリッヒ・トゥクール他

来年は70歳になるミヒャエル・ハネケ監督。
銀髪と髭が醸し出す雰囲気は知的で優しそうなおじいちゃん。
しかし、作品はいつもこのうえなく不気味。
観ればとにかく滅入るので、いつも相当覚悟してから臨みます。

本作は公開中は覚悟が決められず、
レンタル開始になってもうじき3カ月。ようやく腹を括りました。
そんなにたいそうなら、観なきゃいいんでしょうけれど、
なんだかんだ言っても私はこの監督が好きなんですねぇ。

舞台は1910年代、第一次世界大戦を控えた北ドイツの小さな村。
三十路を越えた男性教師の回顧録として綴られます。

その日、馬に乗って自宅の敷地に差しかかったドクターが、
地面より少し上に張られた針金に引っかかって転倒。重傷を負う。
針金はいつのまにか取り除かれ、犯人はわからぬまま。

これを始まりとして、村のあちこちで事件が起きる。
小作人が腐った床を踏み抜いて転落死。
キャベツ畑がめちゃくちゃに荒らされたり、火事が起きたり。
男爵家の御曹司が何者かに吊されて尻を酷く打たれたかと思えば、
助産婦の知的障害を持つ息子が目を潰されかける。

偶然と思えた事故も、実は故意なのか。
いったい犯人は誰なのか。すべて同一犯の仕業なのか。
敬虔な村人ばかりのはずのこの村で、密かにうごめく憎悪。
村人の素顔も次第に浮き彫りになって……。

『隠された記憶』(2005)同様、犯人はきちんとは明かされません。

著しいネタバレになりますが、解釈のひとつとして。
事件が起きるたび、他人の敷地内を並んで覗き込む子どもたちは、
まるで遂行されたかどうかを見届けるかのよう。
また、のちに教師の恋人となる男爵家の乳母は、
まだ子どもと言ってよいほどの微妙な年齢で、
彼女が森に行こうと教師に誘われたときに断固拒否したのは、
森は子どもたちの集う場で、彼女もそれまでは参加していたのではないかと。

大人が子どもたちに付ける白いリボン。
純真無垢の象徴かと思いきや、無知な行いの罰として付けられるもの。
大人の抑圧下、子どもたちは子どもたちでルールをつくり、
自分たちのやり方で大人を罰しているように思えます。

最後は何事もなかったかのように、教会に集う大人たち。
その大人を見下ろして讃美歌を歌う子どもたちにゾゾ~ッ。
音のないエンドロールに再びゾゾ~ッ。

犯人が明かされずとも消化不良になることはなく、
誰かと「あれってどうなん?」と話したくなってしまう。
『ファニーゲーム』(1997)および『ファニーゲーム U.S.A.』(2007)を観たときもそうだったように、
この不気味さ、不快さについてしゃべりたくなる。
それがこの監督の作品を観てしまう所以なのかなぁ。

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