夜な夜なシネマ

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『草原の実験』

2015年11月05日 | 映画(さ行)
『草原の実験』(原題:Ispytanie)
監督:アレクサンドル・コット
出演:エレーナ・アン,ダニーラ・ラッソマーヒン,カリーム・パカチャコフ他

ダンナの国内出張中に映画三昧の締めくくりが本作。
前述の『顔のないヒトラーたち』と同じく、シネ・リーブル梅田にて。
内容的にヘヴィー級のハシゴとなってしまいました。

旧ソ連が所有していたセミパラチンスク核実験場。
それはカザフ共和国(現カザフスタン)の北東部、
セメイという町の西方150kmにある草原地帯に建設されました。
1940年代後半から40年間、旧ソ連はここで500回近い核実験をおこなったそうです。
原爆開発の最高責任者ラヴレンチー・ベリヤは、
この草原地帯が無人だったと主張していますが、もしも有人だったとしたら。
そこに着想を得て、アレクサンドル・コット監督がつくり上げた作品。

大草原にぽつんとたたずむ一軒家。
美しい少女が父親とふたりで暮らしている。
少女は、毎朝働きに出かける父親を見送り、帰りを待ち、ねぎらう。
何も起こらないが、光に包まれ風を感じる穏やかな日々。

幼なじみの少年は、彼女にひそかに想いを寄せている。
どこかへ出かけた少女が帰路に就くころ、
どこからともなく少年が現れては少女を馬に乗せて家まで送り届ける。

そんなある日、草原で車が立ち往生。
運転していた少年が、水を求めて少女の家を訪ねる。
少女に一目惚れしたのか、少年はそれから少女に会いにくるように。

こうして生まれた淡い三角関係が大事件に思えるくらい、穏やかな毎日。
しかし、父親が倒れ、病院へと搬送されてから状況が一変し……。

全編を通してひと言の台詞もありません。
ファンタジーとしか言いようのない作品で、映像はどこまでも美しい。
風にはためく洗濯物までがアートしていて唸るばかり。

だからこそのラストの衝撃。
本作のことをチラリとでも知っている人は、そのラストについても聞いているはず。
ゆえにネタバレにもならないと思ってネタバレ全開。

突然の核実験に爆音が鳴り響き、地面が割れ、何もかもが吹っ飛びます。
それまでの平穏とは対極を行く地獄の風景にもかかわらず、
広がるキノコ雲すら美しいのが余計に恐ろしい。

何の罪もない子どもたちが、こんなにも簡単に死に至らしめられてしまう。
その辺のホラー作品よりもよっぽど恐ろしいラストシーン。
映像が目に焼きついて離れません。原爆許すまじ。

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