夜な夜なシネマ

映画と本と音楽と、猫が好き。駄作にも愛を。

『ドリーム』

2017年10月06日 | 映画(た行)
『ドリーム』(原題:Hidden Figures)
監督:セオドア・メルフィ
出演:タラジ・P・ヘンソン,オクタヴィア・スペンサー,ジャネール・モネイ,
   ケヴィン・コスナー,キルステン・ダンスト,ジム・パーソンズ他

先週の金曜日、武庫之荘で晩ごはん。
その前に時間休を2時間取って、公開初日だった本作を鑑賞。
109シネマズ箕面のエグゼクティブシートにて。

NASAの初期の宇宙開発計画にこんな話があったとは知りませんでした。
監督は『ヴィンセントが教えてくれたこと』(2014)のセオドア・メルフィで、
メガホンを取るのはまだこれが2本目ですが、
『ジーサンズ はじめての強盗』(2017)の脚本もこの人によるもの。
どうやらこの3本を観ただけで、私のツボであること間違いなし。

原題は“Hidden Figures”で、「隠された人たち」の意。
日本での公開決定時、邦題は『ドリーム 私たちのアポロ計画』でした。
この邦題が酷すぎるということで話題になり、『ドリーム』のみにしたそうな。
ちょっとシンプルすぎる気もしますが、確かにその副題は要らん。
「アポロ計画」はまったく別物、関係のない話なのですから。

1961年、米ソ冷戦下
アメリカとソ連は熾烈な宇宙開発競争を繰り広げている。
ソ連が人工衛星の打ち上げに成功し、先を越されたアメリカはほぞを噛む。
次は有人宇宙船計画。今度こそソ連には負けられぬ。

ヴァージニア州ハンプトンにあるNASAラングレー研究所では、
頭脳明晰な黒人女性たちが「西計算グループ」の計算手として働いている。
そのなかでもドロシー、キャサリン、メアリーは特に優秀な仲良し3人組。

人種分離政策を採るヴァージニア州では、白人と黒人で仕事も完全に分けられている。
西計算グループとはつまり黒人の計算手グループ。
プログラミングに長けたドロシーは、西計算グループのまとめ役で、
管理職と同等の働きをしているのに、黒人ゆえ昇進は見送られたまま。
エンジニアを目指すメアリーは、十分にその能力を持っていながら、
エンジニアになるための就学がヴァージニア州では黒人に認められていない。
一方、幼い頃から数学の天才と呼ばれてきたキャサリンは、
NASAの花形であるSTG(スペース・タスク・グループ)への異動を命じられる。

ところが、STGに入室してみれば、責任者のハリソン以下、
秘書を除いては男性ばかり。もちろん全員白人。
最初は清掃係と間違われてゴミを押しつけられ、
彼女が新しい計算係だと判明したあとは、露骨に嫌な顔をされる。

建物内には黒人の利用が許可されているトイレはなく、
尿意をもよおすたびに800メートルも離れた建物まで走らねばならない。
コーヒーポットに手を伸ばせば、刺すような視線を受ける。
翌日からは誰が用意したのか、黒人用と書かれたポットが。

屈辱的な思いを味わいながらも、3人はお互い愚痴り合い励まし合い、
家族に支えられて国家一大プロジェクトに貢献すべく奮闘するのだが……。

文句なしに良いです。
20世紀も後半になって、NASAですらこんな偏見が満ちあふれていたのかと唖然。
ドロシーの上司ミッチェルが、ドロシーの昇進希望を却下するさい、
「偏見はないのよ。わかってね」と言うのに対して、
ドロシーが「わかっています。偏見がないとあなたが思い込んでいることを」という答えに
胸を刺されるような思いがしました。
差別意識と偏見を持っているのに、自分は偏見のない人間だと皆が言いたがる。
本当に偏見のない人間は、わざわざそんなことは宣言しないのでしょう。見りゃわかるから。

実際、STGの責任者ハリソンは、仕事さえできれば誰でもいいという態度。
だから、職場が黒人への差別意識まみれであることに気づかない。
日に何十分も席を外すキャサリンが、まさかトイレに走っているとは思い至らず、
それを知ったときの彼の表情はまさに唖然呆然。

このハリソンをケヴィン・コスナーが演じて、いい味。
また、一時はヒロインばかりだったキルスティン・ダンストがミッチェル役。
彼女も若さをもてはやされる年齢ではなくなったんだなぁとしみじみ。
もともと頬骨が高い人が美人とされるアメリカ
だけど頬骨の高い人って、意地悪な役も似合う。といったらこれも偏見か(笑)。
ま、本作でも彼女は、根っから意地悪な人というふうではなく、
仕事だから仕方なくでもあるし、偏見がないと思い込んでいる人でもあります。
それがまたピッタリで。

キャサリン役のタラジ・P・ヘンソン、ドロシー役のオクタヴィア・スペンサー
メアリー役のジャネール・モネイ、三者三様に絶品です。
マーキュリー計画成功のかげに隠れていたこんな偉業。素晴らしい。

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