日本銀行が物価上昇2%を目標に、国債の大規模買い入れをはじめとした金融緩和を実施して1年が経過しようとしています。「デフレからの脱却」を掲げたものの、国民が期待した経済再生には程遠く、むしろ生活苦は増しています。
消えた円安効果
金融緩和策を実施したさい、日銀の黒田東彦(はるひこ)総裁が「金融を大幅に緩和した国の為替レートが下落する傾向がある」(2013年4月4日)と指摘したように、日銀による金融緩和は、円安を加速させました。ドル高=円安は多国籍企業には、為替差益をもたらす恩恵があったものの、輸出量は増大しませんでした。輸出が増えれば、それにともなって雇用増や関連中小企業の仕事も増えます。しかし、その波及効果があらわれないのは、大企業が海外での現地生産を増加させ、国内では工場を閉鎖・撤退させたためです。
一方、円安によって原材料が割高になり、日用品の値段が上昇しています。労働者の賃金が減り続けるなかで、物価の上昇は人々の生活を脅かしています。
「アベノミクス」の1年間で国内総生産(GDP)伸び率は下がり続けました。10日に発表された13年10~12月期のGDPは、前期比で実質0・2%増(年率換算で0・7%増)にすぎませんでした。
虚弱経済に打撃
根底にある要因は、個人消費の低迷です。この虚弱経済に打撃を与えるのが4月からの消費税増税です。内閣府の景気ウオッチャー調査(2月)には東北地方の一般小売店の経営者から「身近に景気の良い話も聞かない。こういった状態で消費税率が引き上げられれば、その後は大変厳しいことになるのではと危惧している」との声が寄せられています。
政府は、消費税増税は一時的に景気を冷え込ませたとしても、その影響は軽微にとどまるとしています。しかし、大手銀行のエコノミストは、「賃金を増やす企業は一部にとどまり、全体としてみれば賃金は上がらない。その一方で物価だけが上昇する危険性がある」と指摘します。消費税増税によってもたらされるのは生活苦社会の拡大です。
GDP伸び率の失速を受け、日銀は今後、追加緩和策に踏み切るとの見方も広がっています。しかし、人為的に物価を上昇させる政策は、経済のゆがみを一層拡大させる危険な道です。