“軍教一体化”先駆け
東京都教育委員会(都教委)の強い指導で強行された自衛隊駐屯地での都立高校生の宿泊防災訓練。「防災教育」といいながら、直前まで実施の事実さえも明らかにしない“秘密主義”に都民の疑念が募りました。都立高校での「自衛隊との連携」で見えてくるのは―。
写真は自衛官(左)の号令で整列する都立田無工業高校の
生徒=7月28日午前5時すぎ、陸上自衛隊朝霞駐屯地
(練馬平和委員会提供)
「右向け右」
「右向け右」。早朝5時すぎ、陸上自衛隊朝霞駐屯地(埼玉県朝霞市)の一角、まだ目の覚めきれない表情の若者の一団に飛び交う迷彩戦闘服姿の自衛隊幹部の号令。
新入隊員の儀式ではありません。都立高校生を自衛隊駐屯地内に宿泊させ、自衛隊員から「防災訓練」の指導をうける「宿泊防災訓練」のひとこまです。
宿泊防災訓練を実施したのは都立田無工業高校(池上信幸校長)。7月26日から2泊3日の日程で同校の生徒35人が駐屯地内に宿泊。開会式で自衛隊幹部が「慣れない場所で慣れない訓練だが、頑張るように」と“訓示”しました。
校長名で都教委に提出した書類によれば目的は「さまざまな災害を想定した訓練を実施するに当たり、災害復興などを視野に入れた体験活動を体験させ技術の向上を図る」。
目的は万人が同意できるものです。にもかかわらず都教委はこの訓練を隠しました。
日本共産党都議団や一部マスコミの問い合わせに都教委は「全体の訓練が終わる来年3月に公表したい」(7月23日)と口を閉ざしました。
ところが翌24日午前、「(防衛省との)日程調整がついた」として訓練スケジュールを突然、公表しました。訓練の2日前です。
田無工業高校の池上信幸校長は本紙の取材にこう回答しました。
「職員会議で自衛隊は軍事組織であり問題だ、という反対意見はあったが、自衛隊は法律による国の機関。(自衛隊との連携は)都教委の高校改革で打ち出されていることを踏まえ、校長の判断で実施を決めた」
都立高校改革推進計画―。昨年2月に作成。この中で東日本大震災をきっかけに、生徒の防災技術の向上を図るとして「自衛隊などとの連携」による校外での宿泊防災訓練の実施、「防災教育推進校」の指定を打ち出しています。田無工業高校は指定校の一つ。
発案者は…2年間は兵役、消防、警察に強制的に(体験を)やったらどうか
発案者は石原慎太郎前都知事とその直系の猪瀬直樹都知事です。石原氏は在任中、「今の若者には意欲がない。高校を卒業したら韓国のまねではないが、2年間は兵役、消防、警察に強制的に(体験を)やったらどうか」(教育再生・東京円卓会議、2011年11月16日)と提案。これを猪瀬知事が「都立高校改革」として具体化しました。
来年2月も
宿泊防災訓練中、朝霞駐屯地の周辺で幹部自衛官が口にしたのは「自衛隊は防衛機関だ。防災訓練は消防だろう」「高校生だろうが体験入隊の扱いだ」
都立田無工業高校は、来年2月にも自衛隊との2回目の防災訓練を予定、「防衛省と連携しながら具体化を調整中」としています。
杉並区内の都立高校教諭(55)はこう力をこめました。
「安倍政権が改憲して『国防軍』にするという自衛隊を、教育に取り込むという戦後一貫して許さなかった“軍隊と教育の一体化”を都立高校が先鞭(せんべん)をつけるのか。訪米経験のある同僚は、こう言っている。『あの軍事大国ですらリクルート以外に軍隊と学校教育との接点はない』」