『物価とは何か』を読んだ。タイトルを見て今更物価問題でもあるまいと思ったが、読んでみるとなかなかの内容である。以下、簡単にそのダイジェストを紹介する。
そもそも物価の反応は鈍いものである。そのことを最初に指摘したのはケインズである。彼は価格が1ミリも動かないという前提でマクロ経済学を構築した。 ところが、価格変動の鈍さに関する問題は長い間放置されてきた。ミクロとマクロをつなぐ研究がなされてこなかったのである。
その研究が本格的に進んだのは2000年以降である。 日本はバブル崩壊以降長い間デフレ経済に悩まされてきたが、いくら金融緩和をしても物価が上がらない。フィリップス曲線を調べてみると平たん化しているのがわかる。
金融緩和によって失業率は低下しているものの、物価にはほとんど影響を及ぼしていない。なぜ金融緩和は物価上昇に効果がないのか。著者はこの問題を「屈折需要曲線」を用いて説明する。
いま、価格がA点にあるとする。経済にデフレ傾向が定着してしまうとどういう現象が起こるのか? 例えばコスト上昇を値上げによってカバーしようとすると、ほかの店は値上げに追随しないため、客はほかの安い店に逃げてしまう。一方、消費者は1円でもいいから安い店を探して購入しようとするため、値下げに対してはほかの店も対抗して値下げしてくる。その結果、需要曲線は通常の形ではなく、上の図のような屈折した形になる。
こうした実例が鳥貴族の値上げに見られる。下図から、4パーセントの値上げが15パーセントの客離れ、したがって売り上げの減少を引き起こしていることがわかる。
値上げすると客離れが起きる。かくして、客に気づかれないように価格を据え置いて量を減らす「ステルス値上げ」が横行するようになった。
経済学はまだまだ未知の分野がたくさんある。値上げするとなぜ客離れが起きるのか。長引くデフレ、ゼロ金利政策、少子高齢化の進展、財政赤字の問題など、日本は「課題先進国」である。