375's MUSIC BOX/魅惑のひとときを求めて

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名曲夜話(27) グリエール ハープ協奏曲、コロラトゥーラソプラノと管弦楽のための協奏曲

2007年12月27日 | 名曲夜話① ロシア・旧ソ連編


グリエール ハープ協奏曲+コロラトゥーラソプラノと管弦楽のための協奏曲
ハープ協奏曲変ホ長調(作品74)
1.Allegro moderato  2.Tema con variazioni  3.Allegro giocoso
コロラトゥーラソプラノと管弦楽のための協奏曲(作品82)
1.Andante  2.Allegro
レイチェル・マスターズ(ハープ)
アイリーン・ハルス(ソプラノ)
リチャード・ヒコックス指揮 シティ・オブ・ロンドン・シンフォニア
録音: 1992年 (CHANDOS CHAN 9094)
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帝政ロシア時代から、革命後の旧ソ連時代にかけて、息の長い作曲活動を続けたレインゴリト・グリエール。その作風は、19世紀のロシア国民学派と、ドイツ・ロマン派の作風を色濃く引き継いでおり、すでにシェーンベルクの十二音技法を始めとする前衛的な音楽が登場していた時代としては、いささか古めかしすぎたかもしれない。2歳年長のラフマニノフと同様に、遅れてきたロマン派と見なされ、音楽史上での評価を割引されているのは事実だろう。

しかし、本当にいい音楽というものは、アカデミックな評価を超越する。今まであまり注目されなかった曲が、たまたま映画音楽に使われたのをきっかけにブレークするというのも、珍しい話ではない。いい音楽とは、「古いか、新しいか」ではなく、今に生きる現代人が聴いて感動するか、否か。作風が古かろうが、多くの人々を感動させる要素があるならば、それは立派に、後世に残りうる作品となるのである。

そういう観点に立てば、グリエールは、その本来の魅力を再発見されつつある作曲家と言えるだろう。すでに名曲夜話でも紹介しているイリヤ・ムロメッツ』、『赤いけしの花』、『青銅の騎士といった代表作はもちろんのこと、今回紹介するハープ協奏曲、『コロラトゥーラソプラノと管弦楽のための協奏曲の2曲も、実際に聴いてみれば、いずれも「目から鱗」、あまり知られていないのが不思議な名曲、という感想を持つ人が多いのではなかろうか。

ハープ協奏曲は、第2次世界大戦の直前、1938年(作曲者63歳)に書かれた。普通は滅多にソロ楽器として使われることのないハープが、ここでは見事にヒロインを演じている。

第1楽章では、銅鑼の鳴るような冒頭に続いて、優雅で美しく、しかも力強いハープの旋律が歌われる。ゆったりとした第2主題の、木管とハープの掛け合いも聴きもの。ハープをピアノに置き換えれば、ラフマニノフのピアノ協奏曲とも見まごうかのような、濃厚な19世紀ロマンの世界が展開する。

第2楽章。低弦による導入部に続いて、一度聴いたら忘れることのできない、印象的な旋律がハープのソロで歌われる。このテーマを受けて、6つの変奏曲が展開されるのだが、その美しさは全曲中の白眉だ。まるで、彼岸世界の夕暮れのような至福が続く。間違いなく、ロシア音楽史上に残る名旋律と言えよう。

第3楽章は、ロシアの民族舞踏を取り入れた、軽快な終曲。浮き立つような踊りの輪は、徐々にテンポを速め、クライマックスの大円団へと盛り上がる。色鮮やかに千変万化する各楽器の絡み合いは、まさに芸術的と言うしかない。

コロラトゥーラソプラノと管弦楽のための協奏曲は、第2次世界大戦中の1942年から43年(作曲者67歳から68歳)にかけて書かれた。ここで歌われるソプラノは「あ」の母音のみ。ラフマニノフの『ヴォカリーズ』と同じように、歌詞がないゆえに、より雄弁に、言葉にならない感情を醸し出すことに成功している。

第1楽章は、深い雪に閉ざされたような、重苦しい弦楽器の合奏で始まる。ソプラノで歌われる第1主題も暗く、まるで大戦中の民衆の心理を代弁しているかのようだ。それに続く、歌謡性あふれる第2主題も、逃れることのできない現世の悲しみを、切々と訴えかける。

第2楽章は、一転して春の訪れ(戦争の終わり)を喜ぶような、明るい曲想。ついさっきまで涙にあふれていたソプラノが、突然、笑うように歌い出すので、面食らってしまうほどだ。あまりにもわかりやすい、急転直下の展開。これを聴いた当時のソ連国民が、どれほどの希望を与えられたことだろうか。

このCDの余白には、アルゼンチン生まれの作曲家ヒナステラハープ協奏曲が収録されている。こちらは、いかにも20世紀風の「ゲンダイオンガク」といった感じで、それなりに楽しめるが、グリエールに比べると、文字通り「オマケ」である。



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