375's MUSIC BOX/魅惑のひとときを求めて

想い出の歌謡曲と国内・海外のPOPS、そしてJAZZ・クラシックに至るまで、未来へ伝えたい名盤を紹介していきます。

●天才歌姫!ジャッキー・エヴァンコ特集(4) 『SONGS FROM THE SILVER SCREEN』

2014年03月29日 | ジャッキー・エヴァンコ


ジャッキー・エヴァンコ 『SONGS FROM THE SILVER SCREEN
(2012年10月3日発売) SICP-3588

収録曲 01.PURE IMAGINATION (ピュア・イマジネーション ~映画夢のチョコレート工場) 02.THE MUSIC OF THE NIGHT (ミュージック・オブ・ザ・ナイト ~映画オペラ座の怪人) 03.CAN YOU FEEL THE LOVE TONIGHT (愛を感じて ~映画ライオン・キング) 04.REFLECTION (リフレクション ~映画ムーラン) 05.THE SUMMER KNOWS (おもいでの夏 ~映画おもいでの夏) with クリス・ボッティ 06.I SEE THE LIGHT (輝く未来 ~映画塔の上のラプンツェル) with ジェイコブ・エヴァンコ 07.WHAT A WONDERFUL WORLD (この素晴らしき世界 ~映画グッドモーニング、ベトナム)  08.SE (ニュー・シネマ・パラダイス 愛のテーマ ~映画ニュー・シネマ・パラダイス) 09.MY HEART WILL GO ON (マイ・ハート・ウィル・ゴー・オン ~映画タイタニック) with ジョシュア・ベル 10.COME WHAT MAY (カム・ホワット・メイ ~映画ムーラン・ルージュ) with カナディアン・テナーズ 11.SOME ENCHANTED EVENING (魅惑の宵 ~映画南太平洋) 12.WHEN I FALL IN LOVE (恋に落ちた時 ~映画めぐり逢えたら) 

日本盤ボーナス・トラック 13.荒城の月(THE MOON OVER A RUINED CASTLE )


クラシカル・クロスオーバーの歌手たちが好んで採り上げるレパートリーのひとつに、スクリーン・ミュージック(映画音楽)がある。スクリーン・ミュージックは映画の雰囲気を盛り上げる背景音楽という役割以上に、独立した音楽作品として優れたものが多い。20世紀の中盤以降になると本流のクラシック音楽が極度に実験的な方向に傾き、一般のリスナーには難解になりすぎてしまったこともあり、もっと親しみやすく、万民に愛好される真のスタンダード音楽が求められるようになった。その一つとして脚光を浴びてきたのがスクリーン・ミュージックであり、中でもアカデミー主題歌賞クラスの名曲は、事実上クラシックと同等の音楽と見なされるようになったのである。

ジャッキー・エヴァンコは、世界で最も映画産業が盛んなショー・ビジネスの大国、アメリカで生まれ育った。現在のところ、クラシカル・クロスオーバーの分野で活躍する歌手は、歴史的にクラシック音楽の土壌が豊かな欧州勢が主流であり、ポピュラー音楽が主流のアメリカ勢はやや旗色が悪かったが、ジャッキーの登場によって今後の勢力地図が変化していくかもしれない。アメリカのクラシック・ファンにとっては、まさに期待の星なのである。

アメリカ人としてのジャッキーは、ふつうの子供と同じように、ディズニー映画やハリウッド・ムービーを日常的に楽しんでいる。それだけでも、ごく自然に歌のレパートリーが増えていくという恩恵があるかもしれない。11歳で録音したアルバム『DEAM WITH ME』には、映画『ピノキオ』の主題歌「星に願いを」が収録されているし、同時期に録音したクリスマス・アルバム『HEAVENLY CHRISTMAS』では映画『ポーラー・エクスプレス』の主題歌「BELIEVE」の見事な名演を聴くことができる。

そして12歳になって録音された新しいアルバムでは、いよいよ全曲スクリーン・ミュージックの名曲という願ってもない企画が実現されることになった。

タイトルは『SONGS FROM THE SILVER SCREEN』(日本盤タイトル『SONGS~銀幕を彩る名曲たち』)。ジャケットに使われたモノクロのポートレイトも往年のハリウッド女優さながらの美しさであり、レコード製作者が、今は失われつつあるアメリカン・ドリームの復活を、彼女に賭けているような雰囲気を感じさせる。

ここに収録された12曲(日本盤ではボーナス・トラック「荒城の月」を含む13曲)はいずれ劣らぬ名曲ぞろいだが、個人的によく愛聴するベスト3を選ぶとすれば、『オペラ座の怪人』の主題歌「ミュージック・オブ・ザ・ナイト」、『ムーラン』の主題歌「リフレクション」、『タイタニック』の主題歌「マイ・ハート・ウィル・ゴー・オン」になるだろうか。次いで、本田美奈子が日本語でカバーしている『ニュー・シネマ・パラダイス』愛のテーマも欠かすことはできない。

まず『オペラ座の怪人』の「ミュージック・オブ・ザ・ナイト」 であるが、これは本当にすごい。この曲は、オペラ座の地下深くの隠れ家にヒロインを招いた怪人が扇情的に歌うラブソングで、抑圧された感情を一気に放出するシーンで歌われる。もともと『オペラ座の怪人』は大人向けの文学作品で、幼少の子供には到底理解できそうもない苦味のあるロマンスが展開されているのだが、当時12歳のジャッキーは圧倒的な声量と陰影豊かな感情表現でこともなげに歌ってしまう。曲の終盤近くに訪れる、狂おしいほどのエクスタシーの一撃も、すさまじい迫力だ。これは滅多にお目にかかれない世紀の名演と言えるのではなかろうか。

それにも増して深い感動を呼び起こされるのが、『ムーラン』の主題歌「リフレクション」。この曲は数あるディズニー映画の主題歌の中でも1、2を争う名曲だと思う。しかも、ジャッキーの圧倒的な歌唱はオリジナル歌手の数段上を行き、まさに究極の「リフレクション」を聴かせてくれる。

女性に生まれながら男性として戦地に向かうムーランは、いわば東洋版ジャンヌ・ダルクのような存在だが、もちろん歴史上のジャンヌ同様、好きで闘っているわけではない。運命の神に選ばれてしまったがゆえに、誰にも打ち明けることのできない心の葛藤を秘めながら、与えられた役柄を演じているのである。しかし、自分の心だけはだますことができない。ふと鏡を見ると、自分をまっすぐに見つめ返す、もうひとりの自分がいる。いつになったら鏡に映る自分が、ほんとうの自分になるのだろうか・・・

人間存在の根源を問いかける深遠な歌詞。これだけの哲学的内容を封じ込めているのだから、ディズニー映画も侮れない。おそらく人生の岐路に直面するたびに、この永遠の問いかけを、ジャッキーの歌声とともに思い起こすことになるだろう。

そして『タイタニック』 の主題歌「マイ・ハート・ウィル・ゴー・オン」。世界中で大ヒットしたセリーヌ・ディオンのオリジナルは、愛の強さを前面に打ち出した名演だが、同じ曲をジャッキーが歌うと、愛の強さより、むしろ命の尊さというか、世界最大の海難事故で犠牲になったひとりひとりの魂に呼びかけるような鎮魂歌(レクイエム)の趣きを感じさせる。このような年齢に似合わない包容力の深さはデビュー当時からのジャッキーの特色であり、彼女のステージをショー・ビジネス的なパフォーマンスから、普遍的な芸術表現の次元に高めている大きな要素となっている。

エンニオ・モリコーネの名曲『ニュー・シネマ・パラダイス』愛のテーマも、大人の歌手顔負けの成熟した表現で聴かせるし、古くからの映画ファンにはお馴染みの『おもいでの夏』や『南太平洋』のような古典的名作も、完全に自分のレパートリーとして消化しているのだから、たいしたものと言うほかはない。

比較的幼少の時期から才能を発揮するアーティストは歴史上数多くいるし、これからも出てくるだろう。しかし、どんな神童と比べても、ジャッキーには特別な輝きがあると思う。 自分が50年以上の人生を歩んできて、ようやく出合った本物の天才という実感があるし、残りの人生を彼女に賭けてもいいという思いもある。無限の可能性を100%開花させるのは、まだまだこれから。今はその成長ぶりを、じっくりと楽しんでいきたいものである。



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