375's MUSIC BOX/魅惑のひとときを求めて

想い出の歌謡曲と国内・海外のPOPS、そしてJAZZ・クラシックに至るまで、未来へ伝えたい名盤を紹介していきます。

●歌姫たちの名盤(24) デビー・ギブソン 『Ms. VOCALIST -Deluxe Edition-』

2013年12月24日 | 歌姫④ 洋楽・クロスオーバー系


デビー・ギブソン 『Ms. VOCALIST -Deluxe Edition-
(2011年1月26日発売) SICP 3002~3

収録曲 01.TSUNAMI 02.SAY YES 03.I LOVE YOU 04.浪漫飛行 05.Suddenly ~ラブ・ストーリーは突然に~ 06.TRUR LOVE 07.瞳をとじて 08.桜坂 09.HOWEVER 10.ロビンソン 
Bonus Tracks 11.LOST IN YOUR EYES 2010 12.世界の誰よりきっと with Eric Martin 13.LOST IN YOUR EYES 2010 (Japanese Ver.) Bonus Tracks for the Deluxe Edition 14.ONLY IN MY DREAMS 15.SHAKE YOUR LOVE 16.OUT OF THE BLUE 17.FOOLISH BEAT

[DVD] 01.Special Interview Part 1 02.I LOVE YOU (Music Video) 03.Special Interview Part 2 04.「ベストヒット・カバー祭」ダイジェスト 03.Special Interview Part 3


戦後の日本歌謡曲史を振り返ってみると、常に何らかの形で外国からの影響を受けているのがわかる。エルヴィス・プレスリーがデビューした1956年以降、日本ではロカビリーが流行し、その後の歌謡POPSを形作る基礎となったし、ビートルズが初来日した1964年以降になると、グループサウンズが時代を牽引するようになり、その斬新なリズムが当時の若者の心を捉えていった。

日本人作曲家と作詞家による独自の歌謡曲が確立してくる1970年以降、一時的に外国の影響から遠ざかったように思われた時代もあったが、1980年代初頭に全世界を席巻したディスコ・ブームによって、日本でもディスコ歌謡と言われるジャンルが生まれ、さらにはマイケル・ジャクソンやマドンナの影響もあって、激しい動きを伴う視覚的効果の強い楽曲が増えていったのである。

このように世界的な新しい波を浴びながら、徐々に形を変えて発展してきたのが日本歌謡曲の歴史である。いつまでも昔のままの歌謡曲に固執していると生き残ることができない・・・というのは、ある意味自然な流れでもあり、それはそれで受け入れるしかない宿命であるとも言えるだろう。

そして1990年以降、昭和歌謡曲の全盛期が過ぎ去ると、いよいよ平成「J-POP」の時代となる。この「J-POP」 という音楽は、もともとは1970年代後半から台頭してきた都会派シティポップス(いわゆる「ニュー・ミュージック」)から派生してきたものだが、日本人が作った音楽でありながら、ほとんど外国曲を聴いているのと変わらないような音楽的な心地よさ(平たく言えば「カッコよさ」)を備えているのが特徴だ。単刀直入に言えば、無国籍の音楽なのである。

そのことを明白に物語るのが、英語のフレーズやカタカナによる題名の増加である。しかも、タイトルの付け方が感覚的というのか、よくわからないものが多い。

たとえば、サザンオールスターズの『TSUNAMI』であれば、まだ理解できる。歌詞の中に「津波のような侘しさに・・・」とあるので、そこから来ているのであろうと憶測できるのだが、それではスピッツの『ロビンソン』は? 歌詞をいくら熟読してもロビンソンという人名は出てこない。関連サイトを見る限りでは、一応の由来はあるらしいのだが、それを説明されても歌詞の内容が理解できるわけではない。メロディがあまりにも美しく流れるので、深い意味を考えることもなく、心地よく聴けてしまうのだが・・・

この「感覚的なカッコよさ」。これこそが、平成時代の若い世代には受け入れやすいのだろう。

さて、今回紹介するCDは、1990年以降に生まれたJ-POPの名曲を、なんとアメリカの歌姫デビー・ギブソンが歌うという企画盤である。選ばれた曲目は、いずれも男性J-POPアーティストの代表的なメガ・ヒットばかり。J-POPをあまり聴かない人でも、これなら知っているであろうと思われるほどのポピュラリティにあふれた選曲である。しかも歌詞はすべて英語バージョン。かつて1960年代初頭に外国曲の日本語訳カバー・バージョンが花盛りだった時期があったが、2008年に発売されて話題になったエリック・マーティンによる英語訳のJ-POPカバー・アルバム(こちらは邦人女性歌手のバラード曲)を先駆として、以前とは逆パターンの流れが始まりつつあるようだ。

1.『TSUNAMI』(サザンオールスターズ、2000年)
2.『SAY YES』(チャゲ&飛鳥、1991年)
3.『I LOVE YOU』(尾崎豊、1991年)
4.『浪漫飛行』(米米クラブ、1990年)
5.『ラブ・ストーリーは突然に』(小田和正、1991年)
6.『TRUE LOVE』(藤井フミヤ、1993年)
7.『瞳をとじて』(平井堅、2004年)
8.『桜坂』(福山雅治、2000年)
9.『HOWEVER』(GLAY、1997年)
10.『ロビンソン』 (スピッツ、1995年)

この中のどれが名演か? となると好みの問題になると思うが、やはりデビーの特性として、切ない情感の込められたバラード系で最も真価を発揮するようだ。本人が強くレコーディングを望んだといわれる尾崎豊の『I LOVE YOU』 は、さすがに言葉の隅々までニュアンスが行き届いており、完全に本人のレパートリーとして通用する逸品になっている。それに勝るとも劣らないのがサザンオールスターズの『TSUNAMI』と平井堅の『瞳をとじて』の2曲。どちらも英語バージョンで歌われることによって、曲自体の国際的なレベルでの素晴らしさを改めて実感させてくれる。

20世紀最後のレコード大賞受賞曲となった『TSUNAMI』は、本当の意味でレコード大賞に値する最後の曲であるし、平井堅自身の悲恋体験を音楽化した渾身の一作『瞳をとじて』は、今世紀に入ってから生まれたJ-POPの中では出色の名バラードであると思う。

上記3曲以外ではオリジナルのロック色を排除し、楽しくPOPなアレンジで歌われる『HOWEVER』 が印象的だ。正直言うと、GLAYのようなビジュアル・ロック系にはあまり興味がなかったのだが、少なくとも、これを聴くとなかなか曲作りのセンスがあるのではないか・・・と思えてくる。作品の新たな一面に光を当てていくのが表現者の役割とすれば、その点でデビーは立派に貢献していることになる。

チャゲ&飛鳥の『SAY YES』も完成度の高い名曲だけに、歌詞が英語に変わっても十分サマになっており、デビーの歌声が曲の素晴らしさを助長する。もともと英語の歌詞で作られた曲ではないかと思えるほど、隙のない仕上がりだ。

それにしても、このCDで採り上げられたアーティストたちを見ると、 世代的にはれっきとした昭和生まれであり、昭和歌謡曲の語法を十分熟知している人たちである(ちあきなおみに名曲『伝わりますか』を提供した飛鳥涼などは、むしろ歌謡曲作家であるとも言える)。そういう意味では、まだJ-POPの中でも抵抗なく聴けるほうで、いよいよわからなくなってくるのは、この次に来る世代の人たちということになるだろう。

これらの曲目を歌うデビー・ギブソンも、天才少女と騒がれて最も活躍していたのは1987年から1989年までの3年間、日本で言えば昭和の末期に当たる。その後は活動の場をブロードウェイ・ミュージカルなどに移し、単独のステージで歌う機会は少なくなった。2000年以降は新作アルバムもほとんど出していない状態だったが、今回、J-POPの名曲を英語バージョンで歌う企画を実現するにあたって、久しぶりに歌への情熱を思い出したかのように力を入れている。

J-POPカバー10曲のほかには、デビー自身の最大ヒット作である名バラード『LOST IN YOUR EYES』の新録音も収められ、天才少女から一段階成熟した艶のあるヴォーカルを聴かせてくれるし、Deluxe Editionのみに収録された『ONLY IN MY DREAMS』、『SHAKE YOUR LOVE』、『OUT OF THE BLUE』、『FOOLISH BEAT』も単なる懐メロではなく、ますます美貌に磨きのかかったデビーの新しいメッセージとして、スタイリッシュな躍動感にあふれているところが素晴らしい。

ブログ・ランキングに参加しています。
ONE CLICKで順位が上がります。

    


●歌姫たちの名盤(23) 岩崎宏美&チェコ・フィルハーモニー管弦楽団 『PRAHA -Deluxe Edition-』

2013年12月09日 | 歌姫① JAZZ・AOR・各種コラボ系


岩崎宏美&チェコフィルハーモニー管弦楽団 『PRAHA -Deluxe Edition-
(2007年9月26日発売) TECI-1161

収録曲 01.聖母たちのララバイ 02.シアワセノカケラ 03.思秋期 04.夢やぶれて I DREAMED A DREAM ~ミュージカル「レ・ミゼラブル」より~ 05.手紙 06.ロマンス 07.好きにならずにいられない 08.シンデレラ・ハネムーン 09.万華鏡 10.すみれ色の涙 11.ただ・愛のためにだけ 12.つばさ ~Dedicated to 本田美奈子.~

[DVD] 01.
聖母たちのララバイ』 ビデオクリップ 02.ドキュメンタリー・イン・プラハ -岩崎宏美ナレーション入り- 03.フォト・ギャラリー


歌謡曲とクラシック音楽。この2つのジャンルは、一見何の接点もなさそうに思える。日常的に歌謡曲を聴いたり歌ったりする人たちの中で、クラシック音楽にも造詣が深いといえる人は多くないし、コンサートに出かけても、両者の客層には明らかな違いがある。歌謡曲ファンから見ればクラシック音楽は敷居が高いように感じられるし、逆にクラシック音楽ファンから見れば歌謡曲はあまりに俗っぽいという感覚がある。それは、両方の立場を経験している筆者自身が率直に思い返すことのできる事実である。

でも、よくよく吟味してみると、歌謡曲とクラシック音楽の距離は、そんなに遠いものではないのである。俗っぽいと思われている歌謡曲の中にも格調の高い内容を歌ったものがあるし、格調が高いイメージのあるクラシック音楽も、実は意外に俗っぽい感情をモチーフにしているものが多いのだ。

クラシック音楽に近い歌謡曲・・・といえば、筆者が真っ先に思い浮かべる楽曲に、今は亡き本田美奈子が1994年に発表した「つばさ」がある。この「つばさ」を作詞した岩谷時子さんも、つい先日、天寿を全うして旅立たれてしまったが、この曲の歌詞には通常の歌謡曲に見られるような俗っぽい言葉やフレーズは一切出てこない。ここに歌われているのは、夢、希望、自由、勇気、未来、そして遥かな大空に向けての飛翔という、ベートーヴェンの第九交響曲もかくやと思われるほど格調の高いメッセージなのである。

あまりにも純粋な歌詞であるせいか、一般的な浸透度はそれほど高くないのだが、真に音楽を愛する人たちにとっては「究極の歌謡曲」ともいうべき次元に到達した数少ない一曲として、忘れることのできない地位を勝ち得ているのである。そういう意味では、歌謡曲とクラシック音楽は決してかけ離れたジャンルではないのだ。

その「つばさ」を最後の12曲目に置き、それに先立つ11曲のセルフカバーをオーケストラの伴奏で歌い、1枚のアルバムとして発表したのが、生前の本田美奈子と親しい間柄にあった岩崎宏美の『PRAHA』である。

岩崎宏美は筆者と同年生まれなので、デビュー当時から学友のような感覚がある。そして出てきた時から、同世代の歌謡曲歌手とは別次元の歌唱力を持っていた。声量が全然違うし、高音がとてつもなく伸びる。マイクなしでも十分会場の隅々にまで声が届くのではなかろうか、と思われた。芥川也寸志や山本直純といったクラシック音楽の関係者が高く評価したのもうなずける。

それだけの声量と歌唱力を持った彼女なので、プロのオーケストラと共演してもまったく聴き劣りすることがない。 ちなみに共演するオーケストラはクラシック音楽ファンにはお馴染みのチェコ・フィルハーモニー管弦楽団。ドヴォルザークやスメタナなどの東欧系はもちろんのこと、ドイツ・オーストリア系のレパートリーも得意とする。1908年にマーラーの交響曲第7番を作曲者自身の指揮で初演したのもこの楽団であるし、個人的には1960~70年代にマタチッチの指揮で録音したブルックナーの交響曲(特に第5、第7番)が屈指の名演として忘れられない。

さて、このアルバムの1曲目は、岩崎宏美の代表的ナンバー「聖母たちのララバイ」で幕をあける。いきなり60人規模のフル・オーケストラが咆哮! もともと曲自体がシンフォニックでスケールが大きいので、それこそドイツ・オーストリア系の大交響曲を聴いているような充実感がある。岩崎宏美の声量十分な伸びのある歌声も健在。響きのいいドヴォルザーク・ホールでの録音も功を奏し、稀に見る名演となった。

4曲目に収録されたミュージカル「レ・ミゼラブル」からのナンバー、「夢やぶれて」もフル・オーケストラが全開。ここでは岩崎宏美のミュージカル女優ならではの表現力によって、実にドラマチックで感動的なシーンが繰り広げられる。本田美奈子もそうだったが、岩崎宏美もミュージカルに進出してから格段に実力を上げた1人だ。一般的な印象ではヒット曲を連発していた1970年代後半から1980年代前半くらいまでが全盛期のように思われがちだが、それ以降もシンガーとしては成長を続けているのである。

「シアワセノカケラ」、「手紙」、「ただ・愛のためにだけ」の3曲はいずれも2004年以降に発表された比較的最近のオリジナルなので、昔のファンには馴染みが薄いかもしれないが、いずれもしみじみと語りかけるような趣きが印象に残る。

レコード大賞候補にもなった傑作「万華鏡」と「すみれ色の涙」は、小編成のオーケストラの演奏によって、本来持っていたメロディの素晴らしさが浮き彫りになった。こうして聴いてみると、1980年前後の昭和歌謡曲のレベルは、クラシック音楽に負けないほどの高みにまで達していたのではなかったか、とさえ思えてくる。

そして、アルバムのラストを飾るのはフル・オーケストラで演奏される「つばさ」。大空を越えて宇宙に届けとばかりに、万感の思いを込めた熱唱は、言葉では言い尽くすことのできない素晴らしさだ。もはやここには歌謡曲とクラシック音楽の境界線はなく、すべてのジャンルを超越した素晴らしい「音楽」が存在するのみである。

このアルバムが発売されたのは2007年9月。本田美奈子が天国に旅立ってから2年足らずのタイミングでもあり、当然ながら彼女へのメモリアルという意味合いもあったのだろう。「つばさ」のサブタイトルとして「~Dedicated to 本田美奈子.~」というフレーズが添えられている。

ブログ・ランキングに参加しています。
ONE CLICKで順位が上がります。