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375's MUSIC BOX/魅惑のひとときを求めて

想い出の歌謡曲と国内・海外のPOPS、そしてJAZZ・クラシックに至るまで、未来へ伝えたい名盤を紹介していきます。

名曲夜話(30) グリエール ヴァイオリン協奏曲

2008年01月19日 | 名曲夜話① ロシア・旧ソ連編

グリエール ヴァイオリン協奏曲+交響曲第2番
ヴァイオリン協奏曲ト短調(作品100)~リャトシンスキーによる補筆完成版
1.Allegro moderato 
交響曲第2番ハ短調(作品25)
1.Allegro pesante 2.Allegro giocoso  3.Andante con variazioni 
4.Allegro vivace
西野優子(ヴァイオリン)
ヨンダーニ・バット指揮 フィルハーモニア管弦楽団
録音: 2000年 (ASV CD DCAA1129)
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20世紀に作曲された最もロマンチックな協奏曲、と言えば、真っ先に浮かんでくるのがラフマニノフのピアノ協奏曲(1~4番)だと思うが、ラフマニノフと同世代の作曲家グリエールも、香り高いロマンにあふれた協奏曲を、実に5曲も残している。

①1938年(作曲者63歳) ハープ協奏曲
②1943年(作曲者68歳) コロラトゥーラ・ソプラノと管弦楽のための協奏曲
③1946年(作曲者71歳) チェロ協奏曲
④1950年(作曲者75歳) ホルン協奏曲
⑤1956年(作曲者81歳) ヴァイオリン協奏曲

いずれも、あまり演奏される機会はないが、ロシア国民学派の作風を受け継いだ色彩豊かな叙情性と、ドイツ・ロマン派風のほの暗い雰囲気を合わせ持ち、心を打つメロディーが続出する魅力作だ。ラフマニノフあたりが好きな人には、文句なしに薦められよう。

ヴァイオリン協奏曲は、作曲者の死の直前に着手された文字通り最後の作品で、第1楽章のスケッチが出来上がった時点で、作曲者は永眠。これを弟子のリャトシンスキーがオーケストレーションを施し、単独楽章の協奏曲として完成させた。

本来は複数楽章を意図した作品なので、形式的には未完成であるが、実際に聴いてみると、未完成という印象を全く与えないほど完成度が高い。グリエールのほかの協奏曲同様、ソロとオーケストラが変幻自在に絡み合う色彩感と、ロマンチックな旋律美、懐かしい叙情性に酔いしれるばかり。まさに17分30秒の至福である。

グリエールは16歳でキエフ音楽院に入学した時、最初に習った楽器がヴァイオリンだったということなので、おそらくこのヴァイオリン協奏曲は、人生最後の遺言として残しておきたかった作品なのではあるまいか。そう思って聴くと、さらに感慨深いものがある。

それにしても、時すでに1956年。第2次世界大戦も終わり、すでに人工衛星が打ち上げられている時代に、これほどロマンチックな作品が書かれていたのだ。最後のロマン派作曲家と呼ばれている作曲家は何人かいると思うが、グリエールこそ正真正銘のザ・ラスト・ロマンチック・コンポーザーかもしれない。

2002年に発売されたこのCDは、ヴァイオリン協奏曲の世界初録音である。ソロを担当するのは西野優子。わずか10歳でメンデルスゾーンのコンチェルトを演奏してデビュー。以後、日本人若手ヴァイオリニストのホープとして、世界を舞台に活躍している。

指揮者のヨンダーニ・バットはマカオ出身。リムスキー=コルサコフ、グラズノフなどのロシア系作曲家の演奏で高い評価を得ている。フレッシュな東洋人コンビでの新録音は、21世紀におけるグリエール・ルネッサンスの幕開けを予感させる。

CDの後半は、ロシア革命以前の1908年に完成された交響曲第2番。作曲者はまだ33歳と若いが、ロマンチックな作風は若い時であろうと、晩年であろうと変わらない。この曲に関しては、以前、名曲夜話(20)でズデニェク・マーツァルの名演を紹介しているが、このヨンダーニ・バットの演奏はさらにスケールが大きい。

第1楽章は、遅いテンポで地響きを立てて進軍する勇壮なテーマに圧倒されるし、第2楽章では、木管を始めとするオーケストレーションの色彩感と、ラフマニノフを彷彿させる懐かしいホルンの旋律が絶妙な絡みを聴かせる。
第3楽章は、ロシアの民謡をモチーフにした変奏曲で、アダージョの名旋律が聴きどころ。
第4楽章は、快速テンポで疾走する終曲。民族的旋律を交えながら、壮大なクライマックスを形成し、最後はリヒャルト・シュトラウスのアルプス交響曲風のモチーフが現われて幕を閉じる。

名曲夜話(29) グリエール 『青銅の騎士』(Russian Disc盤)

2008年01月09日 | 名曲夜話① ロシア・旧ソ連編


グリエール バレエ組曲『青銅の騎士』+ザポロージェのコサック
バレエ組曲『青銅の騎士』(作品89)
1.序奏 2.元老院広場にて 3.広場での踊り 4.エフゲニー 5.パラーシャ 6.抒情的な情景 7.ダンスの情景 8.占い師 9.輪踊りとダンス 10.第2の抒情的な情景 11.ワルツ 12.嵐の始まり 13.偉大なる都市への讃歌
ザポロージェのコサック(作品91)
ドミトリー・リス指揮 ウラル・フィルハーモニー管弦楽団
録音: 1994年 (Russian Disc RD CD 10 037)
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もし自分が指揮者であれば、どんな曲を演奏するだろう。クラシック・ファンであれば、一度はこんな想像をするのではないだろうか。人生でたった1回、コンサートを任されるとしたら、どのようなプログラムを組むか…。それは、なかなか楽しい想像である。

自分の場合、この名曲夜話がそうであるように、すでに有名オーケストラの定番となっている人気曲よりも、知られざる名曲に光を当てたい、という視点から曲目を決めていくだろう。もちろん、単に珍しいというだけではなく、もっと多くの人に聴いてもらいたい曲、聴いて感動することのできる曲、というのが最低条件であることは言うまでもない。

そんな中で絞っていくと、交響曲ならば、カリンニコフ第1番はぜひ演奏してみたいと思うし、管弦楽曲であれば、グリエールバレエ組曲『青銅の騎士』が筆頭候補に上がってくる。両曲とも、有名オーケストラのプログラムに載ることはほとんどないが、現時点では、すでにアマチュアのオーケストラやブラスバンドで度々演奏されるようになっており、近い将来、さらに知名度を高めていく可能性は十分にあるだろう。

さて今回は、その青銅の騎士のCDを再度採り上げてみたい。前回(名曲夜話21)、同曲のChandos盤を紹介した時、次のように書いたのを憶えておられるだろうか。

 “現時点で入手可能な唯一の音源ということもあり、グリエール・ファンには貴重なディスクである。(以前Russian Discというレーベルで、もう一種類出ていたはずだが、見かけなくなってしまった)。”

その「すでに見かけなくなってしまった」Russian Disc盤を、なんとその後、ある通販サイトを通じて、入手することができたのである。このディスクは、ロシア期待の若手指揮者ドミトリー・リスが、1994年にエカテリンブルク(旧スヴェルドロフスク)のウラル・フィルハーモニー管弦楽団を振った、正真正銘の「本場モノ」の録音だ。

前回紹介したダウンズ指揮のChandos盤は、どちらかと言えば、スマートで洗練された演奏で、美しくはあるが、やや食い足りないところがあった。それに対して、このRussian Disc盤は、低音部が生き、濃厚なロマンに満ちあふれた、いかにもロシアの楽団らしいスケールの大きな演奏。個人的な満足度では、こちらのほうが遥かに上を行き、当分手元から離すことのできない愛聴盤となった。

すでに紹介したように、この音楽は、全編聴きどころの連続だ。

ワーグナー風の勇壮な旋律の立ち上がる序奏から、一気にスピード感あふれる元老院広場にてに突入する迫力。間髪入れず、軽やかでチャーミングな広場での踊りが展開する。まさに、一部の隙もない導入部だ。

そしていよいよ、このバレエの主人公エフゲニーパラーシャが登場。それぞれの性格を現わすような、いかにもロシアン・バレエの情緒たっぷりな名旋律を聴かせる。この2人がデュエットを歌う抒情的な情景のゆったりとしたアダージョは、全オーケストラが躍動する前半部分のクライマックスとなって、聴く人の魂に訴えかける。

ダンスの情景のテンポの速いダイナミックな舞曲が、この組曲の中間部。占い師では、一転してメルヘン的な色彩美を聴かせる。ここから切れ目なく続く輪踊りとダンスはゆったりとしたワルツの旋律。ロマンチックな泣かせ節を存分に聴かせた後、さらに感動的な名旋律、第2の抒情的な情景が始まる。このあたりが、大きく盛り上がる中盤のクライマックス。切々と心にしみるロシアン・アダージョが、いつ果てるともなく続く。

ワルツは、優美な旋律が印象的なロシアン・ワルツ。クライマックス直前の、つかの間の休息といった感じだ。やがて雲行きが怪しくなり、嵐の始まりの悲愴感にあふれる音楽が始まる。そして、激しい嵐が終わると、雲間から眩しい陽の光がさすかのように、荘厳で感動的な終曲、偉大なる都市への讃歌が歌い上げられる。まさにロシア音楽史上に燦然と輝く、不朽の名作! サンクト・ペテルブルクの市歌にも採用された素晴らしい旋律が、新時代の夜明けを告げるかのように全曲を締めくくる。

このCDの後半には、1921年(作曲者46歳)に作曲されたザポロージェのコサックが収録されている。こちらも、本来はバレエ音楽として構想されたもので、ウクライナの踊りや民謡の旋律が随所に散りばめられた、ローカル色豊かな音楽だ。


名曲夜話(28) グリエール バレエ組曲『タラス・ブーリバ』

2008年01月04日 | 名曲夜話① ロシア・旧ソ連編


グリエール バレエ組曲『タラス・ブーリバ』(作品92)
1.ザポロージェのセーチに向かうコサックの騎行 2.タラス、息子たちを待つ 3.アンドリイ 4.オスタップ 5.果てしなきウクライナの草原 6.つむじ風(ゴパック) 7.グランド・アダージョ 8.マズルカ 9.ザポロージェ人の踊り
スタンコヴィッチ バレエ組曲『ラスプーチン』
1.グランド・アダージョ 2.バーニャ(ギャロップ) 3.管弦楽のためのソロ 4.イスクラの会合と赤服の詩人
ホバート・アール指揮 オデッサ・フィルハーモニー管弦楽団
録音: 1996年 (ASV CD DCA 988)
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1917年に勃発したロシア革命は、多くの芸術家を海外への亡命に追い込んだが、例外的に、ソ連に留まる道を選択した芸術家もいた。その数少ない例外の1人が、レインゴリト・グリエールである。グリエールの音楽は、19世紀以来のロシア国民学派の伝統に立脚し、ドイツ・ロマン派や印象主義の影響を受けた時期もあったが、決して「わかりやすさ」を失うことがなく、ソ連時代の厳しい当局の監視のもとにあっても、国民に活力を与える社会主義路線の模範として、常に高い評価を受け続けた。

しかしながら、実際に彼の音楽を聴いてみると、決して体制擁護的ではなく、現代に生きるわれわれの琴線にも触れるような、普遍的な魅力があることに気づく。厳しい現実を巧みに生き延びながらも、最後まで自己のアイデンティティを失うことのなかったグリエールの処世術と生きざまは、今後、もっと研究されてしかるべきではなかろうか。

ソ連時代のグリエールの魅力を端的に現わしているのは、すでに名曲夜話でも紹介している赤いけしの花』、『青銅の騎士の2大バレエ音楽であるが、それ以外にも、いくつかのバレエ音楽を作曲している。

今回紹介するのは、名作青銅の騎士から3年後、1952年(作曲者77歳)に書かれた最後のバレエ音楽タラス・ブーリバ。ウクライナ出身の原作者ニコライ・ゴーゴリ(1809-1852)の没後100年を記念し、同郷のグリエールに作曲が委嘱された4幕のバレエである。ユル・ブリンナー主演で映画にもなっているので(邦題『隊長ブーリバ』)、物語の内容はご存知の方も多いであろう。

勇猛果敢なコサック(16~17世紀にロシア農奴制の圧迫から逃れて辺境に住みついた農民の集団)の隊長タラス・ブーリバが、祖国とロシア正教の信仰を守るために、2人の息子(オスタップとアンドリイ)とともに、異教徒カトリックの国ポーランドと闘う。次男アンドリイと敵方ポーランドの総督の令嬢との恋をからめながら、典型的なコサックである隊長ブーリバの峻厳な行動を描く歴史ロマンである。

そのバレエは、今日ではあまり上演される機会がなく、組曲版のCD録音も、おそらくこれが唯一無二だと思うが、その音楽は、極めて魅力的だ。グリエールがこの曲を作曲するにあたって、ウクライナやポーランドなど、さまざまな地域の民謡を採集したと言われているが、随所にエスニック風味に満ちあふれたメロディが聴こえてくる。

わくわくするような期待感と、勇壮な足並みが交差する第1曲ザポロージェのセーチに向かうコサックの騎行。異教徒の侵略に怯える故郷の情景と、闘いを前にした悲愴な心情がほとばしる第2曲タラス、息子たちを待つ。荘重なロシアン・ワルツが印象的な第3曲アンドリイ。明るく祝祭的な第4曲オスタップ。ここまでが前半部だ。

中間部の第5曲果てしなきウクライナの草原は、広々とした中央アジアの平原を思い起こさせる、エキゾチックな情景美が聴きもの。第6曲つむじ風ゴパック)」は、テンポの速いウクライナの踊り。第7曲グランド・アダージョは、例によって、一度聴いたら忘れられないような名旋律が登場する、情感あるれるロシアン・アダージョ。このあたりが全曲中の白眉だろう。

組曲の終盤は、ポーランドの民族舞踊を主題にした第8曲マズルカ、コサック魂を最後まで貫いた隊長ブーリバを讃えるかのような、第9曲ザポロージェ人の踊りで幕を閉じる。

このCDの後半には、グリエールの孫弟子にあたる、1942年生まれの現代作曲家スタンコヴィッチのバレエ音楽ラスプーチン(組曲版は1990年完成)が収録されている。

ラスプーチンは、帝政ロシアの末期に現われた、謎の人物。放蕩の怪僧とも、魔術師とも、預言者とも言われているが、その実体は不明。音楽は、そんなラスプーチンの神秘性を表現するかのように、不気味でミステリアスな不協和音が展開する。いわゆる「ゲンダイオンガク」であるが、決してわかりにい音楽ではなく、意外に楽しめる。特に、色彩豊かな打楽器が大暴れする第2曲バーニャギャロップ)」と、雄大な旋律美が味わえる第3曲管楽器のためのソロは聴きものだ。


名曲夜話(27) グリエール ハープ協奏曲、コロラトゥーラソプラノと管弦楽のための協奏曲

2007年12月27日 | 名曲夜話① ロシア・旧ソ連編


グリエール ハープ協奏曲+コロラトゥーラソプラノと管弦楽のための協奏曲
ハープ協奏曲変ホ長調(作品74)
1.Allegro moderato  2.Tema con variazioni  3.Allegro giocoso
コロラトゥーラソプラノと管弦楽のための協奏曲(作品82)
1.Andante  2.Allegro
レイチェル・マスターズ(ハープ)
アイリーン・ハルス(ソプラノ)
リチャード・ヒコックス指揮 シティ・オブ・ロンドン・シンフォニア
録音: 1992年 (CHANDOS CHAN 9094)
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帝政ロシア時代から、革命後の旧ソ連時代にかけて、息の長い作曲活動を続けたレインゴリト・グリエール。その作風は、19世紀のロシア国民学派と、ドイツ・ロマン派の作風を色濃く引き継いでおり、すでにシェーンベルクの十二音技法を始めとする前衛的な音楽が登場していた時代としては、いささか古めかしすぎたかもしれない。2歳年長のラフマニノフと同様に、遅れてきたロマン派と見なされ、音楽史上での評価を割引されているのは事実だろう。

しかし、本当にいい音楽というものは、アカデミックな評価を超越する。今まであまり注目されなかった曲が、たまたま映画音楽に使われたのをきっかけにブレークするというのも、珍しい話ではない。いい音楽とは、「古いか、新しいか」ではなく、今に生きる現代人が聴いて感動するか、否か。作風が古かろうが、多くの人々を感動させる要素があるならば、それは立派に、後世に残りうる作品となるのである。

そういう観点に立てば、グリエールは、その本来の魅力を再発見されつつある作曲家と言えるだろう。すでに名曲夜話でも紹介しているイリヤ・ムロメッツ』、『赤いけしの花』、『青銅の騎士といった代表作はもちろんのこと、今回紹介するハープ協奏曲、『コロラトゥーラソプラノと管弦楽のための協奏曲の2曲も、実際に聴いてみれば、いずれも「目から鱗」、あまり知られていないのが不思議な名曲、という感想を持つ人が多いのではなかろうか。

ハープ協奏曲は、第2次世界大戦の直前、1938年(作曲者63歳)に書かれた。普通は滅多にソロ楽器として使われることのないハープが、ここでは見事にヒロインを演じている。

第1楽章では、銅鑼の鳴るような冒頭に続いて、優雅で美しく、しかも力強いハープの旋律が歌われる。ゆったりとした第2主題の、木管とハープの掛け合いも聴きもの。ハープをピアノに置き換えれば、ラフマニノフのピアノ協奏曲とも見まごうかのような、濃厚な19世紀ロマンの世界が展開する。

第2楽章。低弦による導入部に続いて、一度聴いたら忘れることのできない、印象的な旋律がハープのソロで歌われる。このテーマを受けて、6つの変奏曲が展開されるのだが、その美しさは全曲中の白眉だ。まるで、彼岸世界の夕暮れのような至福が続く。間違いなく、ロシア音楽史上に残る名旋律と言えよう。

第3楽章は、ロシアの民族舞踏を取り入れた、軽快な終曲。浮き立つような踊りの輪は、徐々にテンポを速め、クライマックスの大円団へと盛り上がる。色鮮やかに千変万化する各楽器の絡み合いは、まさに芸術的と言うしかない。

コロラトゥーラソプラノと管弦楽のための協奏曲は、第2次世界大戦中の1942年から43年(作曲者67歳から68歳)にかけて書かれた。ここで歌われるソプラノは「あ」の母音のみ。ラフマニノフの『ヴォカリーズ』と同じように、歌詞がないゆえに、より雄弁に、言葉にならない感情を醸し出すことに成功している。

第1楽章は、深い雪に閉ざされたような、重苦しい弦楽器の合奏で始まる。ソプラノで歌われる第1主題も暗く、まるで大戦中の民衆の心理を代弁しているかのようだ。それに続く、歌謡性あふれる第2主題も、逃れることのできない現世の悲しみを、切々と訴えかける。

第2楽章は、一転して春の訪れ(戦争の終わり)を喜ぶような、明るい曲想。ついさっきまで涙にあふれていたソプラノが、突然、笑うように歌い出すので、面食らってしまうほどだ。あまりにもわかりやすい、急転直下の展開。これを聴いた当時のソ連国民が、どれほどの希望を与えられたことだろうか。

このCDの余白には、アルゼンチン生まれの作曲家ヒナステラハープ協奏曲が収録されている。こちらは、いかにも20世紀風の「ゲンダイオンガク」といった感じで、それなりに楽しめるが、グリエールに比べると、文字通り「オマケ」である。


名曲夜話(26) ミャスコフスキー 交響曲第15番、第27番

2007年12月20日 | 名曲夜話① ロシア・旧ソ連編

ミャスコフスキー 交響曲第15番ニ短調(作品38)+交響曲第27番ハ短調(作品85)
エフゲニー・スヴェトラーノフ指揮 ロシア国立交響楽団
録音:1991-93年 (ALTO/ALC1021)
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今年(2007年)になって、ロシア=ソヴィエト音楽ファンにとっては、無視することのできない出来事があった。ロシアの名指揮者スヴェトラーノフが生前、私財を投げ打って完成したレコーディング・プロジェクト、ミャスコフスキー交響曲全集」の分売が、ついに再開されたのである。もともとのレーベル(英オリンピア)の倒産によって中断していたものが、アメリカのレコード会社(MUSICAL CONCEPTS)に引き継がれ、同じジャケットデザインで継続リリースが実現される運びとなったのだ。

ニコライ・ヤコブレヴィッチ・ミャスコフスキー(1881.4.20-1950.8.8)。近年再評価が進んでいるものの、実際には、演奏会のプログラムに載ることがほとんどないマイナーな作曲家、というのが、一般のクラシック・ファンにとっての認識だろう。

ところが生前、少なくとも1940年代までは、ペテルスブルク音楽院時代からの親友・プロコフィエフと同等の知名度があり、100年後の将来も名声が続くと期待された「人気作曲家」だった。1921年以降はモスクワ音楽院の作曲科教授として教鞭を取り、ハチャトゥリアンカバレフスキーなどの大物門下生を指導するほどの実力者。それが、1948年のソ連当局による有名な「ジダーノフ批判」を境にして、意図的に抹殺され、すっかり「忘れられた作曲家」になってしまったのである。

ミャスコフスキーの書き残した交響曲は、全部で27曲。近代においては、異例とも言える数だ。いったい、偉大な作曲家なのか。それほどでもないのか。評価もまちまちで、今ひとつ輪郭がつかめない。とにかく、一度自分の耳で聴いてみるしかないだろう、ということで、ようやく重い腰を上げて(?)、未知の大山脈に登頂する第1歩を踏み出すことにした。

まずは、今回リリースされた、第15番第27番を聴いてみる。その感想は…? 

いわゆる「不気味系」が好きな人には、イケるかもしれない、というのが実感。全体的に後期ドイツ・ロマン派風の暗い音色とポリフォニックな曲想、自己矛盾的に揺れ動く気分の変転に特徴がある。マーラーをもっと暗くしたような作風と言えようか。まだ、この2曲しか聴いていないので、この特徴がすべてではないだろうが、これ以外の作品も聴いてみたいという興味は、間違いなくそそられてくる。少なくとも、第27番に関しては、音楽史に残るべき名曲の域に達しており、今後も愛聴曲として聴き続けていくことになるだろう。

CDの前半に収録された第15番は、1933年から34年(52歳から53歳)にかけての時期に書かれた、4楽章構成の作品。

第1楽章では、古びたロシア正教会のような暗い雰囲気から、激しい戦闘の場面まで、変幻自在に移り変わる曲想が聴きどころ。
第2楽章は、死者に聴かせるような、暗く陰鬱な子守唄が延々と歌われ、中間部では恐ろしい地獄の怪物が正体を現わす。
第3楽章はワルツ。ここでも暗い雰囲気が支配的。まるで死神と踊っているかのようだ。
第4楽章は一転して、夜明けの音楽。悪夢は過ぎ去り、小鳥たちの歌う平和な森がよみがえる。最後は「苦しみから勝利へ」のテーマを強調するかのように、異様な盛り上がりを見せて終結する。

第27番は、最晩年の1949年(68歳)に書かれた、3楽章構成の作品。

第1楽章は、地下世界から湧き上がるような暗い情念のほとばしりが聴きどころ。木管のソロが、まるでこの世の思い出を振り返るように懐かしく響き、思わず涙を誘われる。
第2楽章は、音楽史上屈指のロシアン・アダージョ。浄化された魂が、遥かな天空に昇っていくような感動がある。中間部では場違いとも思える勇壮なマーチが響き、「あれっ?」と拍子抜けするが、それ以外の箇所は、マーラーの交響曲第9番の終楽章にも匹敵する素晴らしさだ。
第3楽章は、ロシア国民学派のルーツに立ち戻るかのような、土俗的なフィナーレ。27曲(40年間)に及ぶ、ミャスコフスキー・シンフォニー・マラソンのゴールを祝宴するかように、圧倒的な勝利の行進で幕を閉じる。

名曲夜話(25) リャプノフ 交響曲第2番

2007年12月17日 | 名曲夜話① ロシア・旧ソ連編

リャプノフ 交響曲第2番 変ロ長調
エフゲニー・スヴェトラーノフ指揮 フランス放送フィルハーモニー管弦楽団
録音:1998年11月27日 サン・ブレイレルでのライヴ録音
(NAIVE/V4974)
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クラシック音楽の愛聴盤を紹介する「名曲夜話(ロシア・旧ソ連編)」、久々の復活。やはり冬は、ロシア音楽を聴くのに適している季節だ。おりしも昨夜からの雪景色を窓から眺めながら、ロシア国民学派の知られざる大作、リャプノフの交響曲第2番を聴いてみる。

セルゲイ・ミハイロヴィッチ・リャプノフ(1859.11.30-1924.11.8)。モスクワ音楽院ではタネーエフに作曲を学び、リストの高弟カール・クリントヴォルトにピアノを学ぶ。卒業後、「ロシア5人組」のリーダー、バラキレフに出会い、その後は優れたピアニストとして活躍した。作曲活動も、ピアノ曲の分野が中心だったが、以前も名曲夜話で紹介したように、師であるバラキレフは、これから音楽を志そうとする弟子には、まず始めに、交響曲の作曲を勧めていた。リャプノフも、その例に漏れず、2曲の交響曲を残している。

交響曲第1番は、青年時代の1887年(28歳)に完成。師バラキレフや、5人組の同志ボロディンの感化を受けた、典型的なロシア国民学派の音楽。ただ、リャプノフにとって、交響曲作曲は、必ずしもメインストリームではなかったのだろう。ここに紹介する交響曲第2番が完成した時、すでに晩年の1917年(58歳)になっていた。

しかも、この1917年というのは、あのロシア革命が勃発した年。当時リャプノフは、サンクト・ペテルブルグ音楽院で教鞭を取っていたが、1923年にフランスのパリに亡命。当地でロシア亡命者のための音楽学校を組織し、その翌年に心臓発作で急死してしまった。

そういうわけで、この交響曲第2番は演奏されることなくお蔵入りとなってしまう。ようやく陽の目を見たのが、作曲後34年の1951年。エフゲニー・スヴェトラーノフ指揮レニングラード・フィルの演奏で、ようやく実際の音となって鳴り響いたのである。

このCDは、世界初演を果たしたスヴェトラーノフ指揮による、フランス放送フィルハーモニー管弦楽団とのライヴ録音。この演奏が行なわれた1998年は、なんとスヴェトラーノフ自身もロシア国立管弦楽団を「破門」され、西ヨーロッパに活動の場を移していた時期だった。(そのあたりの陰謀の裏話が、スヴェトラーノフによる手記の形で、このCDのブックレットに紹介されている)。

作曲者リャプノフが客死した、因縁の地パリでの演奏。フランスのオーケストラながら、スヴェトラーノフの棒のもと、ちゃんとロシアの音色を出しているのが興味深い。

第1楽章の開始では、バラキレフの交響曲第1番によく似たモチーフが、木管で静かに歌われる。悲劇的な主部を彩る、豪快なブラスの響きも心地よい。第2楽章スケルツォでは、怒涛のように打ち込まれるティンパニが物をいい、第3楽章では、待ってましたとばかりに、典型的なロシアン・アダージョが切々と歌われる。

第4楽章フィナーレは、リムスキー=コルサコフの「クリスマス・イヴ」あたりを連想させるような祝祭的な雰囲気。全体的には、リャプノフならではと言えるほどの独創性は確立しておらず、それゆえに、今後もメジャーな作曲家としての地位に昇格するのは難しいだろうが、ロシア国民学派の伝統を受け継ぐ最後の交響曲の一として、ロシア音楽ファン、あるいはスヴェトラ・ファンであれば、ぜひコレクションに加えておきたい一品である。

名曲夜話(24) ハチャトゥリアン ヴァイオリン協奏曲

2007年04月15日 | 名曲夜話① ロシア・旧ソ連編

ハチャトゥリアン チェロ協奏曲+ヴァイオリン協奏曲
チェロ協奏曲ホ短調
1.Allegro moderato  2.Andante sostenuto  3.Allegro a battuta
ヴァイオリン協奏曲ニ長調
1.Allegro con fermezza 2.Andante sostenuto  3.Allegro vivace
ダニエル・ミューラー=ショット(チェロ)
アラベラ・シュタインバッハー(ヴァイオリン)
サカリ・オラモ指揮 バーミンガム市交響楽団
録音: 2003年 (ORFEO C623 041A)
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クラシック音楽を聴いていく道しるべの一つとして、「好きな演奏家を追いかける」という方法がある。特に、協奏曲というジャンルは、ソロの名技が最大の聴きどころなので、当然、ソリスト中心にCDを選ぶことになるし、指揮者に関しては、ちゃんとサポートしてさえくれれば、特に誰であってもかまわないということになってくる。

自分の場合、最初に好きになったヴァイオリニストは、チョン・キョンファだった。特に、シベリウスのヴァイオリン協奏曲。これはもう、衝撃的と言ってもいいほどである。それ以外にも、チャイコフスキー、メンデルスゾーン、ベートーヴェン、プロコフィエフ(1番、2番)、…と、代表的なヴァイオリン協奏曲は、ほとんど彼女の演奏がファーストチョイスになっている。

そのチョン・キョンファも、最近は、すっかり新譜から遠ざかってしまった。考えてみれば、1948年生まれなので、今年59歳。CD業界としても、若年購買層にアピールするために、若い演奏家を発掘しなければならないので、録音に関しては一段落というところだろうか。こちらとしても、そろそろ「新しいアイドル(?)」を探さなければならないかな、…と思っている矢先に登場したのが、2004年、ドイツのオルフェオ・レーベルから、ハチャトゥリアンのヴァイオリン協奏曲でCDデビューした、アラベラ・シュタインバッハーだった。

彼女との出会いのきっかけは、チャーミングな横顔のジャケットだった。いわゆる「ジャケ買い」である。しかし、聴いてみると、艶のある音色が美しく、さわやかな味わいに惹かれた。そして、あとから知ったのだが、彼女はドイツ人の父と日本人の母の間に生まれ、「美歩」という日本名も持つ、期待の若手ヴァイオリニストだったのだ。

ハチャトゥリアンのヴァイオリン協奏曲は、20世紀の同じ分野における作品としては、シベリウス、プロコフィエフと肩を並べる傑作であり、初演者のオイストラフに始まって、多くの名ヴァイオリニストが録音を残している。

第1楽章の、民族舞曲のリズムにのって進行する第1主題。抒情的な、しみじみと心に訴えかける第2主題。どちらも名旋律と呼ぶにふさわしい。第2楽章は、独奏ヴァイオリンによる、中央アジア風のワルツの主題が魅力。第3楽章は、活気あふれる、祝祭的なロンドとなる。

この協奏曲は、チョン・キョンファの録音がないので、ちょうど、この「美歩さん」のCDが空白を埋める形で、愛聴盤になっている。彼女のハチャトゥリアン以後のリリースを見ると、2005年にミヨーのヴァイオリン協奏曲(1番,2番)、2006年にショスタコーヴィッチのヴァイオリン協奏曲(1番、2番)、と渋いところで勝負しているのも個性的で、今後の録音がますます期待されるのである。

また、日本公演のほうも、2006年に続き、2007年10月で決定しているようだ。当分、NYCには来る予定がないので、日本に住んでいる人たちがうらやましい気がするが、いつの日か、実演を観にいきたいアーティストの1人である。

尚、このCDの前半には、彼女と同じくミュンヘン出身の若手チェリスト、ダニエル・ミューラー=ショット独奏によるチェロ協奏曲も収録されている。こちらも、聴けば聴くほど渋味にあふれ、チェロ特有の「モノローグの美学」を堪能できる傑作である。

参考サイト

アラベラ・シュタインバッハーの公式ホームページ(ドイツ語・英語)

名曲夜話(23) ハチャトゥリアン 交響曲第2番 『鐘』

2007年04月13日 | 名曲夜話① ロシア・旧ソ連編


ハチャトゥリアン 交響曲第2番『鐘』+『スターリングラードの戦い』組曲
交響曲第2番イ短調 『鐘』
1.Andante maestoso 2.Allegro risoluto 3.Andante sostenuto 
4.Andante mosso - allegro sostenuto. Maestoso
『スターリングラードの戦い』 -映画音楽からの組曲-
1.ヴォルガのほとりの町 2.侵略 3.炎上するスターリングラード 4.祖国防衛線 5.勝利へ
ロリス・チェクナヴォリアン指揮 アルメニア・フィルハーモニー管弦楽団
録音: 1993年 (ASV CD DCA 859)
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ハチャトゥリアンは『ガイーヌ』などのバレエ音楽以外に、交響曲の分野でも傑作を残している。完成された交響曲は、全部で3曲。そのうち、1934年に作曲された交響曲第1番は、モスクワ音楽院の卒業作品として書かれた。アルメニア地方の民族的旋律が散りばめられた初期の佳作で、のちの『ガイーヌ』を予見するような箇所もある。今のところ、録音は少なく、チェクナヴォリアン指揮アルメニア・フィルハーモニー管弦楽団の演奏くらいしか、目ぼしいものが見当たらない。

それに対して、第2次世界大戦中の1943年に完成された交響曲第2番は、作曲当初から比較的ポピュラーで、CDの種類も多い。ここでは、前回同様、チェクナヴォリアン盤を紹介しておこう。カップリング曲の『スターリングラードの戦い』と合わせて、戦争を題材とした2大傑作が1枚で聴けるという組み合わせが素晴らしい。

この交響曲の『』という標題は、ハチャトゥリアン自身が付けたものではなく、作品の中で、印象的な響きをもたらす鐘の効果音に由来するニックネームである。

第1楽章は、その「鐘の響き」を含んだ、巨大な轟音の中で開始される。いきなり戦場に放り出されたような戦慄に、全身が凍りつくようだ。序奏部に続く、チェロのモノローグは、戦いに向かおうとする兵士の心象風景を表わしたものだろうか。速いテンポの主部に入ると、差し迫った緊張感が一層高まっていく。

第2楽章は、砲弾の飛びかう中、銃をかかえて敵陣に突撃していくようなスケルツォ楽曲。ソロ・ピアノの突然の乱入など、予断を許さない展開が続く。

第3楽章は、荒れ果てた焼け野原の道を、無数の戦死体が運ばれていくような、不気味な葬送行進曲。呆然自失のまま、あてどもなく彷徨っているようでもある。そして突然、阿鼻叫喚の地獄絵図を眼前にするかのような、壮絶なクライマックスに突入する。

第4楽章。冒頭に鳴り響くのは勝利のファンファーレだろうか? 勇壮なテーマではあるのだが、決して勝ち誇るような調子ではない。むしろ、消しがたい深い傷を負っているような悲壮感がつきまとう。コーダでは、第1楽章冒頭の鐘の音が、戦争の犠牲者を弔うように鳴り響き、すさまじいクレッシェンドの果てに終幕を迎える。

それにしても、なんというシリアスな作品であろうか。ハチャトゥリアンは『ガイーヌ』などのバレエ音楽だけを聴いていると、ソ連体制に順応するエンターテイナーと思われがちだが、それはあくまで「仮面」であり、実際は、ショスタコーヴィッチがそうしてきたように、彼も、彼なりに闘っていたのではないだろうか。この交響曲第2番には、作曲者の本音である反戦へのメッセージが、垣間見えるように思えてならない。

一方、カップリング曲『スターリングラードの戦い』は、同じく戦争をテーマにした音楽ではあっても、映画音楽として作曲されただけに、もっと平明なわかりやすさがある。

祖国の兵士を激励するような、力強い行進曲「ヴォルガのほとりの町」。
ナチスドイツの軍隊が進軍するようなスケルツォ曲「侵略」。
砲火を浴びて激しく燃え上がる町を、悲劇的に描写する「炎上するスターリングラード」。
祖国を守るため、起死回生の反撃を開始する「祖国防衛線」。
そして、血沸き肉踊るような凱旋行進曲「勝利へ」。最後は、冒頭で奏されたヴォルガ河のテーマが高らかに再現され、圧倒的な盛り上がりのうちに幕を閉じる。


名曲夜話(22) ハチャトゥリアン 『ガイーヌ』、『スパルタカス』

2007年04月09日 | 名曲夜話① ロシア・旧ソ連編

ハチャトゥリアン 『ガイーヌ』第1組曲+『仮面舞踏会』+『スパルタカス』
『ガイーヌ』第1組曲
1.剣の舞 2.バラの乙女たちの踊り 3.山岳人の踊り 4.子守歌 5.レズギンカ
『仮面舞踏会』組曲
1.ワルツ 2.夜想曲 3.マズルカ 4.ロマンス 5.ギャロップ
『スパルタカス』組曲
1.エリナのバリエーションとバッカス祭り 2.情景とクロタルを持った踊り 3.スパルタカスとフリーギアのアダージョ 4.ガディスの娘の踊りとスパルタカスの勝利
イッポリトフ・イヴァノフ 『コーカサスの風景』
1.峡谷にて 2.村にて 3.たそがれ 4.酋長の行列
ロリス・チェクナヴォリアン指揮 アルメニア・フィルハーモニー管弦楽団
録音: 1991年 (ASV CD DCA 773)
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アラム・イリイチ・ハチャトゥリアン(1903.5.24-1978.5.1)は、グルジア出身、アルメニアの作曲家。旧ソ連圏の作曲家としては、カバレフスキー(1904年生まれ)、ショスタコーヴィッチ(1906年生まれ)と同世代になるが、作風はむしろ、28歳年長のグリエールの国民学派的傾向を相続し、社会主義リアリズムの路線に従いながらも、出身地のカフカス地方(グルジア、アルメニア、アゼルバイジャン)の民俗音楽を取り入れた、独自の個性を確立している。

ハチャトゥリアンの音楽を聴くと、「血沸き肉踊る」という感じで、限りなくhighになる。クラシックというよりは、サイケデリック・ロックに近い感覚だろうか。実際、「剣の舞」あたりは、ジャズ・ミュージシャンやロック・アーティストもカバーしており、今や音楽のジャンルを越えた傑作として、知られるようになっている。

自分にとって、ハチャトゥリアン体験の最初の1枚が、1991年に発売された、アルメニアの熱血指揮者ロリス・チェクナヴォリアン指揮する、『ガイーヌ』、『仮面舞踏会』、『スパルタカス』の組曲集である。このCDで初めて聴いたアルメニア・フィルハーモニー管弦楽団の演奏は、破天荒で強烈。まったく洗練されていない原色のサウンドで、一気呵成に突き進む迫力は、このオケ独特のものだ。

ハチャトゥリアンの音楽は、個性が強いだけに、好みは分かれるかもしれない。しかし、一度ハマってしまうと、なかなか抜け出せなくなるのが、この音楽史上稀に見る、究極のイケイケ音楽の魔力なのである。

ガイーヌ第1組曲
ハチャトゥリアンは、1939年にバレエ第1作『幸福』を作曲したが、1942年に改訂。これが、代表作として誉れ高い『ガイーヌ』となった。コルホーズ(死語?)で働く綿つみの若い女性ガイーヌを主人公に、革命後のアルメニア地方の農民生活を描いたバレエであるが、現在ではバレエそのものはほとんど上演されず、通常は初演直後にまとめられた組曲版が演奏される。

このCDに収められた第1組曲は、怒涛のごとく突き進む、有名な「剣の舞」に始まり、民族色豊かなアンダンテ楽曲「バラの乙女たちの踊り」、野性的なリズムで駆け抜けるスケルツォ楽曲「山岳人の踊り」、郷愁あふれるアダージョ楽曲「子守唄」と続き、最後はアルメニア民族大爆発の終曲「レズギンカ」で幕を閉じる。

仮面舞踏会組曲
レールモントフの戯曲のために作曲した劇音楽を、1943年に5曲を選んで組曲の形にまとめたもの。帝政ロシアの貴族社会を、その社交生活を通して批判的に描いたものであるが、音楽もその内容を反映して、どちらかといえば19世紀西欧風のスタイルを取り入れようとしている。その分、一般的には親しみやすいかもしれない。

ただ、西欧風とは言っても、決して洗練されないところがハチャトゥリアンの個性で、「ワルツ」なども、チャイコフスキーのそれより、土俗的な重量感がある。

スパルタカス組曲
古代ローマの奴隷反乱の主役となった剣闘士スパルタカスを、社会主義革命の英雄に見立て、1954年に作曲されたバレエ巨編。異様なほどにエネルギッシュな音楽が全編に燃え上がるこの作品は、バレエそのものもよく上演され、組曲版の人気も高い。これこそ、ハチャトゥリアンの集大成的な傑作と言えるだろう。

この組曲に収められた4曲はどれも素晴らしいが、中でも白眉と言えるのが、やはり「スパルタカスとフリーギアのアダージョ」。その切々と心に訴えかける感動的なメロディは、数あるロシアン・アダージョの中でも5本の指に入るのではなかろうか。

このCDには、オマケ(?)として、ロシア国民学派の流れをくむ作曲家イッポリトフ=イヴァノフ(1859.11.19-1935.1.28)の代表作『コーカサスの風景』がカップリングされている。正直言うと、このCDは、ハチャトゥリアンの3つの組曲だけで満腹になってしまい、最後に収められたこの作品までは、たどり着かないことが多い。だが、よく聴いてみると、詩情あふれる、なかなかの名作。特に、「酋長の行列」のメロディは、誰もがどこかで聴いたことがあるだろう。

名曲夜話(21) グリエール バレエ組曲『青銅の騎士』

2007年04月03日 | 名曲夜話① ロシア・旧ソ連編

グリエール バレエ組曲『青銅の騎士』+ホルン協奏曲
バレエ組曲『青銅の騎士』(作品89)
1.序奏 2.元老院広場にて 3.広場での踊り 4.エフゲニー 5.パラーシャ 6.抒情的な情景 7.ダンスの情景 8.占い師 9.輪踊りとダンス 10.第2の抒情的な情景 11.ワルツ 12.嵐の始まり 13.偉大なる都市への讃歌
ホルン協奏曲変ロ長調(作品91)
リチャード・ワトキンス(ホルン)
サー・エドワード・ダウンズ指揮 BBCフィルハーモニー管弦楽団
録音: 1994年 (Chandos CHAN 9379)
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帝政ロシアの末期を飾る大交響曲『イリヤ・ムロメッツ』、革命以後のソ連を代表するバレエ音楽『赤いけしの花』で、大作曲家としての地位を揺るぎないものとしたグリエールは、70歳を越えた晩年になっても、衰えることなく、傑作を生み続けた。

プーシキンの詩に霊感を受けたバレエ音楽、『青銅の騎士』(1949年)。
ソリストの超絶的なテクニックを必要とする、『ホルン協奏曲』(1950年)。

この20世紀中期の2大傑作をカップリングにしたCDが、サー・エドワード・ダウンズ指揮BBCフィルハーモニー管弦楽団による演奏である。このCDが1995年に発売されて間もなく、『青銅の騎士』の音楽に感動した人たちが、これを吹奏楽用に編曲。またたく間に、日本全国の中学・高校・大学の吹奏学部の定番曲となった。

青銅の騎士』は、現時点で入手可能な唯一の音源ということもあり、グリエール・ファンには貴重なディスクである。(以前Russian Discというレーベルで、もう一種類出ていたはずだが、見かけなくなってしまった)。学校で吹奏楽を経験している人たちにとって、グリエールはすでに人気作曲家の地位にあるが、一般的なクラシック・ファンの間では、まだまだマイナーな存在かもしれない。これほど素晴らしい作曲家の音楽がなかなか演奏されないのは、不思議としか言いようがないが、少なくとも『赤いけしの花』と『青銅の騎士』の2大バレエ組曲だけは、通俗名曲として親しまれる要素は十分にあるだろう。

青銅の騎士』とは、ロシアのサンクト・ペテルブルク市の元老院広場に立つピョートル大帝の銅像のこと。物語の主人公エフゲニーは、洪水で恋人パラーシャを失い、ついには幻想の中で、青銅の騎士に追いかけられるようになる。狂気の人となったエフゲニーは、人工都市の創造者として君臨する青銅の騎士像との対決に向かっていく…というストーリーだが、その音楽は、全編聴きどころの連続だ。

重々しいオープニングから、タンホイザーのような勇壮な旋律の立ち上がる「序奏」。テンポの速い、活気のある踊りを繰り広げる「元老院広場にて」。軽やかで、チャーミングなリズムが印象的な「広場の踊り」と続き、このバレエの主人公エフゲニーパラーシャの登場となる。それに続く、「抒情的な情景」のゆったりとしたアダージョは、いかにもロシア情緒にあふれる名旋律で、前半部分のクライマックスを形作る。

中間部分の「ダンスの情景」は、交響曲で言えばスケルツォに相当するダイナミックな舞曲。メルヘン的な色彩美に富む「占い師」を経て、切れ目なく「輪踊りとダンス」が始まる。この部分と「第2の抒情的な情景」は、大きく盛り上がる中盤のクライマックス。切々と心にしみる名旋律が、いつ果てるともなく続く。

ワルツ」は、チャイコフスキー以来の伝統を受け継ぐ優美なロシアン・ワルツで、後半部分のオアシスとも言える部分。「嵐の始まり」は、風雲急を告げるかのような、悲愴感にあふれる音楽。そして最後は、ロシア音楽史に燦然と輝く感動の終曲「偉大なる都市への讃歌」で、全編を締めくくる。(その素晴らしいメロディは、サンクト・ペテルブルクの市歌にも採用された)。

CDの後半に収録された『ホルン協奏曲』は、数あるホルン協奏曲の中でも、モーツァルトやR・シュトラウスと肩を並べる傑作。名手ヘルマン・バウマンのCDも出ているが、このCDでのトキンスのソロも素晴らしく、何度聴いても飽きが来ない。

この曲は、第1楽章アレグロのメインテーマがカッコよく、父親から受け継いだドイツの血を思い出させる。そして、哀愁あふれるホルンの名旋律。第2楽章アンダンテでは、しみじみと心に訴えかける歌が美しく、第3楽章モデラート~アレグロ・ヴィヴァースでは、変幻自在で味の濃いホルンの名人芸をたっぷりと堪能できる。