★久米小百合 『天使のパン』
(2009年6月24日発売) MDCL-1495
収録曲 01.アメイジング・グレース 02.聖なる 聖なる 聖なるかな 03.天使のパン 04.丘の上に立てる十字架 05.イエスはそばに 06.いつくしみ深き 07.道化師の夜 08.少年 09.Pane E Pesce 10.グリーンスリーブス(What Child is this?) 11.主のまことはくしきかな 12.ああベツレヘムよ 13.主われを愛す 14.イエスはそばに[English version] 15.イエスはそばに[Korean version]
前作『はじめの日』から、さらに13年を経て、久米小百合名義の第3アルバムが発売された。今年(2009年)は、シンガーソングライター・久保田早紀が『異邦人』でデビューしてちょうど30年。久保田早紀時代は5年間で7枚のアルバムを生み出したが、音楽伝道師・久米小百合となってからは、25年間の活動でわずか3枚という寡作ぶり。もちろん商業ベースに乗せようという意図はなく、神とイエスに仕える者としての奉仕の一環なので、あくまでマイペースだ。
今回のアルバムは、『アメイジング・グレース』や『グリーンスリーブス』といった昔から歌い継がれてきた讃美歌と、久米小百合オリジナルの5つの新曲(『天使のパン』、『イエスはそばに』、『道化師の夜』、『少年』、『Pane E Pesce』)を織り交ぜたものとなっている。中でも『イエスはそばに』は、日本語版のほか英語版と韓国語版も収録され、このアルバムの中心的な位置を占める。まさに讃美歌クリエーター・久米小百合としての「今」を代表する作品と言ってもいいであろう。
一方、『道化師の夜』は、1996年のローマ旅行の際に作られた曲。イエスを救い主と気付かず十字架につけてしまったローマの人々と、行き場のない時代に魂を切り売りしながら生きる現代人を「道化師」として重ね合わせ、深い詩的表現を切り拓いている。かつての久保田早紀を彷彿とさせるような不思議なメロディと相まって、ひときわ印象に残る傑作だ。
標題作の『天使のパン』も、宇宙からの視点で地球が描かれていて、実に見事。「地図帳みたいに、いろんな国がいろんな色で塗り分けられちゃいない」。まさにそうだ。そういえば、久保田早紀時代の趣味は天体観測。月刊「天文ガイド」にもインタビュー記事が載っていたのを思い出す。
それにしても、アルバム全曲を通じて特筆すべきは、30年前のデビュー当時から変わることのない、澄み切った哀愁あふれる歌声。機会があれば、一度生でチャペルコンサートを聴いてみたいと願わずにはいられない。
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★久米小百合 『はじめの日』
(1996年2月25日発売) MDCL-1401
収録曲 01.とおきくにや 02.Hikari 03.優しさの秘密 04.TOKYO 05.はじめの日 06.いつでも・・・ 07.サテライト 08.マリア 09.エンジェル・ソング 10.銀色星のテーマ 11.ル・アハ 12.Terah 13.あなたを賛美しなければ
『テヒリーム33』から9年後、1996年にリリースされたオリジナル・ゴスペル集。前作は既存の讃美歌をアレンジしたアルバムだったが、こちらは13曲中10曲が久米小百合自身の手になる曲で占められており、実質的には「久保田早紀12年ぶりのオリジナル・アルバム」とでも呼びたいような内容になっている。
冒頭の曲『とおきくにや』は、キリスト教会の中で長く親しまれてきたトラディショナルな聖歌。日本語の歌詞は関東大震災のあとで付けられたという。そういえば、このアルバムが製作されたのも、1995年の阪神淡路大震災から間もない時期。「揺れ動く地に立ちて なお十字架はかがやけり」という言葉に、同時性の救いのメッセージが秘められているのは、もちろん偶然ではあるまい。
4曲目の『TOKYO』は、現代に生きる女性の目から見た大都会のワンシーンで、その作風は、かつての久保田早紀そのもの。それもそのはず、この曲が書かれたのは、まだシンガーソングライターとして活躍していた1980年代中頃なのだ。一方、7曲目の『サテライト』は1990年代の初め、湾岸戦争の衛星中継を見たのをきっかけに作られた曲。こうして見ると、時代の流れと密接に結びついた作品が多く集められていることに気づく。
もちろん、ゴスペル本来の神とイエスを賛美する正統的な作品も含まれている。その中でも、旧約聖書の創世記に霊感を得た『はじめの日』(5曲目)と『ル・アハ』(11曲目)は新鮮だ。人間と恐竜が共存していた「エデンの園」の時代の平和な情景が生き生きと浮かび上がってくる。
そして、このアルバムの中で最も感動的なクライマックスと呼べる作品は、版画家・森千恵子と組んで作ったクリスマスの創作童話『テラの不思議な夜』の内容を音楽にしたという『銀色星のテーマ』と『Terah』の2曲。特に後者に聴く異国情緒に満ちた幻想的な曲想は、かつてのエスニックな「久保田早紀」の作風を色濃く残しており、オールドファンにとってはたまらないプレゼントとなっている。
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★久米小百合 『テヒリーム33』
(1987年11月10日発売) MCD-10021
収録曲 01.小さき星は -讃美歌455番- 02.主をほめよわが心 -讃美歌20番- 03.主よ、主の愛をば -讃美歌342番- 04.いともかしこし -讃美歌502番- 05.くすしき神 -讃美歌73番- 06.いさおなき我を -讃美歌271番- 07.風激しく -讃美歌126番- 08.いとも尊き -讃美歌191番- 09.イエス君はいとうるわし -讃美歌166番- 10.地よ声高く -讃美歌154番- 11.うるわしの百合 -讃美歌496番- 12.小さき星は -讃美歌455番- (ギターソロ)
2009年もいよいよ終わりが近づいてきた。振りかえればいろいろなことがあったが、家族ともども大きな事故もなく過ごすことができたのは、何よりも感謝である。今年のクリスマスは、その感謝の気持ちを込めながら、久しぶりに久米小百合の讃美歌集を3夜続けて聴いた。その歌声の主は、ちょうど30年前の1979年、デビュー曲『異邦人』の大ヒットで一躍時の人となった当時21歳のシンガーソングライター、久保田早紀。あの時、同じ年齢だった自分は衝撃を受けた。ほかにも多くのアーティストが活躍していたが、その異国情緒あふれるファンタジックな世界は、まさに自分が求めていたもの。貧しくも将来への夢にあふれる大学生を虜にするには、あまりにもタイムリーだった。
5年後の1984年、結婚を契機にショウビジネスの世界を引退。その後は知る人ぞ知る、プロテスタント教会の音楽伝道師・久米小百合となって今日に至るのである。
この『テヒリーム33』は、彼女が教会音楽家としてリリースした最初のアルバム。収録された11曲はすべて既存の賛美歌をアレンジしたものだ。レコーディングは1987年8月31日から9月3日にかけて東京三鷹の国際基督教大学チャペルにて行なわれ、屋外から聞こえるセミやカラスの声も、あえて消さずに残したという。自然のままに、あたたかな手作りの雰囲気を伝える名録音だ。
ひとつひとつの讃美歌を慈しむように歌う久米小百合の歌声も、清らかさに満ちている。選ばれた讃美歌の数々も、宗教の枠を超えた名曲揃い。キリスト教徒でなくとも、教会の中で長く歌われてきた讃美歌の素晴らしさを満喫できる傑作アルバムとして、多くの人にお勧めしたい。
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