375's MUSIC BOX/魅惑のひとときを求めて

想い出の歌謡曲と国内・海外のPOPS、そしてJAZZ・クラシックに至るまで、未来へ伝えたい名盤を紹介していきます。

●天才歌姫!ジャッキー・エヴァンコ特集(4) 『SONGS FROM THE SILVER SCREEN』

2014年03月29日 | ジャッキー・エヴァンコ


ジャッキー・エヴァンコ 『SONGS FROM THE SILVER SCREEN
(2012年10月3日発売) SICP-3588

収録曲 01.PURE IMAGINATION (ピュア・イマジネーション ~映画夢のチョコレート工場) 02.THE MUSIC OF THE NIGHT (ミュージック・オブ・ザ・ナイト ~映画オペラ座の怪人) 03.CAN YOU FEEL THE LOVE TONIGHT (愛を感じて ~映画ライオン・キング) 04.REFLECTION (リフレクション ~映画ムーラン) 05.THE SUMMER KNOWS (おもいでの夏 ~映画おもいでの夏) with クリス・ボッティ 06.I SEE THE LIGHT (輝く未来 ~映画塔の上のラプンツェル) with ジェイコブ・エヴァンコ 07.WHAT A WONDERFUL WORLD (この素晴らしき世界 ~映画グッドモーニング、ベトナム)  08.SE (ニュー・シネマ・パラダイス 愛のテーマ ~映画ニュー・シネマ・パラダイス) 09.MY HEART WILL GO ON (マイ・ハート・ウィル・ゴー・オン ~映画タイタニック) with ジョシュア・ベル 10.COME WHAT MAY (カム・ホワット・メイ ~映画ムーラン・ルージュ) with カナディアン・テナーズ 11.SOME ENCHANTED EVENING (魅惑の宵 ~映画南太平洋) 12.WHEN I FALL IN LOVE (恋に落ちた時 ~映画めぐり逢えたら) 

日本盤ボーナス・トラック 13.荒城の月(THE MOON OVER A RUINED CASTLE )


クラシカル・クロスオーバーの歌手たちが好んで採り上げるレパートリーのひとつに、スクリーン・ミュージック(映画音楽)がある。スクリーン・ミュージックは映画の雰囲気を盛り上げる背景音楽という役割以上に、独立した音楽作品として優れたものが多い。20世紀の中盤以降になると本流のクラシック音楽が極度に実験的な方向に傾き、一般のリスナーには難解になりすぎてしまったこともあり、もっと親しみやすく、万民に愛好される真のスタンダード音楽が求められるようになった。その一つとして脚光を浴びてきたのがスクリーン・ミュージックであり、中でもアカデミー主題歌賞クラスの名曲は、事実上クラシックと同等の音楽と見なされるようになったのである。

ジャッキー・エヴァンコは、世界で最も映画産業が盛んなショー・ビジネスの大国、アメリカで生まれ育った。現在のところ、クラシカル・クロスオーバーの分野で活躍する歌手は、歴史的にクラシック音楽の土壌が豊かな欧州勢が主流であり、ポピュラー音楽が主流のアメリカ勢はやや旗色が悪かったが、ジャッキーの登場によって今後の勢力地図が変化していくかもしれない。アメリカのクラシック・ファンにとっては、まさに期待の星なのである。

アメリカ人としてのジャッキーは、ふつうの子供と同じように、ディズニー映画やハリウッド・ムービーを日常的に楽しんでいる。それだけでも、ごく自然に歌のレパートリーが増えていくという恩恵があるかもしれない。11歳で録音したアルバム『DEAM WITH ME』には、映画『ピノキオ』の主題歌「星に願いを」が収録されているし、同時期に録音したクリスマス・アルバム『HEAVENLY CHRISTMAS』では映画『ポーラー・エクスプレス』の主題歌「BELIEVE」の見事な名演を聴くことができる。

そして12歳になって録音された新しいアルバムでは、いよいよ全曲スクリーン・ミュージックの名曲という願ってもない企画が実現されることになった。

タイトルは『SONGS FROM THE SILVER SCREEN』(日本盤タイトル『SONGS~銀幕を彩る名曲たち』)。ジャケットに使われたモノクロのポートレイトも往年のハリウッド女優さながらの美しさであり、レコード製作者が、今は失われつつあるアメリカン・ドリームの復活を、彼女に賭けているような雰囲気を感じさせる。

ここに収録された12曲(日本盤ではボーナス・トラック「荒城の月」を含む13曲)はいずれ劣らぬ名曲ぞろいだが、個人的によく愛聴するベスト3を選ぶとすれば、『オペラ座の怪人』の主題歌「ミュージック・オブ・ザ・ナイト」、『ムーラン』の主題歌「リフレクション」、『タイタニック』の主題歌「マイ・ハート・ウィル・ゴー・オン」になるだろうか。次いで、本田美奈子が日本語でカバーしている『ニュー・シネマ・パラダイス』愛のテーマも欠かすことはできない。

まず『オペラ座の怪人』の「ミュージック・オブ・ザ・ナイト」 であるが、これは本当にすごい。この曲は、オペラ座の地下深くの隠れ家にヒロインを招いた怪人が扇情的に歌うラブソングで、抑圧された感情を一気に放出するシーンで歌われる。もともと『オペラ座の怪人』は大人向けの文学作品で、幼少の子供には到底理解できそうもない苦味のあるロマンスが展開されているのだが、当時12歳のジャッキーは圧倒的な声量と陰影豊かな感情表現でこともなげに歌ってしまう。曲の終盤近くに訪れる、狂おしいほどのエクスタシーの一撃も、すさまじい迫力だ。これは滅多にお目にかかれない世紀の名演と言えるのではなかろうか。

それにも増して深い感動を呼び起こされるのが、『ムーラン』の主題歌「リフレクション」。この曲は数あるディズニー映画の主題歌の中でも1、2を争う名曲だと思う。しかも、ジャッキーの圧倒的な歌唱はオリジナル歌手の数段上を行き、まさに究極の「リフレクション」を聴かせてくれる。

女性に生まれながら男性として戦地に向かうムーランは、いわば東洋版ジャンヌ・ダルクのような存在だが、もちろん歴史上のジャンヌ同様、好きで闘っているわけではない。運命の神に選ばれてしまったがゆえに、誰にも打ち明けることのできない心の葛藤を秘めながら、与えられた役柄を演じているのである。しかし、自分の心だけはだますことができない。ふと鏡を見ると、自分をまっすぐに見つめ返す、もうひとりの自分がいる。いつになったら鏡に映る自分が、ほんとうの自分になるのだろうか・・・

人間存在の根源を問いかける深遠な歌詞。これだけの哲学的内容を封じ込めているのだから、ディズニー映画も侮れない。おそらく人生の岐路に直面するたびに、この永遠の問いかけを、ジャッキーの歌声とともに思い起こすことになるだろう。

そして『タイタニック』 の主題歌「マイ・ハート・ウィル・ゴー・オン」。世界中で大ヒットしたセリーヌ・ディオンのオリジナルは、愛の強さを前面に打ち出した名演だが、同じ曲をジャッキーが歌うと、愛の強さより、むしろ命の尊さというか、世界最大の海難事故で犠牲になったひとりひとりの魂に呼びかけるような鎮魂歌(レクイエム)の趣きを感じさせる。このような年齢に似合わない包容力の深さはデビュー当時からのジャッキーの特色であり、彼女のステージをショー・ビジネス的なパフォーマンスから、普遍的な芸術表現の次元に高めている大きな要素となっている。

エンニオ・モリコーネの名曲『ニュー・シネマ・パラダイス』愛のテーマも、大人の歌手顔負けの成熟した表現で聴かせるし、古くからの映画ファンにはお馴染みの『おもいでの夏』や『南太平洋』のような古典的名作も、完全に自分のレパートリーとして消化しているのだから、たいしたものと言うほかはない。

比較的幼少の時期から才能を発揮するアーティストは歴史上数多くいるし、これからも出てくるだろう。しかし、どんな神童と比べても、ジャッキーには特別な輝きがあると思う。 自分が50年以上の人生を歩んできて、ようやく出合った本物の天才という実感があるし、残りの人生を彼女に賭けてもいいという思いもある。無限の可能性を100%開花させるのは、まだまだこれから。今はその成長ぶりを、じっくりと楽しんでいきたいものである。



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●天才歌姫!ジャッキー・エヴァンコ特集(3) 『HEAVENLY CHRISTMAS』

2014年02月10日 | ジャッキー・エヴァンコ


ジャッキー・エヴァンコ 『HEAVENLY CHRISTMAS
(2011年11月29日発売 in USA) SYCO MUSIC/COLUMBIA 88697-97768-2

収録曲 01.I'LL BE HOME FOR CHRISTMAS(クリスマスはわが家で過ごそう) 02.THE FIRST NOEL(牧人羊を) 03.AWAY IN A MANGER(飼い葉のおけで) 04.BELIEVE(ビリーヴ) 05.WHITE CHRISTMAS(ホワイト・クリスマス) 06.WHAT CHILD IS THIS(御使いうたいて) 07.O COME ALL YE FAITHFUL(神の御子は今宵しも) 08.O LITTLE TOWN OF BETHLEHEM(ベツレヘムの小さな町で) 09.WALKING IN THE AIR(空を歩いて) 10.DING DONG MERRILY ON HIGH(ディンドン空高く)


アメリカでは11月下旬の感謝祭ウイークが終わると、街はクリスマス一色となり、あちこちで毎度お馴染みのクリスマス・ミュージックが流れるようになる。日本でもクリスマスの時期が近づけば似たような状況になるのだが、アメリカの場合はキリスト教国家だけあって、その度合いは遥かに大きく、明けても暮れても定番のクリスマス・ミュージックが耳に飛び込んでくるような毎日になる。実際、同じ曲目を一日中繰り返しているFM放送局もあるので、聴いているほうは、さすがに食傷気味になってしまう・・・というのが正直なところだ。

それだけに、クリスマス・ミュージックの需要は市場的に大きく、一つのジャンルになっている。多少でも一般的な知名度のある歌手であれば、必ずと言っていいほどクリスマス・アルバムの1枚や2枚は出しているし、出せば確実に売り上げが計算できるので、どのレコード会社も、11月のシーズンにクリスマス関連の企画物をリリースするというのは、もはや定石となっている。

そして、2011年11月にアルバム『DREAM WITH ME』をリリースし、ビルボードのクラシカル・チャートで初登場1位となる大ヒットを記録したジャッキー・エヴァンコも例外ではなく、なんと、そのわずか数週間後に10曲入りのクリスマス・アルバム『HEAVENLY CHRISTMAS』を出している。こちらもビルボードのクラシカル・チャートで1位となり、2011年のクリスマス・シーズンはジャッキーの歌声がアメリカ中を席巻することになった。

この2つのアルバムは、おそらく平行して録音が進められたと思われるが、『DREAM WITH ME』 が新たなクラシカル・クロスオーバーの地平を切り開いた本格的力作であるのに対し、『HEAVENLY CHRISTMAS』はもっと肩の力を抜いたカジュアルなアルバムという作りになっている。ところがジャッキーの場合は、たとえ肩の力を抜いていても天使の歌声はいささかも穢れることはなく、芸術的な水準を立派に維持しているのだから、やはりただ者ではない、というべきだろう。

まず、アルバムに選ばれた曲目が魅力的である。 個人的に最も惹かれるのが4曲目の「BELIEVE(ビリーヴ)」。これは2004年に劇場公開されたアニメ映画『ポーラー・エクスプレス』の主題歌で、アカデミー主題歌賞候補にもなっている名曲だ。オリジナルを歌っているジョシュ・グローバンはアメリカ期待の若手クロスオーバー歌手であり、情感あふれるスケールの大きな歌唱は本当に素晴らしい。

・・・が、ジャッキーの歌唱はさらにその上を行く。かすかな鈴の音を伴奏に美しく伸びていく歌声は、どこまでも純粋・透明で、そのクリスタルのような輝きは比類がない。さながら北の大地を照らす北極星のように、俗世間のあらゆる雑事を超越したファンタジーの世界へ誘っていく。

こういう響きは女性の色気があっては出せない。ジャッキーの年齢にあたる少女が真心をこめて歌うか、あるいは最晩年の本田美奈子のように徹底的に訓練して天使の声を自分のものにしたレベルの歌手でなければ不可能な「彼岸の領域」だと思う。このような歌声が聴けるだけでも、このアルバムの価値は無限大に近い。

往年の名優ビング・クロスビーがオリジナルを歌った1曲目の「I'LL BE HOME FOR CHRISTMAS(クリスマスはわが家で過ごそう)」も素晴らしい。いかにも昔のハリウッド映画特有のノスタルジックな雰囲気を持った名曲で、多くの歌手がカバーする定番になっているが、ジャッキーの表現はゆったりしたテンポで、メロディラインの美しさを十二分に引き出すものとなっている。そこに秘められているのは、もはや死語になっているかもしれない「アメリカン・ドリーム」への新たな憧憬。それは将来への無限の夢を持っている少女だからこそ成しえた奇跡ではあるまいか。これを聴くと、ジャッキーの歌声に忘れかけていた希望を再発見している年配のアメリカ人の気持ちがわかるような気がする。同じビング・クロスビーが歌ったもうひとつの収録曲「ホワイト・クリスマス」にも同じことが言えるだろう。

9曲目の「WALKING IN THE AIR(空を歩いて)」は1982年に英国で放映されたTVアニメ「スノーマン」の挿入歌で、これも多くの歌手がカバーするクリスマスの定番になっている。アニメでは雪だるまと少年が空を飛ぶ場面で印象的に使われているが、ジャッキーはここでも幻想的なメロディラインを存分に生かしながら、夢をいっぱいに詰め込んだファンタジーを表現している。目を閉じて聴いていると、ほんとうに雪だるまと空を飛んでいるような感覚になってくるから不思議だ。

それ以外の収録曲は、古くから歌われているトラディショナルなクリスマス・キャロルが中心のラインアップ。2010年に発表したミニ・アルバム『O HOLLY NIGHT』の延長上にあたるような選曲で、ふつうの歌手なら2~3回で飽きてしまうかもしれない。ところが、ジャッキーが歌うと、どの音楽も見違えるようにリフレッシュされて聴こえるのが驚きだ。

すべての名曲を、この人の歌声で聴いてみたい・・・そう思わせるのが真の名歌手の条件だとすれば、ジャッキー・エヴァンコはこの条件に当てはまる稀有な名歌手だと思う。

今まで、いろいろな歌手のクリスマス・アルバムを聴いてきたが、もしかしたら、これが史上最高かもしれない。
 

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●天才歌姫!ジャッキー・エヴァンコ特集(2) 『DREAM WITH ME』

2014年02月02日 | ジャッキー・エヴァンコ


ジャッキー・エヴァンコ 『DREAM WITH ME
(2011年11月12日発売) SICP-3218

収録曲 01.WHEN YOU WISH UPON A STAR (星に願いを) 02.NELLA FANTASIA (ネッラ・ファンタジア) 03.A MOTHER'S PRAYER (祈り) with スーザン・ボイル 04.NESSUN DORMA (誰も寝てはならぬ~歌劇トゥーランドットより) 05.ANGEL (エンジェル) 06.O MIO BABBINO CARO (私のお父さん~歌劇ジャンニ・スキッキより) 07.SOMEWHERE (サムホエア~ミュージカルウエストサイド・ストーリーよりwith バーブラ・ストライサンド 08.ALL I ASK OF YOU (オール・アイ・アスク・オブ・ユー~ミュージカルオペラ座の怪人より) 09.OMBRA MAI FU (オンブラ・マイ・フ~歌劇セルセより) 10.LOVERS (ラヴァーズ) 11.IMAGINER (イマジネ) 12.THE LORD'S PRAYER (主の祈り) 13.TO BELIEVE (トゥ・ビリーヴ) 14.DREAM WITH ME (ドリーム・ウィズ・ミー)


10歳のクリスマス・シーズンに発売されたメジャー・レーベルでの初アルバム『OH HOLLY NIGHT』(4曲+DVD付きのミニ・アルバム)が史上最年少のミリオンセラーを記録し、天才歌姫としての人気を不動のものとしたジャッキー・エヴァンコは、翌11歳のクリスマス・シーズンに向けて、いよいよ2枚目のアルバムを準備することになった。しかも、こちらは14曲収録で初のフル・アルバムである。

11歳となった2011年10月には、新しいアルバムのプロモーションのため初来日し、TV番組で天使の歌声を披露。これがきっかけで、日本でもファン層が拡大することになった。

そして同年11月に待望の新アルバム『DREAM WITH ME』が発売。ビルボード・アルバムチャートで初登場2位、クラシック部門では1位を記録し、前作に続いて瞬く間にミリオンに達する大ヒットとなったのである。

これはほんとうに素晴らしいアルバムだ。何よりも選曲が良く、11歳当時のジャッキーの持ち味である天使のように透明な高音の伸びを十二分に引き出している。もしかしたら、二度とできないような奇跡かもしれない。数あるクラシカル・クロスオーバー系のアルバムの中でも、本田美奈子の『AVE MARIA』や『時』と並ぶのではなかろうか、と思えるような大傑作だと思う。

・・・と、ここまで書いて手が止まった。
いくら天才歌姫とはいえ、11歳の時点で「あの本田美奈子と並ぶ」と書いてしまっていいのだろうか?

そこで、改めて2人の共通する収録曲を聴き比べてみることにした。 
 

(1)NESSUN DORMA (誰も寝てはならぬ~歌劇『トゥーランドット』より)

ジャッキーの表現はイタリア・オペラ独特の巻き舌も巧みに駆使し、実に堂々としたものだ。しかも一般のオペラ歌手にありがちな押しつけがましさは全くなく、どこまでもピュアで、力強さもある。最後の「星は沈む!暁はわれに勝つ!」のあたりなど、すごい迫力で、とても11歳の少女が歌っているとは思えない。それに対して本田美奈子は日本語訳。オペラ的な編曲ではない。しかし、十分にドラマを感じさせる。微妙な息遣いを駆使しての感情表現など、さすがだと思う。このあたりは長年ミュージカルなどの舞台を経験している美奈子のほうに一日の長はありそうだ。力強さにも欠けてはいない。
 

(2)O MIO BABBINO CARO (私のお父さん~歌劇『ジャンニ・スキッキ』より)

ジャッキーの得意とするイタリア・オペラの曲目。恋を経験しているとは思えない11歳の少女が、正攻法で堂々と一途な恋を表現する。聴かせどころで思い切りロングトーンを伸ばすところなど、千両役者の風格さえ感じさせるほどだ。 それに対して本田美奈子はこちらも日本語訳。しかも岩谷時子による作詞が素晴らしく、原曲にはない「お父さんへの感謝といたわり」が加えられている。美奈子の歌唱もそちらの線に沿った繊細な感情表現に比重を置いているので、原曲にはない感動があり、その点は他のいかなるクロスオーバー歌手も及ばないところであろう。


・・・というわけで、やはり現時点ではわずかに本田美奈子のほうに分がありそうだが、ジャッキーがこのまま経験を重ねていけば、遠からず互角のラインに届く潜在能力があるのは間違いないところだ。そもそも「聴き比べてみよう」と思わせること自体が凄い。今まで、そこまで思わせる歌手が現われたことがなかったのだから・・・

ジャッキーは、歌声だけを聴くと、すでに成人に達しているようにも思える。「A MOTHER'S PRAYER (祈り)」は奇跡の歌姫とも呼ばれるスーザン・ボイルとのデュエットだが、録音当時50歳のスーザンよりも11歳のジャッキーのほうが「大人の声」に聴こえてしまう。歌っていない普段着の彼女は決して大人びた少女とは思えないのに、歌い始めると他の魂が入り込んだように声が変わってしまうというのは、ほんとうに不思議である。

この分野を代表すると言ってもいい名盤だけに、収録曲はどれも甲乙付けがたい出来なのだが、個人的にはサラ・マクラクランの「ANGEL (エンジェル)」と、ララ・ファビアンの「IMAGINER (イマジネ)」に強く心を動かされた。特に後者はまるでラフマニノフそのもののピアノ・ソロが効果的に用いられているところが微笑ましい。

あと、アルバムの最後のほうに収録されたオリジナル(?)の2曲も感動的だ。ジャッキー自身の語りも入る「TO BELIEVE (トゥ・ビリーヴ)」の作者はマット・エヴァンコなる無名のアーティストとなっているが、どうやらジャッキーの叔父らしい。そういえばジャッキーの両親もそれぞれ楽器を弾けるし、なかなかの音楽一家のようだ。エヴァンコという苗字から察するにもともとはロシア・東欧系の血筋が流れているようで、そのあたりがクラシカルで情緒のある音楽性に起因しているのかもしれない。

アルバムの最後を飾る「DREAM WITH ME (ドリーム・ウィズ・ミー)」には、ジャッキー自身も作曲者に名を連ねている。これだけの才能の持ち主であれば、ゆくゆくは自作の曲を出しても不思議ではないだろう。最近のインタビュー記事では、将来は大学に進学して哲学を学び、曲作りに役立てたいというようなことも話していた。家庭環境もしっかりしていて問題なさそうだし、未来に向けての具体的な青写真もある。きっと期待通り、世界の歌姫に成長してくれるに違いない。 
 



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●天才歌姫!ジャッキー・エヴァンコ特集(1) 『O HOLLY NIGHT』

2014年01月12日 | ジャッキー・エヴァンコ


ジャッキー・エヴァンコ 『O HOLLY NIGHT
(2010年12月7日発売 in USA) SYCO MUSIC/COLUMBIA 88697-81151-2

収録曲 01.SILENT NIGHT (きよしこの夜) 02.PANIS ANGELICUS (天使の糧) 03.O HOLLY NIGHT (さやかに星はきらめき) 04.PIE JESU (ピエ・イエズ~アンドリュー・ロイド・ウェーバー:レクイエムより)

[DVD] 01.YouTube Audition: PANIS ANGELICUS (天使の糧) 02.From "America's Got Tarent": O MIO BABBINO CARO (私のお父さん~歌劇ジャンニ・スキッキより) 03.From "America's Got Talent": TIME TO SAY GOODBYE (タイム・トゥ・セイ・グッバイ) 04.From "America's Got Talent": PIE JESU (ピエ・イエズ~アンドリュー・ロイド・ウェーバー:レクイエムより) 05.From "America's Got Talent": AVE MARIA (バッハ~グノー) 06.AN INTERVIEW WITH JACKIE


クラシック音楽といえば、純然たるクラシックの専門教育を受けた音楽家たちが演奏する音楽・・・というイメージが長らく存在し、クラシックの専門教育を受けていない立場の人たちから見れば、少なからず敷居の高い面があった。大衆的なポピュラー音楽のファン層と、高踏的(?)なクラシック音楽のファン層では明らかな違いがあったのである。

しかし、現在はポピュラー音楽からクラシック音楽に移行する境界線が徐々に緩和されつつあるように思える。その傾向に大きな役割りを果たしているのが、1990年代から始まった「クラシカル・クロスオーバー」と呼ばれる新しいサウンドの音楽で、クラシック音楽のようなオーケストラ演奏をベースにしながらも、ポピュラー音楽的な親しみやすいメロディが歌われ、敷居の高さを感じることもない。歌手はクラシックの発声法を用いながらも、ポピュラー歌手のように自在な感情表現で歌う。特定のジャンルを超えた、いわば異種格闘技のような音楽が、現代のミュージックシーンにおけるひとつの流れになりつつある。

この分野の女性歌手で最大の大御所と見られているのが、サラ・ブライトマンであろう。特に1996年に発表された盲目のテノール歌手アンドレア・ボッチェリとのデュエット曲『タイム・トゥ・セイ・グッバイ』は全世界で爆発的なヒットとなり、人気のスタンダード・ナンバーとして定着することになった。

その後、世界各国でクラシカル・クロスオーバーの分野に挑戦する歌手が続々と登場。日本ではアイドル歌手からミュージカル女優に転身した本田美奈子が、2003年に初のクラシカル・クロスオーバー・アルバム『アヴェ・マリア』をリリースした。「日本のサラ・ブライトマン」を目指していた彼女は『タイム・トゥ・セイ・グッバイ』を初めとする名曲の数々を日本語訳で歌い、その天使の歌声と形容される澄み切ったソプラノ・ヴォイスは、日本の音楽界に新たな道標を与えるものとして大成を期待された。

しかし2005年11月、本田美奈子は志半ばで天国に召される。それからというものは、同時期にデビューしたキャサリン・ジェンキンズやヘイリー・ウェステンラに期待するほかないだろうな・・・と思っていたのだが、個人的にはやはり本田美奈子がいなくなった穴はあまりにも大きく、彼女と同等の魅力を持つ本当のスーパースター、将来の人生を賭けてもいいと思わせるような真の歌姫の出現を心から待ち望んでいたのである。

そして数年の歳月を経て・・・ついに現われた。
YouTubeで映像を最初に見た瞬間から「もしかしたら彼女が・・・」と思っていたが、もう確信していいだろう。

ジャッキー・エヴァンコ。2000年4月9日生まれ。この記事を書いている時点で13歳。

2010年8月(当時10歳)にTV放映された人気のオーディション番組「アメリカズ・ゴット・タレント(America's Got Talent)」で決勝まで勝ち進んだのがきっかけとなり、大人のオペラ歌手顔負けの歌唱力で一躍全米の人気者となった。それ以前に各種のローカル・オーディションには何度も登場しており、10歳の誕生日直前には地元の大リーグ球団ピッツバーグ・パイレーツの開幕戦で国家斉唱の大役を果たしている(YouTubeで映像を見ることができる)。

また、その前年(2009年)の時点で大物プロデューサー、デイヴィッド・フォスターが彼女の才能に目をつけており、同年11月には最初のアルバム『PRELUDE TO A DREAM』を自主制作盤でリリースしている(このアルバムには『アメイジング・グレイス』を含むクラシカル・クロスオーバー系の名曲が14曲収録されているが、翌年の「アメリカズ・ゴット・タレント」でジャッキーが全国的に有名になると、両親は「1年半で段違いに進歩した歌声はこんなものではない」として、このアルバムを引っ込めてしまった。そのため、現在では入手難のコレクターズ・アイテムになっている)。

9歳から10歳までの間に飛躍的に成長したジャッキーは2010年12月、満を持してメジャーレーベルでの初アルバムをリリース。それがここに紹介する『O HOLLY NIGHT』である。CD+DVDの2枚組で、収録曲はCD4曲、DVD5曲というミニ・アルバム。すでに発売時点で全米に名前が知られた人気者になっており、ビルボード初登場2位(クラシック部門では1位)、総売り上げは100万枚を突破。ミリオンセラーの史上最年少記録を打ち立ててしまった。まさに「天才歌姫現わる!」である。

CDに収録された4曲はいずれもクリスマス向けのナンバーなので、誰もが抵抗なく聴けるだろう。あまりにも有名な『SILENT NIGHT(きよしこの夜)』や『O HOLLY NIGHT(さやかに星はきらめき)』 は、ジャッキーの澄み切ったソプラノ・ヴォイスで聴くと、俗世間の荒波から救済されたような気持ちになるし、セザール・フランク作曲の『PANIS ANGELICUS(天使の糧)』は文字通り天使のような美声で身も心もとろけそうになる。アンドリュー・ロイド・ウェーバー作曲の『PIE JESU(ピエ・イエズ)』は前記3曲よりも現代寄りの宗教曲だが、これがまた、言葉が出てこないほど魅力的。まるで別世界から響いてくるようなピュアな歌声だ。

DVDには 『PANIS ANGELICUS(天使の糧)』のYouTube オーディションと、「アメリカズ・ゴット・タレント」で勝ち進んだ4曲のライヴ映像が収録されている。いずれも10歳の少女とは思えない堂々たる歌いっぷりだが、個人的には『タイム・トゥ・セイ・グッバイ』を歌っている時の映像が、どうしても生前の本田美奈子とダブって見えてしまう。歌い方や声も似ている気がするし、体全体から自然に湧き上がってくる感情表現も「本田美奈子が歌わせている」と想像すれば、なるほどと思ってしまう。インタビューで垣間見える愛嬌たっぷりなキャラも瓜二つだ。

やはり、ジャッキーこそ真の後継者であることは間違いないのではなかろうか・・・
 

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