375's MUSIC BOX/魅惑のひとときを求めて

想い出の歌謡曲と国内・海外のPOPS、そしてJAZZ・クラシックに至るまで、未来へ伝えたい名盤を紹介していきます。

●歌姫たちの名盤(22) 庄野真代&ジャクロタングス 『CINEMATIQUE~シネマティーク~』

2013年11月25日 | 歌姫① JAZZ・AOR・各種コラボ系


庄野真代&ジャクロタングス 『CINEMATIQUE~シネマティーク~
(2013年10月2日発売) OMCA-5035

収録曲 01.夜間飛行の記録 ~instrumental~ 02.飛んでイスタンブール 03.マスカレード 04.モンテカルロで乾杯 05.cinema 06.ウナ・セラ・ディ東京 07.月夜のワルツ 08.アデュー 09.鉄塔の灯を消して ~instrumental~ 10.ファム・ファタル 11.金色の砂


異国の地を舞台にした往年のヒット曲「飛んでイスタンブール」、「モンテカルロで乾杯」、「マスカレード」で知られる庄野真代が、若手タンゴ・ジャズグループのジャクロタングスと組んで新境地を開拓した話題のアルバム『CINEMATIQUE~シネマティーク~』を聴く。経済的な事情もあってCDの新譜購入には慎重な筆者が珍しく発売前に予約したアルバムだったが、期待通りの上質な名盤に仕上がっており、やはり自分の第六感は間違っていなかった・・・と確信することができた。というわけで、さっそく、このアルバムをレヴューしてみることにしよう。

庄野真代といえば筆者と同世代なら説明は不要だろうが、リアルタイムでご存知ない人たちのために簡単に紹介しておくと、一般的に言えば1978年に筒美京平作曲の「飛んでイスタンブール」でブレイクした往年の歌手ということになる。が、本質的には自ら作詞・作曲する都会派シンガーソング・ライターと言ったほうが当たっており、歌謡曲というよりも新しく台頭してきたニューミュージック寄りのアーティストだった(同じ傾向のアーティストとしては渡辺真知子、太田裕美、サーカスなどがいる)。

それ以上に特筆すべきなのは、その行動力の旺盛さである。経歴を見ると、中学生時代は生徒会活動に没頭していたらしく、本格的に音楽活動を始め、メジャーな存在になってからも、突然思いついたように世界一周の旅に出たり、ボランティア活動を組織化して自ら代表になったり、参議院選挙の比例区に出馬したり(結果的には落選だったが・・・)、分野を越えたチャレンジ精神はとどまるところを知らない。そして、なんと2011年からはひょんなきっかけでマラソンを始め、今年(2013年)もイスタンブール・ユーラシア・マラソンの15kmの部に出場。年齢を考えればなかなか優秀なタイムで完走を果たしている。このように破天荒な挑戦を続けていく典型的なB型女性なので、常に「今度は何をやってくれるのか?」という期待感があり、その動向には目が離せなくなるのである。

片や庄野真代とコラボを実現することになったジャクロタングスであるが、実は筆者もよく知らなかったのでCDのブックレットやオフィシャル・サイトを調べながら勉強してみた。メンバーはいずれも1980年代生まれの男性3人で、ピアノ担当の加畑嶺、コントラバス担当の木田浩卓、バンドネオン担当の平田耕治のトリオから成り、いずれもクラシック音楽の基礎を持ちながら、ジャズやタンゴの分野で活躍できる高い音楽性を備えたミュージシャンたちである、ということだ。

木田浩卓は今回のアルバムでほとんどの収録曲をアレンジし、4つの楽曲においては作曲も担当している。「夜間飛行の記録」はその名の通りサン・テグジュペリの小説『夜間飛行』から発想を得た作品、「鉄塔の灯りを消して」は鉄塔=東京タワーの灯が消える黄昏時をイメージした作品、「ファム・ファタル」はPOPSとタンゴの融合というテーマのもとで書かれた作品、「金色の砂」は何よりも庄野真代が素晴らしい歌詞をつけてくれたことで特別な作品に仕上がったという(この楽曲のみ加畑嶺がアレンジ)。このように世代を越えて実現したコラボなので、どの楽曲も単なるノスタルジーでは終わらない新鮮味を帯びてくる。

筆者のような往年のファンが注目するのは、やはり代表曲の「飛んでイスタンブール」、「モンテカルロで乾杯」、「マスカレード」だろう。
特に「マスカレード」 には思い入れがあるので、どんなアレンジになるのか興味深々だったが、いい意味で予想外だった。原曲はラテン的な華やかさを前面に出し、いかにも色彩感豊かなメキシコの街という舞台設定だが、今回のアルバムでは、まるでジプシーの手回しオルガン弾きが19世紀のヨーロッパの街をさまよい歩くような、退廃的な雰囲気が色濃くなっている。それはそれで、タンゴの源流として納得のいくイメージであるところが面白い。

最大ヒット曲の「飛んでイスタンブール」 は原曲のアレンジが優秀なので、それを崩すのがなかなか難しいが、これも新しい録音では見事なタンゴ・バージョンを作り上げることに成功した。随所で聴かせるダイナミックなピアノの名技が素晴らしい。

もう一つのメガ・ヒット曲「モンテカルロで乾杯」は、もともと映画的イメージが豊富な名作。編曲者・木田浩卓の解説によればバンドネオンを男性役、ヴォーカルを女性役に想定したということだが、まさにこの両者がスクリーンの中で粋なセリフを交わしているような趣に仕上がった。アルバム・タイトル『CINEMATIQUE』そのままの上質なアレンジといえよう。

3大ヒット曲に続いて収録されているのは、このアルバムのイメージ・プロデューサーでもある及川眠子作詞の「cinema」。そのものズバリのタイトル曲で、悲恋に終わる一夜限りの愛と知りつつ男の胸に抱かれていく女性の妖しい心を映し出すように、変幻自在なサウンドが展開される。

そして往年の大ヒット曲、ザ・ピーナッツの「ウナ・セラ・デイ東京」 が何の違和感もなく登場する。いかにもタンゴっぽい退廃的な雰囲気がこのアルバムにぴったりな選曲だ。続く庄野真代作曲の「月夜のワルツ」と「アデュー」も素晴らしい。前者の幻想的なイメージ、後者のどうしようもないほどに孤独な雰囲気こそ彼女の真骨頂ではないだろうか。こういう暗さに徹した楽曲を聴くと、あらためて、すごい人だなと思ってしまう(このアルバムにはもちろん収録されていないが、あの悲惨な「相生橋にて」の作曲者だけのことはある)。

残念ながら、筆者はまだ庄野真代のライヴは見たことがない。海外在住でもあるし、自由の身ではない家庭持ちのサラリーマンなのでスケジュールが合わせにくいのだが、機会があればぜひ一度お目にかかりたい本物のアーティストの1人だと思っている。その日が来るまでは、この最新アルバムを繰り返し聴きながら、渇きを癒すことにしたい。

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