375's MUSIC BOX/魅惑のひとときを求めて

想い出の歌謡曲と国内・海外のPOPS、そしてJAZZ・クラシックに至るまで、未来へ伝えたい名盤を紹介していきます。

名曲夜話(33) シベリウス 交響曲第2番、第3番

2008年04月28日 | 名曲夜話② 北欧編


シベリウス 交響曲第2番ニ長調(作品43)、第3番ハ長調(作品52)
オスモ・ヴァンスカ指揮 ラハティ交響楽団
録音: 1996年[第2番]、1997年[第3番] (BIS-CD-862)
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シベリウスの交響曲は、どの作品からも北欧フィンランドの美しくも厳しい大自然の息吹きが伝わってくるが、その描き方は作品ごとに個性があり、同じ自然でもさまざまな顔を見せることがわかる。

荒削りで豪壮な第1番に続いて、1902年に初演された第2番は、作風としては「第1番」に比べて明るい色調となり、旋律もなだらかで親しみやすいものになっている。それゆえに、昔からシベリウスの交響曲の中では演奏回数も多く、代表作のように見なされてきた。

実際のところは、より緻密な音彩で書かれた後期の作品群を聴き慣れてくると、やや大味で、物足りなくなってくるし、「第1番」と比べると、荒々しい迫力で一歩をゆずるような気がするのだが、幻想的で起伏の大きな第2楽章や、フィナーレでの壮麗な盛り上がりは素晴らしく、一般の音楽ファンがシベリウス入門の一曲として聴くには、やはり、この「第2番」が最もふさわしいのかもしれない、と思えてくる。

だが、よりシベリウスらしい滋味に触れることができるという点では、5年後の1907年に書かれた第3番のほうに一日の長があるだろう。

「第3番」は三楽章構成で、楽器編成はニ管。スケールの大きい「第2番」に比べると、一見小粒な作品のように思える。事実、演奏される機会はそう多くない。しかし、繰り返し聴いてみると、微妙に移ろいゆく多彩な表情が美しく、なかなか得がたい魅力を秘めていることがわかるのである。

軽快な行進曲風の主題で始まる第1楽章。曲が進むにつれて、チェロで提示される哀愁をおびた第2主題が絡み、緻密な音彩を織り成していく。第2楽章は、変奏曲形式のアダージョ。フルートで提示される、憂いをたたえた優美なメインテーマがデリカシー豊かに変奏されていくさまは、一服の絵のような美しさだ。

そして、シベリウスの真骨頂と言えるのが、第3楽章フィナーレ。ほとんど抽象的に近い緻密な音世界は、次に書かれる「交響曲第4番」を先取りしており、よく似たモチーフも続出する。

CDは前回に続いて、室内楽的な繊細な響きに秀でる、ヴァンスカ指揮ラハティ交響楽団の録音を挙げよう。このシリーズ、いつもそうだがジャケットが素晴らしい。特に、この第2番+第3番の組み合わせは、額に入れて飾っておきたいほどの出来栄えだ。


名曲夜話(32) シベリウス 交響曲第1番、第4番

2008年04月14日 | 名曲夜話② 北欧編


シベリウス 交響曲第1番ホ短調(作品39)、第4番イ短調(作品63)
オスモ・ヴァンスカ指揮 ラハティ交響楽団
録音: 1996年[第1番]、1997年[第4番] (BIS-CD-861)
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ふつう、シベリウスの交響曲と言えば、番号のついた第1番から第7番までの7曲のことを指す。ほとんどのシベリウス交響曲全集には、この7曲が収録されている。

もっとも、厳密に言うと、この7曲の前に、クレルヴォ交響曲(作品7)という標題付きの交響曲があるし、7曲の後に、ほぼ完成されながらも破棄されたらしい交響曲第8番という作品の存在も議論されたりする。ただ、クレルヴォ交響曲に関しては、1892年に初演された翌年から、シベリウス自身がこの曲の演奏を禁止し、生前は楽譜の出版も認めなかったし、第8番もシベリウス自身が破棄した以上、最終的には存在しなかったもの、と考えたほうがいいだろう。ここでは、まずシベリウスの遺志を尊重して、正式に認められている7曲の交響曲を採り上げてみたい。

まず第1番。前回の4つの伝説曲でも紹介したように、初期のシベリウスは、祖国フィンランドの民族叙事詩カレワラをはじめとする民話・伝説から作品の題材を得ていた。1899年に作曲された第1番は、初期の民話・伝説路線の雰囲気を残した作品で、荒削りではあるが、土俗的な迫力に満ちた魅力作である。

第1楽章の序章。ティンパニのトレモロに続く、「カレリアの弔い人の嘆きを暗示する」と言われる、クラリネットの旋律。伝奇的な雰囲気の中で、北欧の大自然を連想させるような雄大なテーマが、起伏豊かに展開されていく。

第2楽章は緩やかなアンダンテだが、平和な雰囲気の中で、荒々しく盛り上がる自然の脅威が聴きもの。第3楽章はブルックナー風の野人的スケルツォ。すさまじいティンパニの強打が最後の追い込みをかける。

第4楽章は「幻想風に」と指示された序奏的なヴァイオリンの旋律で始まり、次第に盛り上がって、嵐のような情景が繰り広げられる。嵐が一段落すると、夢のような美しい旋律。その後、テンポの速いアレグロの主題が突き進み、やがて回帰する美しい旋律とフーガ風に絡みながら、雄大で感動的なエンディングを迎える。

この曲に関しては、ベルクルンド、サラステ、ヤルヴィ、セーゲルスタム…と、ほとんどのシベリウス指揮者が名演を残しているが、ここでは手作りの味が際立っているヴァンスカ指揮ラハティ交響楽団のCDを挙げておこう。

ヴァンスカ盤のカップリングは、第1番から12年後の1911年に初演された第4番。こちらは暗く、内省的で、行きどころのないような閉塞感に満ちた音楽。第1番のような大自然の凄みは期待できないが、その代わり、無駄な音がまったくない、幾何学的とも言えるほどの緻密な魅力を味わえる作品である。人によっては、シベリウスの最高傑作に数えたりもする。

最初のうちは親しみにくいかもしれないが、繰り返し聴き込んでモチーフを覚えてくると、急に病みつきになってくる不思議な音楽だ。