中巻より、つづき。
質問:東欧の数ヶ国で均一税率制が成功し、西欧でも導入が検討されています。アメリカでの均一税率制の導入を支持しますか?
バフェット:
「私は支持しません。
私はこの国の税率は充分、フラット(均等)だと思っています。
社会保障のための給与税は、現在12%以上ですが、所得の最初の800万円~900万円にだけ課税されています。
だから、私やビルのように高所得者は、払ってないのも同然なのです。
ですが、私達の会社の社員にとっては非常に大きな税額と言えるでしょう。
さらに所得税もかかりますし、その税率もおそらく私達よりも高いでしょう。
キャピタル・ゲインにかかる税率は15%に軽減されていまし、配当も15%です。
この国の近年の税率は非常に裕福な層を優遇するように変えられてきているのです。
貧困層に対しては、なんの救済にはなっていません。
率直に言って、私やビルにはもっと多くの税率が課せられるべきなのです。
考えてみて下さい。年収800万円の人にとって、12%、約100万円の税金が掛かれば残りは700万円です。
仮に8億円の年収の人に、12%、約1億円の税金が掛かれば残りは7億円。
それが、所得にかかわらず、一律に12%の税金を掛けてしまえば、年収200万円の人にとって24万円の税金が徴収され、手元には176万円しか残らないのです。
その上に、他の税金や他の社会保障費が掛かれば、生活は困窮するに決まっています。
ひとりの人に掛かる最低限の生活費を保つことのできないような税制であれば、それをフラット(均等)だとは、私は思っていません。
私達は多額の税金は払っていますが、税率に換算すると非常に低いと言わざる得ないのです。
私達が支払っている税率は、25年前の今よりも、はるかに所得の低かった時代に支払っていた税率の半分以下です。
政府は、本当に金持ちを優遇し過ぎています。」
(キャピタル・ゲイン:債券や株式など資産の価格の上昇による利益のこと。価格が下がって損をすることは、キャピタル・ロスと呼ぶ。)
ゲイツ:
「私もウォーレンの意見に賛成です。
財政の収支を合わせるには、もっと累進的な課税が必要だと思っています。
いずれ、みなさんも、その必要性を認識するでしょう。
たくさん稼いでいる人が、より高い税金を負担するべきだと気付くはずです。
均一の税制とは、見た目には平等に思えますが、国民の中で最低限の生活ができない人達がいることも事実です。
その人達からも均等に税金を徴収して、より生活が困窮することを、他人事だと見逃してはならないのです。
国民一人ひとりの生活を守る義務が、国民にはあるのです。
そのために、裕福な層から税金を多く徴収し、貧困層の生活を保護することこそが、私は平等の観念に即していると考えています。
キャピタル・ゲインに掛かる税率も見直すべきでしょう。
富がなければ債権や証券を持つことができません。
その富める層が、株式などで儲けたお金に掛かる税金について考えることも必要です。
また、相続に掛かる税金もこの国では、さほど重いものではありません。
私達が言うのは皮肉に聞こえるでしょうが、この国の税率はもっと累進的であるべきです。」
バフェット:
「例えば、
やろうと思えば私は所得税を一切支払わずに生活することもできるのです。
私が持っている自社株を担保にしてお金を借り、毎年その借りたお金で生活をすればいいのです。
そして、私が死んだ時に、不動産でその借りたお金を返済すれば済むのですから。
そのことで、私は所得税を一円も支払わずにこの先、死ぬまで暮らしていけるのです。
しかし、自分で言うのもなんですが、このようなやり方は非常に不公平ですよね。」
質問:おふたりの純資産の合計は9兆1000億円になります。この金額は世界の貧しい国、70ヶ国のGDPの合計を上回っています。そこで、おふたりの莫大な財産は、世界の繁栄にどのように貢献できるとお考えですか?
バフェット:
「私の資産はできるだけ社会に役に立つ方法で使って貰おうと考えています。
地域規模ではなく、世界的な規模でできるだけ有効に、世界中の人の暮らしを向上させるために使って欲しいものだと思います。
方法としては、慈善事業に寄付するのが懸命でしょう。
そこで効率よく、より合理的な方法で使って貰えればと思っています。
慈善事業組織の中で、ビルとメリンダのように効率的な方法で運営している団体を私は知りません。
ですから、私は彼等を支持するのです。」
ゲイツ:
「恵まれない人達に富を使うことは消費ではありません。
富を自分達の生活や贅沢のために使うことは消費になります。
しかし、自分の目的のためだけに富を使うのではなく、社会のために使うことを私は提言します。
富を一番上から循環させる。
それは、富める者の義務なのです。
地位が上がれば上がるほど、社会に対しての責任は重くなります。
そして、できれば富だけでなく、多くの頭脳も活用して欲しいのです。」
質問:10年後は何をされていると思いますか?
バフェット:
「医者に聞いてないんだ。
もしも、充分に健康体であれば今と同じことやっているでしょう。
いつまで、続けられるかは健康しだいです。」
ゲイツ:
「10年後、私は60歳になります。
大台に乗るたびに10年後はもう年寄りだと思っていました。
<40歳の時は50歳なんて>とね。
でも50歳になってみて、まだ年寄りではありません。
今後は、経営と慈善事業とのバランス配分を考えた時に慈善事業へのウェイトを重視することになるでしょう。
仕事は大好きなので続けては行きますが。」
質問:今までの人生でビジネス以外の最大の成功はなんですか?
ゲイツ:
「いい家庭を築くことですね。それが、一番です。」
バフェット:
「私と同じ位の年齢の人達に聞くと、
<私の人生は成功だった。>と言います。
そういう人達には、家族や仲間が、いつもそばにいます。
信頼できる人達に囲まれて生活をする。
そういった、生活こそが成功と言えるでしょう。
逆に長者番付にのっているような人や、世間から見れば成功者として見える人でも、誰からも愛されない人は成功者とは言えません。
そういう、人達は自分が愛されていないことを知っています。
それは、虚しいことです、
ごく普通の仕事をしていても、仮に境遇に恵まれていなくても、愛されていると実感できる人は、大きな成功を感じているものです。
愛されていると言う実感を得るには、同じように愛することも必要です。
信頼できる仲間と長く親交を持つには、自分が信頼されていなければなりません。
成功は、自分の中にあるのです。
ですから、自分に投資することが必要になるのです。
それは、お金だけではありません。
成功するための投資とは、信頼される人間になるための投資なのです。
だから、成功者は信頼できる仲間に囲まれて生活できるのです。
だから、成功者は多くの人から、愛されている実感を得ることができるのです。
そういう人達を私はたくさん見てきました。」
(注)1ドルを100円で計算しました。その時々のレートで掛け算してください。
(注)口語表現のために主張が弱くなる部分は、加筆再編集してあります。
また、若い人達が理解しやすいように補足文も多く使用しています。
そのため、放送された内容とは異なる部分がありますことをご了承ください。
【番組の内容】
ウォーレン・バフェット氏の母校であるネブラスカ大学に、親友であるビル・ゲイツ氏と共に尋ね、学生たちから投げかけられるストレートな質問に答えていく内容です。
学生達の口から飛び出す数々の疑問、質問に対し、ジョークを交じえながらの回答で会場全体を和ませてみたり、それぞれの経験談を踏まえ真剣に答えたりと、普段では聞けないふたりの本音にせまるインタビュー番組になっています。
(おわり)
*上巻へのリンク。
http://blog.goo.ne.jp/mimifuku_act08/e/c515054b2c36c262e3a5aa280d2fad47
*中巻へのリンク。
http://blog.goo.ne.jp/mimifuku_act08/e/a3ffa33cec7894f048a4439a502ba35d
*ビジネス/テキスト版へのリンク
http://blog.goo.ne.jp/mimifuku_act08/e/cccbf051fb82250a6393f39d77915734
*ウォーレン・バフェット:アメリカ企業の救済と、その影響力。
http://blog.goo.ne.jp/mimifuku_act08/e/8d191e9f562a67f4c07aaef3870c1b24
*マイクロ・ソフトの苦悩。
http://blog.goo.ne.jp/mimifuku_act08/e/8615bba4167549286eb23161380f0376
「ゲイツとバフェット ~後輩と語る」
NHK BS1
08年2月 8日 午後 9:10~10:00(放送終了)
08年2月15日 午前10:10~11:00(放送終了)
原題: Buffet and Gates Back to School
制作: NET(アメリカ)2006年
ビル・ゲイツ(1955年10月28日生れ)
マイクロソフト社の会長。
高校時代の友人と共同でマイクロ・ソフト社を起こす。
個人資産は約5兆円、世界一の富豪と言われる。
ビル・アンド・メリンダ・ゲイツ財団共同会長。
テキサス州ダラス市生まれのメリンダ・フレンチ(旧姓)と1994年1月1日に結婚。
3人の子供とともにシアトル郊外に在住。
ビル・アンド・メリンダ・ゲイツ財団
ビル・ゲイツが、妻のメリンダ・ゲイツ、父親のウィリアム(ビル)・ゲイツ・シニアと共に作った慈善団体。
ウォーレン・バフェット(1930年8月30日生れ)
世界最大の投資持株会社であるバークシャー・ハサウェイの最高経営責任者であり、投資会社の成功により、4兆円を超える資産を築く。世界を代表する敏腕経営者。