カナダ・エクスプレス

多倫多(トロント)在住の癌の基礎研究を専門にする科学者の自由時間ブログです。

学位審査の質疑応答

2005年09月04日 | カナダ
Bさんへ:
学位審査の目的は何か?を少し高い視点で考えてみてください。大学は輩出する博士のレベルの向上を期待します。教官は、自分が「ハンコを押す」学生の論文に落ち度がないかどうか?それに、候補者が博士号に見合う知識と能力を持ち合わせているか?ということを、確認する義務があります。具体的には、2時間前後の間に、評価委員の教官が、一人15分から20分の持ち時間で、まず第一回目の質問を候補者に浴びせます。座長と直接の指導教官は質問する資格はありますが、通常静かに事の成り行きを見守ります。成り行き次第では、指導教官にとってこの2時間は辛い時間でもあります。質問の内容は、まったく様々。研究内容に直接関係する質問はもちろん出ますが、それ以外に、たとえば、「去年のノーベル医学賞は誰が取ったか?」とか、「癌遺伝子の中で、乳癌に特に重要と考えられているものは何か?」とか、「炭素には何個の電子があるか?」とか、「君の隣の研究室のA教授の研究内容を述べよ。」といったような、きわめて一般的知識を試すような質問も出たりします。私が候補者に最後によく聞く質問の一つは、「今後10年の構造生物学の将来はいかに?」といった類のものです。候補者は、いかなる質問にもそれ相応に対処できる技術やスタイルが試されるわけで、これは科学者として良いトレーニングになります。そういうわけで、2時間15分など、あっという間に過ぎていきます。

Wさんへ:
博士号を取得するのにかかる年限について一般的な話しとしてご返事します。一般的に、修士号2年、博士号5年(ともに大学院に入ってからの年数)というのが、学生側も大学側も希望する基準です。トロント大学医学部の場合、大学院生は修士課程で入ってきますが、スタートから18ヶ月―24ヶ月以内に博士課程への編入試験を受けなければなりません。もしくは、修士論文を提出し、修士号で終了ということになります。したがって、博士課程に進んだ学生は修士号は得られません。その後3年前後で博士号取得を目指すわけです。実際にそれが3年で終わるのか、4年、5年かかるかは、学生次第です。最終的に満足の行く業績を出して、本人自身が上に書いた質疑応答に耐えられる資質を身に着つけるまでには、それなりの時間がかかるからです。もちろん、20代の学生にはライフをエンジョイする願望と権利がありますから、彼らはそのあたりで格闘しながら、研究者として成長していかなければなりません。そして、学位審査を終えて笑える学生は、その荒波を乗り越えてきた人たちです。ガッツのある若い研究者が育っていくのを見るのは、私の何よりの楽しみです。

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2 コメント

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炭素の電子数 (B)
2005-09-05 05:14:45
う?む、例に出された質問のうち、私が答えられるのは、炭素の電子数だけですね。丁寧なご説明をありがとうございました。



ちなみに、日本人には、通菜より空芯菜と言った方がわかりやすいかもしれません。こういうことなら、すぐに答えられるんですけどね。
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Unknown (W)
2005-09-06 10:24:25
ご返答ありがとうございました。

デフェンスの話を聞くと、やはりPhDとしての一般教養も試されるという感じで大変なのですね。Publicationがあれば学位OK でしょうみたいな考え方は日本的でよくないのでしょうね。日本の大学院生もよく実験・学習していると思うのですが、どうも欧米と比べて学位の敷居は低いような気がしてきました。
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