カナダ・エクスプレス

多倫多(トロント)在住の癌の基礎研究を専門にする科学者の自由時間ブログです。

サイテーションインデックスについて

2006年09月29日 | サイエンス
cogitoさんからご質問のあったサイテーションインデックス(CI)と業績評価について、ちょっと触れてみます。

まず、CIとは何か?それは、ある論文が別の論文で何回引用されたかを指数としてまとめたもので、こういう集計をしている会社がいくつかあります。このシステムでは、引用されればされるほど、インパクトが高い論文という位置づけになります。このCIを個人の発表論文についてまとめて、その研究者の影響力に関する「物差し」にしようというわけです。

私の所属する研究所でも、すべての教授陣について集計されたCIを「監視する」部署があります。そして、毎年の業績評価を割り出す際に、部門長や研究所長はその数字をある程度参考にしています。ただし、この簡単な物差しには、様々な落とし穴があり、一概にこれだけで評価を下すことは危険です。

たとえば、ある研究者はほんとうに価値のある論文を、主たる研究者として単独で、年に一報しか出さないとします。一方ある研究者は多数の研究者に協力して、共著者として年に50報の論文に自分の名前を連ねるとします。論文あたりのCIが、前者が100で後者が平均10だったとすると、合計では前者が100ポイント、後者は500ポイントとなります。

さて、どちらが本当の意味で科学に貢献したのでしょうか?単純にCIのみで言うと、後者の研究者は前者の研究者よりも5倍も「働いた」もしくは「価値がある」ということになります。これでいいのでしょうか?

ここで、もう一つ注意しないといけないのは、後者の場合、共著者は多数いて、CIポイントは共著者となった他の研究者へも同様に配分されています。1ポイントの「比重」が、前者と後者では異なります。

ちょっとこの例は極端ですが、一つの問題点を浮き彫りにするためにあえて選びました。念のため付け加えますが、私は共同研究が悪いとか、共著で論文を出すことが悪いと言っているのではありません。CIをどう読むべきかを考えるときの「落とし穴」の例を述べたまでです。

要するに、CIだけで研究者を評価することは危険なのです。それではどうするべきか?やはり、専門家による専門家の評価が必要です。そして、そこには公正で厳粛な評価の精神がなくてはなりません。以前にも書きましたが、「conflict of interest」を完全に除去した真の「peer review」が必要なのです。評価の問題は簡単ではありません。

羽生善治王座、タイトル獲得総数歴代二位の偉業

2006年09月28日 | 将棋
羽生善治王座に佐藤康光棋聖が挑戦していた第54期王座戦において、羽生王座は3連勝のストレート勝ちで、同タイトルを防衛しました。このタイトルの15期連続の防衛という記録もすごいですが、これで他の数々のタイトルも含めたタイトル獲得総数が65となり、中原誠永世十段を抜いて歴代第二位に躍り出ました。そして羽生三冠はまだ30代半ばの若さです。まだまだ記録を伸ばすことでしょう。谷川浩司と中原誠というスーパースターを追い越し、残るは大山康晴十五世名人の記録(生涯タイトル獲得総数80)に迫るのみです。この分で行くと50歳になる前に、巨人・大山を越えるだろうと私は予想してます。彼の集中力、精神力、研ぎ澄まされた頭脳を持ってすれば可能だと私は思います。そして何よりも尊敬に値するのは、歳を重ねても弛まず研究する姿勢、自分をさらに研磨しようとする態度です。一ファンとして彼の将棋にはいつも魅せられます。これからも、ぞくぞくするような好勝負を見せてもらいたいと願っていますし、応援しています。

オンタリオ田園風景

2006年09月24日 | カナダ
先週末はレトリートでトロント郊外へドライブしたのですが、サンセットとオンタリオの田園風景がきれいでしたので、車を止めて写真を撮りました。サンセットの写真はタイミングが肝心ですが、この写真は太陽がまだ地平線に沈む数分前でした。このあとパープルが赤褐色に変わり見事なサンセットでした。

トロント郊外には無数の牧場、農場があります。サイロがあり牛が放牧されています。馬牧場も時々見かけます。のどかな田園風景が広がっています。

CNSとは?

2006年09月21日 | カナダ
CNSという言葉を聞いたことがありますか?脳科学を専攻する方でなくても、これが中枢神経(Central Nervous System)の略であることはご存じと思う。しかし、生命科学一般の科学者の間では、この「CNS」という略号が別の意味で使われるようになってきて、それがかなり一般化してきている。すなわち、「CNS」とは、Cell/Nature/Scienceという三大科学雑誌の略号として使われている。

私はこの略号の第二の意味を米国のある教授からかなり前から聞いていた。彼が学部長を勤める大学では、CNSファクターを公然と採用していて、教授陣の論文発表業績を評価する際にCNS雑誌は特別に大きなポイントを与えているという。日本でも一般的になってきた、サイテーションインデックス(論文の引用度指数)やインパクトファクター(雑誌の影響力指数)が米国ではかなり前から研究者の業績査定に使われているのだ。

グラントの審査の際にも、CNSファクターが高ければかなり高い確率で高得点採用となるだろう。これらの兆候は、あらゆる審査システムが特定の商業誌への掲載のみが判断基準となるという現実を生み出している。「CNS」が本当に科学者の「中枢神経」になりつつある。これは、科学の将来を考えたとき、大変危険な方向性ではないだろうか?

確かにCNSに掲載されている論文の中には画期的に優れている論文も多々ある。しかし、中には明らかに政治的もしくは個人的なバイアスによって掲載されているつまらない論文も少なくない。噂だが、米国ではCNSの編集部員と仲良くなり論文審査に関して便宜を図ってもらっているケースもなきにしもあらずと聞く。また権威ある教授を利用して、無理やりCNSに論文を発表できるようにはたらきかけるケースもあると聞く。ITに関して商業的な価値(株価の操作等)をねらった投稿もあるようだ。

ノーベル賞やそれに次ぐ数々の賞を受賞している著名な研究者の話しの中に、必ずと言っていいほど、「受賞対象の論文はNatureにリジェクトさたので、この専門誌に発表したんだよ。」というようなエピソードがある。そしてその論文は、新しい研究領域を開拓し、真の意味での科学の進歩への貢献にとって重要な地位を築くことがある。CNSでなくても、いい論文はいい論文なのである。

私はCNSが悪者だと言っているのではない。私自身、画期的と思われる結果はCNSへの投稿をまず考えるし、実際そうしてきた。しかし、科学の評価システムを考えたとき、CNSファクターに重点を置きすぎることに懸念を感ずるのである。論文とグラントの評価こそ、科学者にとって一番重要な価値基準となる。それが、商業誌の裁定のみでなされるべきではないことは明白である。

ではどうすればいいのだろう?以前にも述べたが、Peer ReviewのシステムをCNS偏重から、原点であるところの「専門家による専門家の判断」に戻していかなければならない。科学者自身が同じ分野の科学者の仕事を公正に厳粛にどう評価できるか?ということなのである。口で言うのはたやすいが、実際審査員の立場で考えると、それは途方もなく労力を要する仕事なのである。評価の問題は、科学者皆で考えていかなければならない大きな課題である。


ムスコカ秋近し

2006年09月19日 | カナダ
昨日と今日はトロント大学・大学院メディカルバイオフィジックス研究科のレトリートで、ムスコカにあるGeneva Parkに行ってきました。日曜から火曜日までの日程です。初日はオンタリオ癌研究所の新しい所長としてハーバードから赴任してくるBen Neel博士の基調講演がありました。彼のサイエンスをこよなく愛する姿勢が伝わってきて好感を持ちました。Benの講演を聞いた後、昨夜は同研究科の学生、ポスドク、教授皆が遅くまでビールを片手に交流を深めました。12時過ぎてから、キャンプファイヤーも始まり、かなり遅くまで飲み明かした学生もいた模様です。今朝は9時からセッションが始まり、私もセルシグナリングのセッションの座長を務めて任務を無事完了し夕方帰宅しました。都合で明日はラボに戻ります。

早朝、会場となったGeneva Parkを散策すると、秋の兆しを感じさせるカラフルなメープルをあちこちで見かけました。もう1-2週間もすると、このあたりは一面赤や黄色の世界になるのだろうと思いながら写真に収めました。

Terry Fox Runそして大学院レトリート

2006年09月17日 | カナダ
明日はFerry Fox Runです。昨年、このイベントについて詳しく紹介しました。興味のある方は、ここをクリックしてください。癌の研究費を集めるために、全国でたくさんの人が走ります。私もこの癌研究財団から研究費の支給を受けています。そして毎年走ります(歩くと言った方が正確でした)。明日はきっと晴れるでしょう。

そして午後からは、大学院のレトリートがトロント郊外でありますので、一泊二日で行って来ます。ムスコカの方はもう紅葉が始まっているかもしれません。いい写真が取れればアップします。

モントリオールの大学で乱射事件

2006年09月14日 | カナダ
たった今(北米東部時間13日午後8時)聞いた情報ですが、カナダのモントリオール市にあるDawson Collegeで乱射事件があった模様です。このカレッジは私は知りませんでした。カフェテリアにいた男子学生の話しによると、男が突然現れ無作為に乱射を始めたとのことです。これまでにわかっていることは、女性一人死亡、十数人が重症を負った模様です。犯人はどうも一人のようで、警察によって射殺されたという情報です。

モントリオールは、トロントから車で約5時間ほどのカナダ第二の大都市で、フランス語圏であるケベック州の中心都市です。様々な文化が入り混じった活気ある素敵な町です。こういう不幸な事件が起こることは誰が予想したでしょうか?

グエルフへ

2006年09月10日 | カナダ
今日は、トロントから車で1時間ほどのところにあるグエルフ(Guelph)市に行ってきました。ここは、グエルフ大学を中心とする大学町ですが、街を歩いているとコウカシアンがはっきりと多く感じられます。のどかでゆったりとした雰囲気の街で、繁華街というと旧市街の一角と大学の近辺にあるショッピングモール程度でしょうか?コスモポリタンな大都市トロントとはちょっと雰囲気が異なりますが、清潔で安全なカナダのいい町といった感じです。

グエルフ大学は、農学系が伝統的に有名ですが、このところライフサイエンスにも資金投入をしている総合大学です。今日は入寮日で、息子を大学の寮まで送り届けてきました。同じように、たくさんの親たちが子供と荷物を車に載せて来ていました。寮は緑豊かな大学のキャンパスの中にあって、どこへ行くにも便利でとても恵まれた環境です。寮の部屋も個室でベット、机、本棚などがそろっていて十分です。バスルームとリビングルームは、数人のルームメートと共用です。月曜日から新学期の始まりです。

お金のなる木

2006年09月09日 | カナダ
「Pachira Aquatica」という30cmほどの高さの観葉植物を手に入れ、私の自宅の机の上に置いてある。背丈のわりには太い幹、そこから伸びる若い枝の先に大きくてきれいな五枚葉が、太陽の光を求めて広がっている。なぜこの木を「Money Tree」というのかは、私は知らない。ウエブで少し調べてみると、この木はメキシコから南米に繁殖する木で、きれいな花をつけ大木になるらしい。花が終わると実ができて、その実は食用にもなるとある。近年フロリダにかなり移植され、北米でも多く見られるようになったようだ。なぜ「Money Tree」と呼ばれるかの説明は見当たらない。

日本や中国にも、同様に「お金のなる木」と呼ばれる木はあるが、それはベンケイソウ科のオウゴンカゲツ(黄金花月)という木で、私の机の上にある観葉植物とは異なる。学名は「Crassula ovata」だそうだ。この木も華麗な花を咲かせるらしい。

まあ、どこの文明社会でも人間のお金に対する欲望は共通ということなのだろう。「Money Tree」とは知らず手に入れた、この美形の観葉植物を眺めながら思いにふけっている。

BEWARE OF DOG!

2006年09月05日 | ペット
ハードウエアの店に用事があっていったら、「犬にご用心!」のプレートが目に付き、思わず衝動買いをしてしまいました。

「BEWARE OF DOG!」いかにも怖そうな犬がいそうな雰囲気です。早速サイドウオークのフェンスに取り付けました。しばらくして、隣の夫婦におもてで会うと、彼らは口をそろえて、「なんていい考えなの!チェルシーにぴったりだわ!:-)」といって笑い転げていました。かなりの「うけ」でした。

彼らはチェルシーが「犬にご用心」の警告には似ても似つかわしくないことをよく知っているので、愛想のいいチェルシーを思い浮かべながら、このサインを面白ろがっているのです。もちろん、彼らはこのサインの目的が防犯であることは承知のことですが。

写真をご覧ください。どうでしょうか?とってもよく似合っているではありませんか?

列車の旅

2006年09月04日 | カナダ
アメリカやカナダで旅をするときは、飛行機以外にあまり交通手段を考えたことはない。もっとも、トロントから200km程度のところにあるキングストンやロンドン(オンタリオ州)に行くときは、車か電車を利用することはある。500km離れたモントリオールへは飛行機で一時間なので、仕事で行くときはまず空の旅になってしまう。

その点、日本では鉄道が発達しているので、車窓を眺めながらのんびりと旅をするというような贅沢を味わうことができる。大阪から東京へ行く際に、名古屋から中央線を利用して、木曽路で一服というのも乙なものではないか?駅弁を広げて窓の外の山並みを眺めながら鉄道の旅を楽しむ。至福のひとときである。

もちろんカナダにも大陸横断鉄道があるし、数日間かけて汽車で大陸を横断するのも楽しいに違いない。私はまだできずにいる。某コンファランスのエクスカージョンで、バンクーバーから機関車に乗り、社内で夕食をとりながら、大陸横断鉄道の醍醐味をちょっとばかり楽しんだことがあるが、それは往復数時間の旅であった。

学生時代に蒸気機関車の凝って、消えゆくD51やC12などを写真に収めるために旅をした思い出がある。九州の高森線、京都の梅小路機関区、そして北海道の岩見沢機関区などで聴いた機関車の蒸気の音が忘れられない。また一度、のんびりと汽車の旅がしたいものだ。

新学期スタート

2006年09月03日 | カナダ
あっという間に9月になってしまいました。今日は雨模様で一日中空はぐずついていて、夕方からは秋の気配を感じさせる涼しさになりました。日本の学校は9月1日が新学期がスタートだと思うのですが、こちらはLabor Day明けの9月5日、もしくは多くの大学が9月11日の新学期スタートです。ラボの方は特に大学のカレンダーの影響は受けませんが、学生の講義がスタートしたり、大学院生のセミナーが再来週から始まりますので、やはり雰囲気は違ってきます。新学期のスタートする前の週末は、どこの大学もレジデンスに入居する学生たちで賑わいます。時間帯によっては、レジデンスの前は子供を乗せた親たちの車の長蛇の列ができます。この時期の風物詩ともいうべき光景です。