カナダ・エクスプレス

多倫多(トロント)在住の癌の基礎研究を専門にする科学者の自由時間ブログです。

学位審査会

2005年08月31日 | サイエンス
今日は私のラボの博士課程の学生I君の学位審査会でした。7月11日の記事で他の大学の学位審査の例を紹介しましたが、トロント大学医学生物物理学研究科の場合は、外部評価委員一人、研究科外審査委員二人、そして学生のアドバイザー教官二人、座長一人、そして指導教官である私を含めて七人の構成です。40分のパブリックセミナーの後、別室に移り2時間15分の質疑討論が行われました。この学生は、第一著者でNature一報、Molecular Cell一報、BBAの総説一報を発表しています。研究内容に関してはまったく問題なし。ただ、学位論文の手直しを中心にいくつか注文は着きました。そして、無事合格。その後、外部評価委員として参加していただいたQueens大学のD教授のセミナーを拝聴したあと、夜はD教授とラボの皆で楽しい会食をしました。学生が一人づつ育っていくのを見送るのは、感慨深いものがあると同時に、仕事を一つ終えたという満足感があります。I君は米国有数の某バイオテク会社でポスドクをする道を選びました。大きく羽ばたいてくれることを願うのみです。

木の上のラクーン

2005年08月27日 | カナダ
我が家の愛犬チェルシーが、暗がりの木の上を見上げながら盛んに吠えているのを息子が見つけました。懐中電灯をもって彼が近づくと、木の上からracoon(アライグマ)がチェルシーと息子を見おろしていました。息子に呼ばれて私も近づいていくと、アライグマはびくともせずにんまりと我々を見くだしていました。何とも腹のすわったやつです。近所のゴミ箱荒らしの犯人をついにカメラにとらえることができました。

ラボのピクニック

2005年08月25日 | カナダ
昨日(8月23日)はラボのピクニックで、トロントのハーバーフロントからボートで10分のところにあるトロントアイランドに行ってきました。ちなみに、この湖は五大湖の一つ、オンタリオ湖です。お天気にも恵まれ、BBQでハンバーガーやホットドックを作り、皆で楽しみました。Bison(野牛)のバーガーも結構いけました。二人乗りのサイクリングも楽しみました。このトロントアイランドから見るトロントのダウンタウンは、見事なスカイラインを描いています。

(ポスドクの記事に関するコメントどしどしください。皆さんからの多数のコメントに目を通してから、また関連記事をアップする予定です。)

一人の科学者にとってのポスドク時代の意義

2005年08月23日 | サイエンス
今日は、ポストドクトラルフェロー(PDF)について書いてみます。日本でも、ここ10年ぐらいで、この制度がかなり浸透してきて、読者の中にもPDFとして研究をしている方々がおいででしょうね。私も88年から91年まで、米国の国立衛生研究所(NIH)でポスドクをやりました。そして、その3年と8ヶ月の間に、研究者としてかけがえのない素晴らしい経験をして、PDF制度の恩恵を受けた一人だと思っています。学位は言ってみれば運転免許みたいなもので、免許をとっても一人前の研究者になるにはまだまだ先は長いのです。一人の科学者が経験を積み成長していく過程で、ポスドク時代がいかに重要かということをここで考えてみます。

まず第一に、PDFは基本的に自分の研究だけをすればよいという暗黙の了解があります。研究者にとってこの上ない幸せな職種なのです。極端な言い方をすれば、本当に研究が好きなら、お金を払ってでもやりたくなるポジションです。グラントを自分で書かなくても、研究に必要な設備が与えられ消耗品が使えます。こんな時期は他にありません。学生時代のような授業もなければ試験もない、それに、講義もしなくていいし、雑用もほとんどない。研究者としてこれほど自由な時間が多い時期というのは、前にも後にも他にありません。研究にどっぷりと浸かることができる素晴らしい時期なのです。研究を生涯の職業に選んだ方は、まずそのことを念頭において、ポスドク時代を満喫してほしいのです。与えられた時間を生かすか、無駄にするかは本人しだいです。

次に、適切な研究環境でPDFをすることは大切です。すなわち、大学や研究所の科学に対するビジョンがしっかりしているかどうか?あなたの分野の科学に対するサポートは十分あるか?私の場合、周りの環境に大変恵まれていたといっても過言でないでしょう。NIHには研究第一の精神が漂っていたと思います。そして、私がNIHに行った88年当時は、NMRによる蛋白質構造解析をNIHが本腰を入れて始めようと、新しい研究室を二つと既存の研究室の協力体制を整えようとしていたところでした。その一つに私は入りました。やると決めれば、研究費をどんどん投資して、いい研究者を集める。そんなカルチャーに接することができたことは、言ってみれば、栄養豊富な恵まれた胎盤の中で研究者として成長することができたということになります。その経験を通して、自分自身の科学に対するスタンダードをどのレベルに定めるか、ということにも大きく寄与する結果に結びつきました。一研究者の生涯研究の遂行にとって、これは大きいと思います。

環境は、建物や設備などの入れ物だけでできているのではありませんね。環境は人が作ります。周りにいる研究者との接触、相互作用が、全体の環境に及ぼす影響は計り知れません。私の場合、直接の上司をはじめとして非常に多くの優秀な同僚に出会うことができ、実験の詳細や新しいアイデアなどを議論しながら互いに刺激しあう貴重な経験をしました。同じ分野の研究室間の交流も非常に盛んでした。同じ科学を志す研究者の同僚には、組織の壁は必要ないと強く感じました。そして、その時一緒にポスドクをしていた友人は今では世界中で活躍していて、そのネットワークは大きな財産になっています。人との出会い、そしてそのタイミングが大事です。科学のホットトピックスは時々刻々と変化していますから、それを的確にとらえ、時代とともに成長する進路決定は得にこそなれ損にはならないはずです。

結論は、学位を修めて科学者として次のステップを考えるとき、PDFはこの上ないありがたいポジションです。科学者の一生に一度しか回ってこないこのチャンスを生かすも殺すも、あなた次第です。進学する大学や大学院を決めるときよりも、その後の研究者としての人生にとってもっと重要な選択になるかもしれません。自分の研究方向を見定め、それをさらに発展させて行くためには、どこへ行けばいいか?どんな研究環境に自分の身を置くことが、あなたの研究者としての人生にとって最善手なのか?そういうことを真剣に考えて、学位取得後の進路を考えるといいのではないでしょうか?変化を恐れず、前向きにホップステップジャンプする方針を定めれば、必ず幸運が訪れるはずです。そう信じて進むのみです。

この記事を読んだ若い研究者の諸氏は、もしかしたら、具体的にどうやって海外のポスドク受け入れ先を見つけるか、という疑問を持つかもしれませんね。どうでしょうか?もし興味があれば、私の経験を披露して参考にしてもらうことも考えています。この記事が役に立ったかどうか、私の例をもっと知りたいかどうか、教えてください。コメントをお待ちしています。


集中豪雨

2005年08月20日 | カナダ
昨日午後4時ごろから断続的に雷をともなう集中豪雨がトロントを襲い、私の家の近くを流れている小さな川・ドンリバーが氾濫しました。夕方には雨が止んで、谷沿いにあるゴルフコースまで下りていくと、コースはかなりの部分川に飲まれていました(写真)。近所の人たちは、こんなことは見たことがないと驚いていました。翌朝(今朝)、もう一度ゴルフコースに下りてみると、水は引き、幸い被害もそれほど大きくはなさそうでした。次の写真は翌朝のもので、流木がきれいな曲線を描いていますが、昨日はこのラインまで水が来ていました。ドンリバーは左下方で水位がほぼ通常にもどり、写真には写っていません。

トロントの酒屋

2005年08月16日 | カナダ
私はあまりアルコールはいただきませんが、家人がワイン、シャンパン等を嗜好いたしますので、時々近所のショッピングモールにある酒屋(LCBO)につき合わされます。カナダの酒屋はすべで州政府の直営ですが、最近は大変モダンな店が多くできて、店内ではクッキングスクールを催したり、試飲会をやったりと、大変楽しい雰囲気です。この週末はその雰囲気に誘われて、私もメキシコのビール・コロナエクストラを買ってしまいました。

LCBO:Liquor Control Board of Ontario

お盆に思うこと

2005年08月14日 | 日本
音楽の話しをすると、高校時代の旧友がネットを通して会いに来てくれました。驚くと同時に感謝の気持ちで一杯になります。わたしは名古屋にある南山高等学校を1975年に卒業しました。大学を有するカトリックの私立校で男子部と女子部がありました。竹下景子さんは同校の女子部出身です。卒業後、私は北海道大学に進学しました。南の山のスクールから北の海のスクールへ行ったわけです。「青年よ大志を抱け」というクラーク博士の言葉にひかれたというよりも、北の大地ののびのびした雰囲気にあこがれた、というのが純粋な気持ちだったように思います。そして、期待した通り、学部の4年間ほんとうにのびのびとした楽しい学生生活を送らせてもらいました。私は、南山高校も北海道大学も本当にかけがえのない多くのことを教えてくれた愛すべき母校だと心から思っています。話しはかわりますが、私がまだ小学生の頃、祖母が占い師に「この子は将来どふなるか?」と聞いたのを今でも鮮明に覚えています。その女性の占い師は「どこか遠くへ行く」といったことも覚えています。そして、幼い私の心に思い浮かんだ「遠く」とは、アメリカの五大湖のあたりというものでした。おそらく、授業で五大湖の名前を暗記させられていたころだったのでしょう。そして私は今、五大湖の一つオンタリオ湖畔の都市トロントに住んでいます。はやくも15年目です。その前のアメリカ・メリーランド州での3年を入れると、日本を離れて18年も経ってしまいました。月日の流れるのは早いものです。皆さん、お盆休みをお楽しみください。

お盆休み

2005年08月12日 | サイエンス
日本はお盆休みですね。科学雑誌『蛋白質・核酸・酵素』のリレーエッセイのための原稿を数週間前に書き終え、そのゲラ(この日本語はおそらくgalleyからの派生語ですね?)刷りが回ってきたので、この週末はそれに目を通します。タイトルは、「科学する心―アリンコ提言」です。10月号に載る予定です。乞うご期待!

夏の風物詩

2005年08月08日 | カナダ
このところ蒸し暑い日が続いていましたが、今日は、湿度が比較的低くしかも快晴で、すがすがしい一日でした。雨の降らない日が続いているので、どの家も芝生の水は欠かせません。これがトロントの夏の風景です。

グラントの種類

2005年08月05日 | サイエンス
久しぶりにグラントの話しをします。ここでは医学、理工学系の場合に話しを限定します。以前にも言いましたが、グラントには様々な種類があります。大きく分けると、
オペレーティング・グラント(以下OPと略す)
プログラム・グラント(同PR)
エクイプメント・グラント(同EQ)
メインテナンス・グラント(同MT)
パーソナルアワード(同PA)
といったところでしょうか。もちろんこの他にも特別な目的に標的を絞ったグラントがNIH(米国)やCIHR(カナダ)などから出ていますが、ここでは触れません。

OPとPRは、消耗品や人件費を主体としたグラントで通常3年から5年の期間に年間500万円から3000万円ぐらいまでの予算が計上できます。OPは主に一人の研究者が中心になって行う研究ですが、PRは複数の研究者が同一の研究目的に向けて共同研究を行うことで何らかの相乗効果が生まれることが期待される場合に適しています。PRは複数の研究者によるOPをまとめたものと見ることができます。研究者同士が互いに相補的に働いて、それぞれ一人で行うよりもより生産性が高くなるのであればいいのですが、往々にしてグループの中の一人が論文発表が好ましい結果でなく、他の人の足を引っ張りかねない状況が生まれますので、注意が必要です。逆にジュニアな研究者にとっては、経験がありすでにプロダクティブなグループに加わることで、グラント獲得のチャンスが増すというケースも当然生じますので、グループに入ることはプラスに考えたほうが懸命でしょう。予算の額に開きがあるのは、やはり人件費に対する考慮があるからです。すなわち、ジュニアな研究者は、新人のテクニシャンやポスドクを取るわけでしょうから、人件費は最小限に抑えられます。逆に、20年、30年継続してグラントを獲得している研究者には、長い間プロジェクトに貢献してきたテクニシャンがいるでしょうから、そう言う場合には人件費は必要なだけ支給される可能性が高くなるわけです。まあ他にも様々なファクターが関与してきますから、一概には言えませんが、予算の勾配はグラント獲得年数に比例してくるという法則はある程度あります。すなわち、ジュニアな方は最初から高額を要求しても、削られるか、悪くすると採点時にマイナスに働く可能性がありますから、予算の妥当性を十分に考慮することを薦めます。

EQは文字通り、装置の購入のみに当てられるグラントで、通常複数の研究者(多いほうが説得力がある)が利用することを前提にしています。ですから、「自分の研究に必要だから購入したい」という趣旨の申請書では、他の申請書と較べられたとき、それがどんなに重要な目的であっても、説得力に差が出ます。高額な装置が、学部全体、大学全体でどのように利用されるか、さらには学外の利用者も考慮されているか、などの項目がチェックされるでしょう。もちろん、これはケース・バイ・ケースで、きわめて特殊な装置は専門家のみで利用するとしても、科学的妥当性がしかっりしていて、その研究者の生産性が高ければ、通る可能性は十分あります。

MTは、既存の装置の保守・運転目的に必要は経費を計上できるグラントです。大型装置の保守契約などが該当します。この場合も、上記のEQの場合と同じで、できるだけ多くの研究者が、時間ロスのない運転を必要としていることを明白にし、そのためにMTが必要であることを説くことが、カギになります。

最後のPAは、科学者の給与に当てられるもので、5年間が普通です。勤務期間によって、何段階かのアワードがあるのが普通ですが、いづれの場合も直接研究者自身に入ってくるのではなく、グラントは大学や研究所に帰属されます。そして、給与の全額もしくは一部がこの予算を用いて支払われることになるので、得をするのは研究機関のほうである、という見方もできます。アメリカの場合、自分の給料はグラントから80%-100%支払うのが一般化してきていますが、こういうアワードがつけば、自分のOPへの負担も減るので研究室にとってもプラスになります。カナダの場合は、PAを取っていると、研究に専念するという大儀名文のため、ティーチングの責任を減らしてもらえたり、獲得金額に対して何割かを学内グラントとして支給する機関もあるようです。もちろん、こういうアワードは研究者自身のCVには大きなプラスになります。

以上グラントの話しでした。参考になれば幸いです。質問や意見はコメントでどうぞ。すべてにお答えできるかどうかは分かりませんが、できるだけお答えします。

Sarah McLachlan

2005年08月03日 | 音楽
Otake様:レッドツエッペリンにシカゴですか?懐かしいですね。「天国への階段」、貴兄が興奮していた当時の様子が目に浮かんできます。

キャロル・キングにせよ、若い読者の方には、何のこっちゃ?という反応かもしれませんね。そこで、私の好きな比較的新しいシンガーをご紹介いたします。一押しは、カナダの女性シンガーソングライターのSarah McLachlanです。彼女は、とても美しいメロディーを作り出す才能の持ち主で、スケールの大きな曲や情緒に富んだ詩的な曲を数多く生み出しています。アルバム「Surfacing」、「Rarities, B-sides」、「Mirrorball」が特にお勧めです。北米ではかなり有名だと思うのですが、日本ではどうなのでしょうか?Otake様、他の読者の方々、ご存知でしたでしょうか?もし、ご存知でないようでしたら、一度聴いてみてください。手始めに彼女のヒットソング「I will remember you」あたりをお勧めします。

乗客・乗員全員無事救出

2005年08月03日 | カナダ
トロント・ピアソン国際空港で8月2日東部時間16時ごろ、パリからトロントに向かっていたエアフランス358便のエアバスA340が滑走路を200mほどオーバーランし炎上しました。今18時30分ですが、こちらのニュースによると乗客・乗員全員無事だとのことです。機体の状況から最悪を予想した人も多いと思いますが、本当によい知らせです。取り急ぎ報告まで。

野うさぎ

2005年08月02日 | カナダ
数週間前から家人が、近所にウサギがいると言っていましたが、私はまだ目撃していませんでした。うちの裏の谷を下りたところにゴルフコースがあり、小さな歩行者専用の公道が一本谷を横断していて、そこから谷沿いの美しいゴルフコースを見物することができます。その近所で野うさぎを見たというのです。この週末、毎朝我が家の愛犬チェルシーを連れて散歩がてら私もゴルフコースに下りたのですが、三日間とも幸運に恵まれませんでした。ところが、連休の最終日の夕方、つい先ほど、やっとその野ウサギと出会うことができました。早速カメラを構えて、徐々に近づいていったのですが、幸いかなり接近しても逃げませんでした。かわいいバニーに会えて満足です。

8月1日-CIVIC DAY

2005年08月02日 | カナダ
今日も気温が30度を超え蒸し暑くなりました。今年は例年よりの蒸し暑い日が長く続いています。今日はこちらはCIVIC DAYでほとんどの州で休日です。蒸し暑い中、外で草取りをしました。土に触れると、日ごろの生活では感じられない自然への感謝の気持ちが沸いてきます。この土が人間に限らず地球上のありとあらえる生物にエネルギーを与えてくれています。そしてこの土壌層は、地球を仮にトマトに見立てると、その直径を70メートルに拡大したときの、もとの薄皮がその土壌層の厚さに相当するそうです。そして、太陽系のどの惑星にも同じものはありません。実に欠けがえのないものです。太陽、水、空気、そして土、これが生命の4大元素であることは、古代ギリシャの人たちがすでに気づいていました。そして、それらが密接に関係しあって存在している。それが地球です。まったくその通りだと、庭で土をいじりながら思いました。