カナダ・エクスプレス

多倫多(トロント)在住の癌の基礎研究を専門にする科学者の自由時間ブログです。

「理科ばなれ」について

2006年04月15日 | サイエンス
日本で理科ばなれが進んでいると聞く。ある統計では、日本の子供の理科の学力はこれまで世界的にも常に最上位であったが、最近の統計では第三位に下落したということである。それにもっと憂うべきことは、「理科がすきか?」という質問に対して「はい」と答えた子供の数の割合が、調査された国々の中で最下位であったそうだ。科学者としては、考えさせられる問題である。

なぜ子供たちが理科から離れていくのであろう?現代社会の子供たちは、コンピュータ、携帯、DVDなど科学技術の中で生きているといっても過言ではない。しかし、子供たちにもっと必要なものは、素朴な自然やその自然と向き合って人間が作り出した知恵(すなわち文化)と接することではないだろうか?その中に理科離れを止める一つの答えがあるような気がする。こういう言い方はあまり好まないのだが、私が幼い頃は、小川でおたまじゃくしを観察したり、小学校の高学年になると天体望遠鏡を買ってもらって、天体観察に明け暮れたことが思い出される。名古屋・白川公園にある科学博物館のプラネタリウムは、私の大好きな場所だった。また、魚屋の店先では大きなマグロをさばく光景を目撃したり、鍛冶屋で火花を散らしながら鉄を打つ職人の姿を凝視していた思い出もある。秋祭りには、大きな屋台車に乗っているからくり人形の細かな動作に目を見張ったものだ。身近に科学へ興味を抱くきっかけが多かったような気がする。

よく引き合いに出される例ではあるが、今の子供たちは残念ながら、スーパーで売っているマグロの切り身がどんな魚から取れるのか知らないだろう。食卓に紙パックでおかれているミルクは、どこからどうやってやってくるのか、知っているだろうか?時代が違うのであるから、古い時代に可能であった経験をさせるのは無理であるが、もっと初等教育や家庭教育の中で、子供たちに自然現象や機械、道具の仕組みなどに接する機会を作ってやるのが大人の責任であろう。

私はこれまで大学・大学院の教育現場しか経験がないが、その現場でも明らかにサイエンスからもっと実利的な職種(医者、弁護士、経営者等)へ有能な人材流失していて、危機感を持っている。理科に興味を持ってくれる子供たちが多くなることを願わざるをえない。自然の偉大さ、美しさをもっと子供たちに伝えて生きたい。そのために初等教育の大切さを切実に感じている今日この頃である。



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