カナダ・エクスプレス

多倫多(トロント)在住の癌の基礎研究を専門にする科学者の自由時間ブログです。

中村勘三郎さん逝く

2012年12月04日 | 日本
歌舞伎役者の中村勘三郎さんが突然なくなられた。同世代でもあるので、大変驚いた。

急性呼吸窮迫症候群が直接の死因だったとの報道だが、おそらく食道がん手術後に患った肺炎が好転しなかったのだろう。術後の肺炎併発はめづらしいことではないが、50台の若さで肺炎が悪化してなくなるのはそれほど多くはないのではないか?

しかし、やはり彼の命を奪ったのは食道がんである。食道がんの原因として考えられる一番の原因は、喫煙と飲酒である。この二つの生活習慣を長く続けている人の発がん率はどちらもやらない人に比べて約30倍になるという統計がある。勘三郎さんは酒豪であったようである。

喫煙や飲酒によって何が食道に起こるのだろうか?これらの刺激を受け続けた食道表面の細胞の中で、定常的に遺伝子変異が起こされ続けて、ついにはがんを誘導する遺伝子に変異が起こってしまったのであろう。それは一遺伝子と考えるよりも、おそらく十種類近くの遺伝子の変異が積み重なって、ついにはがん化すると考えられる。極端に言うと、過度のタバコ(ニコチンやタール等の化学物質)やアルコールは食道に爆弾を投下しているようなものである。好きな人は、それでもやめられないのであろうが。

遺伝子変異の原因には喫煙や飲酒の他にも、ウイルス性(例えばHPV)のものも多いに考えられる。特に咽頭癌や舌癌(いわゆるHead and Neck Cancer)にはこのケースが多いが、食道がんには少ないようである。

それにしても、歌舞伎会の名役者中村勘三郎さんのあまりにも早すぎる逝去は、人類の大きな損失である。勘三郎さんや他の多くの人々の命を奪うがんの治療が少しでも早く進むように、我々研究者も頑張らねばと痛切に思う。

勘三郎さんのご冥福を心からお祈りする。


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