尿素SCRシステムの基幹部品であるポンプモジュール…
尿素水を吸い上げ加圧してドージングモジュールまで送るための機構です。
今現在、世界中の自動車に搭載されている尿素SCRシステムは全てBOSCHの尿素SCRシステム…
つまり、シェア100%…
初期の頃のシステムはdenoxtronic1なんて言って、コレは尿素SCRシステムを始めて採用したUDのクオンやふそうのスーパーグレートに搭載されています。
見た目はデカイ弁当箱みたいなポンプモジュールなんですが…
この頃のポンプモジュールは尿素水をタンクから吸い上げてドージングモジュールまで圧送し、マフラー内に噴射する時は圧縮エアーを使い噴射しています。
その為、ポンプモジュールには尿素水経路とエアー経路が組み込まれています…
過去にも記事にしましたが、このタイプのポンプモジュールで定番の故障はドライヤーを通り抜けたオイル成分を含んだエアがポンプモジュールに入り込みエアー経路内で酸化劣化する事で経路を閉塞させてしまうトラブルで…(ちなみにコレもエンジンオイルが蒸発する事で起きるトラブル)
尿素水を噴射するためのエア圧が確保出来なくなりチェックランプを点灯させます…
まあこの手のトラブルは少々注意事項はあるもののエアー経路を掃除してやればほとんどのケースで改善されます。
その他のトラブルとしては起こるのはセンサーやアクチュエータのトラブルで、内部のセンサーやアクチュエータ類が機械的な不具合を起こすケース。
実はこれも問題のセンサーやアクチュエータを交換する事により修理する事は可能なんですが…
残念ながらメーカーからはポンプモジュール内部の部品供給がありません。
そのため、ディーラーさんに持ち込めば問答無用でポンプモジュールASSYでの交換となり修理代がとんでもない値段になります…
ちなみに、このdenoxtronic1のポンプモジュールはUDさんの純正新品定価は約56万、ふそうさんのポンプモジュールは約72万となっています。
UDさん内部ではメーカーリビルトがあり値段は知りませんがディーラーにのみリビルト品の供給販売があるようです。
また、BOSCHの指定サービス会社さんに問い合わせるも、契約上の問題でメーカー経由の依頼しか受けられないというなんとも歯がゆい対応。
その結果どういう事が起きているかというと良くも悪くもディーラーさんに修理を依頼するしかなくASSY交換で高額な修理費用が必要になっているわけです…
まあコレもメーカーさんの囲い込みの一種だとは思いますが選択肢が無いというのはユーザーにとって必ずデメリットになります。
実は今回の車両、このブログ経由で修理のご依頼を頂いた車両で…
ディーラーでの修理見積りは80万超え…
メッセージで相談を受け、話を聞いた時点では内部センサーの不具合だろうという判断でした。
それなら何とかなるかな…ということで受け入れたんですが、今回はちょっと特殊なケースだったので記事にしてみることに。
関東より自走で愛知県まで来て頂きました…
症状としてはSCRのチェックランプが点灯したり消灯したり、その後はずっと点灯していたり…という症状がランダムに出る状況でした。
写真撮り忘れましたが最初に診断機で確認した故障コードは…
P1BB1 SCRシステム
P1B86 尿素水温度センサー(P/M内)
P1BA8 CAN通信(SCR ECU)
P1BA3 識別センサー(CAN)
といったようなコード。
P1BB1とCAN系のコードはとりあえず無視…
チェックランプが点いたり消えたり…という事は、同一サイクル中の復帰性があるエラーコードと絞れる訳で、そうなってくると気になるのは温度センサーのコード…
データを点検すると尿素水タンク内の温度に対してポンプモジュール内での尿素水温度がマイナス表示。
更に詳しくデータを注視しているとポンプモジュール内の尿素水温度が目まぐるしく変わり、温度としてはあり得ない変化を起こしていました。
コレは明らかにおかしなデータとなっており、センサーは機能していない事は容易に想像できます。
この時点ではセンサーを交換すれば直るだろうと安易に考えていたんですが…
今回のケースはそう簡単にはいきませんでした…
まずはポンプモジュールの取り外しから…
カバーを外して…
問題の尿素水温度センサーの単体点検をしてみると…
見事にオーバーレンジ。
と、思いきや突然導通しだして抵抗値が目まぐるしく変化…
↓はその時の抵抗値の変化を撮った動画。
とりあえず、原因を確定させる為にウチがストックとして持ってるテスト用のセンサを取り付け…
モジュールを車両に仮付けしてセンサーの数値の変化を見ることに…
このセンサは可変抵抗に5V電源を加え電圧変化から温度を測定するオーソドックスなタイプ…
ちなみに仮に付けてあるセンサはちゃんと生きているモノです…
外気温約21℃で2.3kΩ。
ところが正常なセンサなのに電圧が全く変化せず…
データ上の温度もマイナス固定で変化が無い…
試しに色々と手持ちの抵抗を間に入れて意図的に抵抗値を高くしても5Vのまんま…
⁉︎
センサ交換で直ると思っていたものが中々厄介な状態と判明…
もしかしてDCUがご臨終…⁉︎
その後も色々と検証をした結果コンピュータが悪さをしている可能性があるという事で、今回は初の試みでしたが、特殊な方法で修理してみる事に…
こちらは上手くいきました…
更に分解ついでによく詰まるエア経路のお掃除も行い…
全て組み付けて、フィルターも新品に交換。
で、車両にドッキング…
接続を再度確認して…
診断機を接続して過去コードやメモリをリセット…
故障コードも消え…
エンジン始動…
無事に温度も正常な数値に戻りました。
当然タンク内温度との差も正常値になり…
無事にチェックランプも消灯。
その後システムテストを行い全て正常に機能する事を確認…
作業サポートによる尿素水の添加量もキチンと確認していざ試運転。
トータルで200km以上試運転しましたがチェックランプも点かず、尿素水も正常に減っており問題なし…
あとは各部に漏れや締め忘れがないか最終確認をして…
無事に修理は終わり…
先日、無事に引取りも済んで完了。
今回はイレギュラーな作業の為修理費用も少々かかってしまいましたが、それでも新品交換と比べ修理費用は約半額。
またケースによってはもっと安価に修理する事も可能な事も分かりました…
部品さえ出れば修理可能なモノも部品が出ないからという理由で80万はやっぱり納得出来ませんよね…
今回のトラブルは初のケースで私自身も色々と勉強になり非常に貴重なデータが取れました。
で、今後もこういった特殊な修理に対応するため日本では入手困難な部品を海外の会社と協力して仕入れる準備もしています…
まだまだ100%対応は難しいですが出来る事から少しずつ進めていきます…
この辺りの修理技術や体制を確立出来れば交換する必要のない部品は交換しなくて済む訳で、それはイコール修理コストの削減に繋がります…
修理技術はやっぱり実践していかないと確立出来ませんからね…