わが輩も猫である

「うらはら」は心にあるもの、「まぼろし」はことばがつくるもの。

ホワイトクリスマス=福島良典

2008-12-22 | Weblog

 インターネットの競売サイトで、サルコジ仏大統領の人形が「クリスマスプレゼントに最適」と売り出されている。「もっと働き、もっと稼ごう」などのサルコジ節が印刷された布製の「呪いのサルコジ人形」に購入者が針を刺す仕様だ。大統領は回収を求めて裁判に訴えたが、販売継続が認められた。

 そのサルコジ大統領に最近、「恥を知れ」とかみついたのが環境保護NGO(非政府組織)だ。議長を務めた今月の欧州連合(EU)首脳会議で地球温暖化防止対策の合意を取りまとめるため、温室効果ガスの排出削減緩和を狙う産業界に譲歩しすぎた、というのが理由だ。

 譲歩を迫ったポーランドには環境NGOから抗議の意思を込め、当てつけに石炭4トンが贈られた。発電量の約95%を石炭による火力発電に頼るポーランドの要請で、EUが電力部門に配慮する措置を認めたからだ。NGOの落胆は理解できる。

 だが、EUが野心的な目標を掲げ、低炭素社会に向けて世界の先頭を走る構図に変わりはない。そもそも、環境保護にだけ目を奪われて自国の失業者を増やしたり、不況を招いては政治家失格のそしりを免れない。大切なのは、ころ合いだと思う。「これならできる」と産業界をその気にさせる努力も必要だ。

 地球の体調は良くない。だからといって食べ物を口にせず、無理なダイエットを続ければ社会が衰弱する。今、必要なのは「環境か産業か」の二者択一でなく、「環境も産業も」の社会の実現を目指して知恵を絞ることだ。いつまでも、雪のあるホワイトクリスマスを楽しむためにも。さもなければ、呪いは私たちに降りかかる。(ブリュッセル支局)





毎日新聞 2008年12月22日 東京朝刊

震災とマスク=大島秀利

2008-12-22 | Weblog

 阪神大震災の発生直後、人命救助、衣食住、そして復興が優先され、壊れた建物が急ピッチで解体された。

 その中で「飛散するアスベスト粉じんから子どもたちを守ろう」と異文化コミュニケーターのマリ・クリスティーヌさんや市民団体、学生ボランティアらは防じんマスクを配り続けた。

 配布については、行政機関や多忙な自治体は取り合ってくれなかった。マスクの確保も、建設業関係者が大量に購入し、困難を極めた。それでも、なんとかかき集め、着用の必要性を訴え続けた。当時、「マスクプロジェクト」と呼ばれた。

 あれから来月で14年。再び「マスクプロジェクト」が先月、神戸大人文学研究科の研究集会を機に立ち上がった。

 発起人はマリさんや支援団体「中皮腫・じん肺・アスベストセンター」(03・5627・6007)事務局長の永倉冬史さんらで、95年以降の震災でもマスク着用を訴えてきた。

 その経験から、子ども用の粉じんマスクをあらかじめ備蓄しておくことが大切だと痛感し、今後の目標とする。いざというときは近隣の自治体などから即座に配布し、安全を守る考えだ。

 今年2月には、阪神大震災で建物解体に携わった中皮腫患者が、労災認定を受けた。中皮腫の多くは、石綿吸引後20~60年で発症するため、今後、被害の顕在化が懸念される。

 マリさんや永倉さんらは震災がないときから、マスク備蓄を進め、子どもたちに着用方法などの指導をしながら、予防のための環境教育をしようとしている。「平時からの備え」として注目したい。(科学環境部)





毎日新聞 2008年12月21日 大阪朝刊