「恐ろしい……。子どもたちがやる気をなくし、社会の底辺に沈んでしまう」
病気や自殺で親を亡くした子を支援する「あしなが育英会」の玉井義臣会長(73)はここに来て社会が崩れていく兆しを感じている。40年近く遺児家庭をみてきたが、親や子が頑張れば何とかなるという時代は遠くなった。
高校進学の際、同会に奨学金を出願する母親の年平均勤労所得は06年、137万円。8年前より32%も減った。この間、一般世帯の勤労所得の減少は6%どまり。低所得者ほど貧しさに追い込まれる傾向は強まり、そこに今の物価高が追い打ちをかける。
持病があっても、子どもの教育費のために通院を控える。生活保護を申請しようとしても「働けるだけ働いてから来なさい」と冷たい対応を受ける。そんな母たちの姿を見て進学を断念する子が後を絶たない。彼らが社会に出ても、受け皿のほとんどは母親同様、低賃金の非正規雇用だ。
これは人ごとではない。現役世代がお年寄りを支える年金制度をはじめ、誰もが安心して暮らせるための社会保障システムは、若者がしっかりした生活基盤を築けない社会では維持できない。だが遺児家庭を支える遺族年金ですら、社会保障費の抑制策で削減に追い込まれている。
後期高齢者(長寿)医療制度の是非が大きな論議を呼んでいる。大事な問題だが、貧困の連鎖が若年層から希望を奪っている現状にも、もっと関心を寄せるべきではないか。そこを軽視したまま高齢化が一層進めば、お年寄りにとっても、もっと過酷な時代が待っている。(生活報道センター)
毎日新聞 2008年4月23日 東京朝刊