わが輩も猫である

「うらはら」は心にあるもの、「まぼろし」はことばがつくるもの。

ガラガラポン幻想=与良正男

2008-12-19 | Weblog
 政治が行きづまると必ず出てくるのが「政界再編」話だ。確かに最近の政治記事にも再三登場する。しかし、妙な幻想を振りまくだけの再編話は罪作りだと考えている。

 再編というからには与野党全体を巻き込み、もっと明確な対立軸で、いくつかの新たな政党に編成し直す姿を連想する人が多いだろう。これを政界では「ガラガラポン」と言う。

 だが、現時点で自民党から出て行く人は少しいるかもしれないが、民主党が割れる可能性はまずない。民主党議員は今の体制のまま次の衆院選で過半数を取れると思い始めており、それが最大の求心力になっている。だから、分裂してみすみす好機を逃すようなことはしない。

 しかも、ほとんどの小選挙区が既に「自民対民主」で候補者が埋まっているから、新たにグループ分けしようとしても選挙区調整は容易でない。

 「衆院選後には政界再編」という自民党議員は少なくない。でも、それは自民党の敗北を前提に事前に保険をかけているような気がする。仮に勝てば再編話などどこかへ消えてしまうだろう。第一、選挙後に勝手に離合集散するというのは選挙結果などどうでもいいと言っているようなものだ。今の再編話は現実から有権者の目をそらすものだとさえ思う。

 本当に閉塞(へいそく)状況を打破したいと考えるのなら、選挙前に動いて有権者の判断を仰ぐことだ。有権者も「いつかは政界再編されるだろう」と政治家にお任せするばかりではいられない。現実を見据え、一人一人が責任を持って、まず「今ある中でどこが最もましか」を衆院選で選択する。そんな発想が大切だ。(論説室)





毎日新聞 2008年12月18日 東京朝刊

通の手紙=磯崎由美

2008-12-19 | Weblog
 <惨状を座視しているわけにもいきません。私もいかなる協力も惜しみません>

 埼玉県飯能市の介護施設で働く落合豊さん(41)は昨夏、県老人保健施設協会に手紙を出した。コムスン問題を検証した毎日新聞の連載で、財務省主計局の「介護は本当に賃金が低いのか。医療に比べ、現場の声が上がってこない」との言葉を目にしたのがきっかけだった。

 祖母の介護でやりがいを知り、6年前に介護職に就いた。結婚し娘も生まれたが、手取りは月20万円。心身の負担は重く、去っていく後輩を慰留する言葉もない。その現状と財務官僚の意識のギャップに驚き、手紙で署名運動を提案したのだ。

 後日、協会会長から返事が届く。<必ずや虹を見る日が来ます。皆で頑張りましょう>。報酬引き上げを求める署名活動は埼玉から全国に広がり、166万人分が集まる。その署名を添えた要望書を今年3月、財務省と厚生労働省に提出した。

 こうして、過去2度も引き下げられてきた介護報酬は来年度初めて3%上がることになった。労働者の給与アップにどれだけ直接反映されるかはまだ分からないが、1人の訴えがうねりをつくり、国に政策の流れを転換させた意義は大きい。失業者が増えるというのに、人手不足の現場がある。給与が上がるなら介護職に就きたいという若者も現れるかもしれない。

 「時代が必要とする仕事です。せめて普通の暮らしができる職業にしたい」。落合さんは給料が上がったら、「お金じゃないよね」と理解してついてきてくれた妻のためにも、いつか小さな中古の家を買い、2人目の子が欲しいと思っている。(生活報道センター)





毎日新聞 2008年12月17日 東京朝刊