言語空間+備忘録

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投資のもたらす経済成長と、限界生産力逓減

2011-08-03 | 日記
N・グレゴリー・マンキュー 『マンキュー入門経済学』 ( p.290 )

 経済成長に対する投資の重要性をみるために、図10-1を検討しよう。図10-1は15ヵ国のデータを示している。パネル(a)は、31年間にわたる各国の成長率を、成長率の高い順に示したものである。パネル(b)は、各国がGDPの何パーセントを投資にあてているかを示している。成長と投資の間には、完全ではないものの強い相関関係がある。シンガポールや日本のようにGDPの高い割合を投資にあてている国々は、成長率も高い傾向がある。ルワンダやバングラデシュのようにGDPの低い割合を投資にあてている国々は、成長率も低い傾向がある。もっと広範囲にわたる国々を調べた研究においても、投資と成長のこの強い相関関係は確認されている。
 しかしながら、これらのデータを解釈する際には一つ問題がある。第2章の補論で論じたように、2変数の間の相関関係は、どちらの変数が原因でどちらの変数が結果であるかを明らかにするものではない。高投資が高成長をもたらすということは十分考えられるが、高成長が高投資をもたらす可能性もある(あるいは、高成長と高投資のどちらも、分析から除外されている第3の変数によってもたらされているのかもしれない)。データそのものは、因果関係の方向について何も語ることができない。とはいうものの、資本蓄積はきわめて明確かつ直接的に生産性に影響を及ぼすので、これらのデータは高投資がより急速な経済成長をもたらすことを示していると、多くの経済学者は解釈している。


 投資と成長率の間には相関関係があり、一般には、投資を増やせば成長率が高くなると解釈されている、と書かれています。



 引用文中の図を示します。



★図10-1 成長と投資

1960~1991年の (a) 成長率 (b) 投資

韓国         7・0%   23%
シンガポール     6・8%   31%
日本         5・3%   35%
イスラエル      3・2%   27%
カナダ        2・8%   24%
ブラジル       2・8%   19%
西ドイツ       2・8%   28%
メキシコ       2・5%   17%
イギリス       2・0%   18%
ナイジェリア     2・0%   13%
アメリカ       1・9%   21%
インド        1・6%   14%
バングラデシュ    1・5%    4%
チリ         1・4%   20%
ルワンダ       1・2%    4%



 この図を見ると、全体の傾向としては、投資が多いほど成長率が高くなっています。この結果は常識と合致しており、なんら驚くには値しませんが、

 上記の図からは、「投資を増やせば成長率が高くなる」とは「いえない」という指摘が重要だと思います。もっとも、著者は
資本蓄積はきわめて明確かつ直接的に生産性に影響を及ぼすので、これらのデータは高投資がより急速な経済成長をもたらすことを示していると、多くの経済学者は解釈している
とも述べています。この解釈は常識的であり、適切だと思います。



同 ( p.292 )

 図10-1に示されている証拠を納得した政府が、その国の貯蓄率(消費せずに貯蓄に向けられるGDPの割合)を高める政策をとったとしよう。そのとき何が起こるだろうか。その国の貯蓄が増えると、消費財をつくるのに必要な資源は少なくなり、資本財をつくるのに利用可能な資源が多くなる。その結果、資本ストックは増加し、生産性の上昇とGDPのより急速な成長がもたらされる。しかし、この高い成長率はどれくらい長く続くだろうか。貯蓄率が新しい高水準にとどまると仮定した場合、GDPの成長率は永久に高い水準にとどまるのだろうか。それともそれは一定期間だけのことなのだろうか。
 生産過程に関する伝統的な見方では、資本は限界生産力逓減に従うとされている。すなわち、資本ストックが増加するにつれて、資本を1単位増やすことによる産出の増加分は減少する。言い換えれば、財・サービスの生産に用いる資本を労働者がすでに大量にもっているときには、資本をさらに1単位与えても労働者の生産性はわずかしか上昇しない。限界生産力逓減が働くために、貯蓄率の上昇が成長率を高めるのはしばらくの間だけである。貯蓄率が上昇すると、より多くの資本の蓄積が可能になるが、資本の追加によって得られる利益は時間が経つにつれて小さくなり、そのため成長は減速する。長期においては、貯蓄率の上昇によって、生産性と所得の水準は上昇するが、生産性と所得の成長率は上昇しない。しかしながら、このような長期の状態に到達するまでには、きわめて長い時間を要する可能性がある。経済成長に関する国際的なデータの研究によると、貯蓄率の上昇は数十年もの間にわたって、実際により高い成長率をもたらす可能性がある。
 資本の限界生産力逓減にはもう一つの重要な意味合いがある。他の条件が一定であれば、相対的に貧しい状態から出発した国のほうが、成長は容易である。初期条件が成長に及ぼすこの効果のことを、しばしばキャッチアップ効果と呼ぶ。貧しい国では、労働者は最も基本的な道具さえもっていないため、結果として生産性が低い。そのため、わずかな量の資本を投資しただけでも、労働者の生産性はかなり上昇する。対照的に、豊かな国の労働者は、すでに多くの量の資本を用いて働いており、これによって彼らの高い生産性の一部は説明される。しかし、労働者1人当たりの資本量がすでにかなり高いので、資本投資を追加しても、生産性には相対的に小さな効果しか生じない。キャッチアップ効果は、経済成長に関する国際的なデータの研究でも確認されている。すなわち、たとえば投資の対GDP比をその他の変数に対してコントロールすると、貧しい国は豊かな国よりも急速に成長する傾向をもつことがわかっている。
 このキャッチアップ効果は、図10-1にみられる不可解な結果の一部を説明する。この31年の期間を通じて、アメリカと韓国はGDPの同じくらいの割合を投資にあててきた。しかしながら、アメリカが約2%というごく普通の成長しか経験しなかったのに対し、韓国は6%を超える驚異的な成長を経験した。それを説明するのはキャッチアップ効果である。1960年には、韓国の1人当たりのGDPは、アメリカの水準の10分の1以下であった。その理由の一部は、それまでの投資が非常に少なかったことに求められる。初期の資本ストックが少なかったため、資本蓄積によってもたらされる利益は韓国のほうがはるかに大きかった。そしてこのことが、韓国にその後のより高い成長をもたらしたのである。


 資本は限界生産力逓減に従うために、資本が蓄積されるほど、あまり成長率は上昇しなくなる。これを逆にいえば、相対的に貧しい国ほど、資本(投資)の追加によってもたらされる経済成長の度合いが大きいということであり、貧しい国ほど経済成長が容易である、と書かれています。



 この部分の著者の指摘も常識的であり、なんら驚くものではありません。

 それにもかかわらず、私がこのような引用をしているのは、常識的な事柄であっても、「私が」常識的には~~である、と意見を述べる場合に比べ、「経済学の教科書によれば」~~である、と書いたほうが、読者にとって、信頼に値するはずだと考えられるからです。つまり今後、私が自分の意見を述べる際に、今回の記事を根拠として引用するために(今回)引用しています。



 ところで、上記内容から推論すれば、現在の先進国では「新規のビジネスは成功しづらい」と考えられます。つまり、日本では「起業は難しい」ということです。

 この推論結果も、常識に合致しているといってよいと思います。



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 「因果関係の落とし穴

1 コメント

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マルテンサイト千年 (グローバル・サムライ)
2024-07-09 20:27:10
最近はChatGPTや生成AI等で人工知能の普及がアルゴリズム革命の衝撃といってブームとなっていますよね。ニュートンやアインシュタイン物理学のような理論駆動型を打ち壊して、データ駆動型の世界を切り開いているという。当然ながらこのアルゴリズム人間の思考を模擬するのだがら、当然哲学にも影響を与えるし、中国の文化大革命のようなイデオロギーにも影響を及ぼす。さらにはこの人工知能にはブラックボックス問題という数学的に分解してもなぜそうなったのか分からないという問題が存在している。そんな中、単純な問題であれば分解できるとした「材料物理数学再武装」というものが以前より脚光を浴びてきた。これは非線形関数の造形方法とはどういうことかという問題を大局的にとらえ、たとえば経済学で主張されている国富論の神の見えざる手というものが2つの関数の結合を行う行為で、関数接合論と呼ばれ、それの高次的状態がニューラルネットワークをはじめとするAI研究の最前線につながっているとするものだ。この関数接合論は経営学ではKPI競合モデルとも呼ばれ、様々な分野へその思想が波及してきている。この新たな科学哲学の胎動は「哲学」だけあってあらゆるものの根本を揺さぶり始めている。こういうのは従来の科学技術の一神教的観点でなく日本らしさとも呼べるような多神教的発想と考えられる。
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