言語空間+備忘録

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インフレと累進税制

2009-07-02 | 日記
伊東光晴 『ケインズ』 ( p.178 )

 資本主義は変ったか、という問題がなげかけられるほど、第二次大戦後の資本主義経済の動きは戦前の経済とは異なる動きを示している。
 第19図をみてほしい。第二次大戦後のアメリカは、戦前のような不況におそわれていない。なるほど軽い景気後退はあった。しかしそれは恐慌にはならず、長期的に見れば、アメリカの経済趨勢線――年三㌫の経済成長線上にある。幾度か予言されたが恐慌はこなかった。なぜであろうか。
 戦後の資本主義には、景気変動の幅を縮めるメカニズムが次第にくみこまれだしたためである。 (中略) その結果は第一に、富者の所得を税金によって吸い上げ、これを国が支出するなり貧しい人に再分配するなりすることによって、本来ならば貯蓄されたものを支出に変え、消費性向を高めさせた。第二に景気が後退するときは、税収入は減るが、支出はへらなかった。たとえば軍需費などは景気とは無関係に支出され、社会保障費と失業保険費などは不況になるとかえって増加するというように、支出が減らないからである。そのために不況期になると予算は自然と赤字になって有効需要をつくりだした。これが不況を緩和させた。好景気になると逆に累進課税によって収入が急増し、他方支出はといえば、失業保険や社会保障費が少なくなって予算は自然に黒字となった。これが有効需要の増加を抑えて景気の過熱を防いだ。さらに積極的な公共投資の増減政策がこれに加わった。こうして戦後の資本主義経済は激しい不況を未然に防いできたのである。これを景気変動に対する自動安定化装置(ビルト・イン・スタビライザー)という。

 このことは古い資本主義が、なぜ不況を深刻なものとしたかを同時に説明している。古い時代の通念は、好況期には増加する税収入に合わせて支出を増加させてゆくために有効需要の増加を加速させており、逆に不況期には税収入の減少に合わせて需要を削減していたためである。


 ここでは、ケインズ経済学の成功が語られています。



 景気がよくなれば、財政赤字は解消する、といった話があります。

 その根拠となっているのは ( その根拠を示しているのは ) 、おそらく、「好景気になると逆に累進課税によって収入が急増し、他方支出はといえば、失業保険や社会保障費が少なくなって予算は自然に黒字となった」 です。累進課税であってこそ、( 景気回復に伴って ) 税収は急増する。とするならば、所得税の累進性を緩和する政策は、あまり好ましくないのではないか、と思われます。

 緩やかなインフレは、経済に好ましい影響を及ぼす、という考えかたが主流だと思います。長い目でみれば、インフレは債務を ( 相対的に ) 小さくする効果をもっていますが、累進税制は、( 国家の債務に対して ) その効果を加速・増幅します。

 うまくできているなあ、と思います。



 昨今、累進性の緩和が説かれがちですが、どちらかといえば、( 所得税の ) 累進性強化を行うべきではないかと思います。