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ギリシャの哲学 天皇制の擁護 第六章 古代ギリシャ」解説819

2008-11-29 03:05:34 | Weblog

ギリシャの哲学 -- 「天皇制の擁護 第六章 古代ギリシャ」解説(2)

哲学はギリシャに始まる、と言われます。哲学とは素朴な経験を概念へと抽象化する作業です。だから哲学がギリシャに由来するとすれば「学」的なものはすべてギリシャからとなってしまいます。それで我々はギリシャ文化に、従ってその後裔を自称する西欧文明にかなりな劣等感を抱きます。ソクラテスはともかくプラトンやアリストテレスの著作は現存しているものだけでもかなりあります。両者の全集はA4版で1m以上になります。私もこの翻訳にはお世話になりました。が、読んでいて眠たい。プラトンはどう見ても同工異曲、世捨て人の夢想です。アリストテレスは定義の羅列と整理です。面白いはずがありません。

しかしそう割り切ってしまうと、種は案外簡単。原点はやはり彼らの師匠ソクラテスに行き着きます。そしてソクラテスの特技は否定弁証法、つまり相手に真実と思われる事を語らせて、その矛盾を突き、論敵が出した定義を次々に打ち破って行く手法です。彼は最終的には何も言いません。結論は出しません。哲学と言うものは結論を出すのが一番危険です。だから哲学とは、現在する諸概念の検討の過程そのものかも知れません。そしてソクラテスが出した結論は「無知の知」です。人間は何も知らないのだから、謙虚に反省して云々、になります。
なーんだそんなことだったのか、と言われても仕方ないことですが、どっこいこいつがなかなかおもしろい。ギリシャだけに視野を制限せずもっと広く見てみましょう。釈迦は「縁起無我」と言いました。縁起はともかく「無我」の方はかなりソクラテスの「無知の知」に近いところにあります。ソクラテスが「解らない」という「点」に留まったのに対して、釈迦はそこから「縁起」へ飛躍し、さら「世界全体」に視野と体験を広げます。こうして大乗仏教というものが誕生しました。ソクラテスと釈迦は案外同一物の表裏、の関係にあるのかも知れません。
さらに次章「ユダヤの神」で述べる予定の「一神教」も同じレヴェルで捉えられます。「一神教」とは「唯一の神」だから「命名不能、定義不能、表現不能なる神」です。下手に表現すればその全体性と神聖が傷つけられ、憶念は交錯して、唯一の神どころではなくなります。「何も言うな、何も知らないのだから」ということです。

 ギリシャ哲学、原始仏教、ユダヤ教といえば全く違う代物に見えますが、原点ではよく似ている、いや同じかもしれません。このうちユダヤ教が一番古いのか?BC538年ペルシャ王によりバビロン捕囚から解放されエルサレムに帰還したユダヤ人により、現在ユダヤ教といわれるものの骨子が出来上がりました。ソクラテスはBC5世紀後半の人、釈迦の生存年月日は正直不明です。550年ごろとも250年ごろとも言われその間の中間段階まで入れると確定不能です。まあBC500年ごろとしておきましょう。ユダヤ思想も帰還後すぐできたというわけでもありますまい。ソクラテスの先輩の哲人は沢山います。そう考えるとユダヤ、仏教、ギリシャの教えはほとんど同時期にできたと想像されます。そして肝心なところはよく似ている。

 世界地図を広げると、ギリシャ、パレスチナ、インドは結構近い。当時すでにインド洋を渡って商船は行き来していました。ペルシャ湾に入ってそれからチグリスとユーフラテスとを遡行すれば両河上流あたりでこの三者が交流してもおかしくありません。事実後年ユダヤ教の後裔であるキリスト教の諸派はインド方面に宣教しましたし、逆に仏教は僧侶をペルシャから両河方面に送っています。ユーラシア大陸の両端に位置する西欧人や日本人から見れば遠く思えても、彼ら三者はかなり近い関係にあったと思われます。無知の知、縁起無我、一神教はかなりな程度親縁関係にあるように私には見えます。

 専門家の話ではギリシャ・ラテンという古典古代の文献の翻訳は日本が数量ともに一番優れているそうです。西欧では同系統の言語という安心感ゆえか、翻訳は大雑把だそうです。また東アジア諸国の人々は日本語訳の恩恵を受けているとも言われます。日本に行けばたいていの重要な文献は翻訳されています。日本語のみで充分ともいえるのです。ある外大生がウクライナ語を勉強しました。日本国内に適当な文法書がなく、現地まで言ったそうです。そこで文法書なるものを探したところ、現地の人に、そんなものはない、といわれ唖然としたそうです。私は大阪市立図書館で文献を探します。そこには外国語の辞書が沢山あります。英和、独和、仏和は当然として、ロシア語、中国語、アラビア語はもちろん、東南アジア諸語、ヒンディ-、ウルドウ-、スワヒリ、ペルシャ、モンゴル、さらには東ゴ-ト語という西欧中世初期の死語まで、日本語辞書があります。ざっと50カ国くらいの辞書があるんではないでしょうか?便利なものです。