れきしどころ真理庵

江戸時代の江戸を中心に、医学史・蘭学史を調べています。日々の暮らしを歴史からみた写真日記。

リシャール・コラス『紗綾』

2012-07-31 10:38:05 | 真理庵文庫・その他
前回本をとりあげたまま1ヶ月近く経ってしまいました。。。
『紗綾』をご紹介したいと思います。
実際本を読んだのは今月始めでした。

Amazonのブックレビューではあまり評価が芳しくなかったので、期待しないで読んだのですが、思いがけず生々しい内容に絶句してしまい、感想を書くのに1ヶ月近くかかってしまいました。。。外国人でここまで日本語をきちんと書ける人も珍しいと思います。もっと評価されて良い本だと思いました。(最初フランス語で書き、それを日本語にしたそうです)
http://www.amazon.co.jp/%E7%B4%97%E7%B6%BE%E2%80%95SAYA-%...

リシャール・コラスさんの本は以前にも日記に書きましたが、プロフィールは以下の通りです。
フランス生まれ。パリ大学東洋語学部卒業。在日フランス大使館勤務、ジバンシィ日本法人代表取締役社長を経て、1985年にシャネル入社、1995年、シャネル日本法人代表取締役社長に就任。フランス商工会議所会頭、欧州ビジネス協会(EBC)会長を務める。国家功労章シュバリエ章受章、レジオン・ドヌール勲章受章。2009年にフランスで発表された『SAYA』で、フランスの文学賞「みんなのための文化図書館賞」を受賞。

この小説は30章から成っています。30章のみ「終章」としてこの本の狂言回し?のフランス人社長が出てきますが、それ以外は神脇(40代後半?のデパートをリストラされた元エリート)、紗綾(帰国子女の女子高生)、香里(神脇の妻・専業主婦)の三人の一人語りが交互になされて物語が進んでいきます。
「少女とリストラ中年男の恋愛物語」的な紹介をしている書評が多いのですが、私の感じたことは全く別のことでした。香里のことです。
書評などには殆ど出てこなかった香里の日常の生々しさに私は動揺してしまい、なかなか感想が書けませんでした。
ですので、ここでは香里のことを中心に書かせていただきます。(ネタバレの可能性アリ)

香里は北鎌倉で同居の義母を介護する日々を過ごしています。キツイ義母に対して表面はかいがいしくつとめていますが、ある時から嫌がらせを始め、憂さを晴らしているような、どちらかといえば陰気なタイプの古風な専業主婦です。その義母は自宅で危篤になりやがて息絶えてしまいます。香里はインターネットで「自宅 自然死」と検索し、病院に電話をして医師にきてもらい死亡確認してもらうなど、良き主婦ぶりを発揮します。その頃仲の冷め切った夫はリストラを宣告され、女子高生と「援交」していたわけですが。。。
葬儀、義母の死後買い物依存症に。そして女友達とのディナーついでに誘われて行ったホストクラブで知り合ったホストとラブホテルに。。。
…まあ、それでも「貞淑な妻」は事なきを得る?わけですが、一つ一つのエピソードが、まるで「日本の専業主婦の生態」をじっと観察していたかのような生々しさがあります。そして、(私の場合介護は実母だったので香里のような「仕打ち」は思いつくこともありませんでしたが)それぞれのエピソードに、「一歩間違えば自分もこうなるかも」という危うさを感じて、ぞっとしました。


前作『遙かなる航跡』の中でも心中に対する憬れが読み取れましたが、神脇と紗綾も(1日違いとはいえ、ほぼ)心中といっていいような死に方をします。
多分男性なら神脇に、若い女性なら紗綾に、私が感じたような「生々しさ」を覚えるのではと思います。単なる「恋愛小説」というより、社会派に近い感じも受けました。(ベースにコラスさんの美意識というかエロティズムがあるので、恋愛もののくくりになっているのでしょうが。。。)

いろいろと考えさせられる作品ですし、もっと多くの人に読んで欲しいと思いました。