れきしどころ真理庵

江戸時代の江戸を中心に、医学史・蘭学史を調べています。日々の暮らしを歴史からみた写真日記。

『福沢諭吉 国を支えて国を頼らず』を読む

2007-04-14 09:13:56 | 真理庵文庫・歴史&医学

やっと北康利著『福沢諭吉 国を支えて国を頼らず』を
読み終えることができました。
『白洲次郎』の時は正月休みでしたので
読書に充分時間をとることが出来ましたが、
今回は通勤時間や昼休み、仕事帰りに喫茶店に寄ってと
細切れの時間で読み繋いできました。
で、やっと365頁の長編を読み終えました!

ところで、今回の作品ですが、「北節」全開っていう感じでした!
『白洲次郎』の時も思いましたが、
北氏はご自身が「この人だ!!!」って思うお人しか書かれない。
それだけ思い入れが激しいし、
北氏が良いとおっしゃる人は、実際凄く魅力的な人ばかりです。
今回は北氏は「語り部」のように作品に寄り添っていらっしゃる。
だから始まりの部分は、銀行員北氏の福沢諭吉との
不思議な出会いから始まります。

 昭和59年(1984年)11月1日-この日、通貨において
静かな禅譲が行われた。26年もの長きにわたり1万円札として
親しまれてきた聖徳太子が、ついにその主役の座を譲り渡したのだ。
 某都市銀行に入行したしたばかりだった私は、この朝早く、
配属先の虎ノ門支店から警備会社の車に同乗し、日本橋本石町の
日本銀行本店へと新紙幣の受け取りに向かった。こういった雑用は
すべて新入行員の役回りである。
 手の切れそうな紙幣の束を一抱えほども受け取り支店へ戻ってみると、
たくさんの人が並んでいるのが車の窓越しに見えた。世の中は新紙幣の
登場に異様な盛り上がりで、営業時間前から両替のための長蛇の列が
出来ていたのだ。
 今から思えば、ある意味それが、私の福沢諭吉との最初の出会いだった
のかもしれない。
                        (以上7頁から引用)


この本は「伝記」です。「歴史小説」ではありません。
ですから、内容はあくまで年代を追って、史実に基づいて描かれています。
ですが、「北流に解釈するとこうなる
」という部分が随所に見られます。
まず、各章の題名がユニーク!

第1章 門閥制度は親の敵でござる
第2章 「自由」との出会い
第3章 「私」の中の「公

第4章 『学問のすゝめ』
第5章 ベンチャー企業家として
第6章 かくて「独立自尊」の旗は翻った
終章  我々へ託された志

大好きな人のことを話すと、ついつい饒舌になっちゃてね~!って、
嬉しそうに微笑んでいらっしゃる北氏が思い浮かびます。
(残念ながらまだ直接お目にかかったことがないので、
実際どのような雰囲気のお人かは分かりませんが、
多分そんなに想像と遠くないような気がします) 

今回の本は前回のような、劇画的なところはありません。
支配層のGHQのオフィサーと日本人女性の恋とか
新憲法へ日本からのGHQへの駆け引きとか。
当時を知った人が存命中の『白洲次郎』に対して
100年以上昔の『福沢諭吉』の話はナマナマしさには欠けます。
ですが、その分、「原点に立ち返る」、振り返えれる距離感があります。
北氏もそのことを望んでいらっしゃるのでしょう。
あとがきに
 
 本書を著すことでもう一度福沢先生に息を吹き込み、
(著者を含めた)今の日本人に向かって「馬鹿野郎!」と叱ってもらいたい。
それが本書を書き始めた動機である。


と、あります。

平易で爽やかな語り口、全編熱っぽい「北節」を私は充分堪能できました。
皆様もどうぞ、お楽しみ下さい!
 
 

写真は慶応大学三田キャンパスの旧図書館。