小さな日記

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ジャズカントリー

2010年09月05日 | 
「ジャズカントリー」ナット・ヘントフ著 木島始訳 晶文社

この本は、大学時代に購入したのだけれど、ジャズ研に入っていたわたしには、少し読むとあまりに周囲の友人たちと近い内容に辟易して読まず仕舞いだった。その後、結局処分してしまったのだが、2004年、翻訳者の木島氏の訃報を、英語翻訳塾の先生から知らされ、名訳だからぜひ読むようにと薦められ、再購入となった。

ヘントフが若者向けに書いた青春小説なのだが、恋愛は出てこない。いわば、ジャズに恋した16歳の白人少年が、、母国アメリカの未知の黒人社会に踏み入り、ミュージシャンになるか、大学生になるかと悩む様子を描いている。ジャズ好きには、実在のミュージシャンが実像として描かれるのも楽しめる。ジャズを知らなくても、好きなことを仕事にしていくかどうか迷う若者の真摯な姿は、爽やかだ。

ジャズミュージシャンになりたい白人青年と、哲学者になりたい黒人青年のアイデンティティーの葛藤の対比は、1960年代ならではのステレオタイプに思える。現代では、アイデンティティーへの逡巡は、もっと複雑で、切り口が多重化している。けれど自分が自分である自由を失わずに生きていこうという若者の情熱は、決して衰えることはないとわたしは信じている。

この本で使われるジャズという言葉は、わたしの思うジャズと完全に一致するのが、とても嬉しかった。今日、ジャズと呼ばれるものが、わたしにはジャズには聞こえないことがほとんどだ。だから、もう、ジャズが好きとは言えないと思っている。

選択肢があることを普通自由という。けれど、選択肢がないところから勝ち得る自由の豊かさを、選択肢がある者はなかなか獲得できない。1960年代のジャズは、同じ曲を演奏しても、もうないのだ。

ヘントフは、911事件以降のアメリカに「消えゆく自由」(集英社刊)で警鐘を鳴らしている。

アメリカだけじゃない。フランスもこうだ。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20100905-00000015-maip-int