八十八夜

学生時代から大好きなマンガの2次小説です

まやかし婚110

2022-01-29 08:00:00 | まやかし婚(完)

 

 

無断外泊しても、牧野の態度はいつもと一緒だった。

何が《つくしちゃんがヤキモチ妬く作戦》だ。

滋との報道に俺の無断外泊も、牧野には全く関係ないことだったのが証明されただけだった。

 

確かに最後まで諦めねーって決めたのは俺だが…。

文句や嫌味の一言でも言ってもらいたい。

 

俺に何も言うことなく美味そうにメシを食っている牧野を見て、さすがに凹みそうになった。

決心したその日に凹んでどうすんだよ、俺!!

凹んでる暇なんてねーんだぞ!

 

 

 

どんなことがあっても、どんなに辛いことが起こっても─────。

パパの衝撃的な闇金事件の時と同じように、時間だけは誰も裏切ることはなく平等にやってくる。

 

幸せな人にも、不幸な人にも

お金持ちにも、貧乏人にも

どんな人にも世界中の人に、時間だけはみんな平等。

 

辛すぎて心が死んでいるような私にも朝がくる。

私が担当している仕事も増えてきたのが良かったのかもしれない。

 

忙しく仕事をしていると辛い気持ちも薄れていく。

一番の問題は─────。

道明寺と私が、今は期間限定でも夫婦って事が問題よね。

 

仕事に集中して、昼休みや仕事後に笑って過ごしても、家に帰ると道明寺が帰ってくる。

今の私の家が、道明寺の家だから仕方ないことなのかもしれないけど…。

 

あの無断外泊以来、道明寺は毎日帰ってきている。

毎日帰ってこなくても良いのにって意地悪なことを思ってしまう私と、どこかでホッとして嬉しく思っている私がいる。

それなのに、大河原さんは契約結婚している私がいるなんて知ったら嫌だろうなって思ってしまう。

 

契約結婚とはいえ、自分の好きな人が他の女の人と一緒に暮らしているなんて…。

私なら耐えられないよ。

気持ちが通じていても絶対に辛いと思うんだけどな。

 

私も、年が明けたら─────。

道明寺との契約が終わって、あいつが大河原さんと結婚したら辛く思うのかな?

それでも、私は道明寺の幸せだったらいい。

 

いや、ちょっと待って。

・・・・・。

道明寺と大河原さんにとって、私の存在はスゴク邪魔なはず。

 

私もこんな状態で道明寺と過ごすのは辛い。

もしかしたら、道明寺はこんな契約さっさと終わらせたいって思っているんじゃないのかな?

私が道明寺と一緒に過ごす時間は、私が思っているのより短くなるかもしれない。

 

9月最終の金曜日。

営業部にお邪魔していた時に、織部くんから珍しく念押しで頼まれた仕事。

「絶対に牧野さんがしてくださいね~。」なんて言ってきた。

 

目を通していたら次のページに貼られた黄色の付箋。

《今日メシに行きませんか? 織部》

こんな文字の下に《YES・NO》と書かれていた。

 

家に帰っても、道明寺が帰って来る。

もしかすると、契約結婚中だけでも帰らないといけないって西田さんから言われたのかもしれない。

 

そんなこと気にしてくれなくていいのにね。

今更だよ。

大河原さんと付き合っていることも、キスしたことも、お泊りしたことも知ってるよ。

 

契約だからって帰ってきて欲しくない。

それとも、道明寺はこの契約自体を解除したいのかな?

 

最近、道明寺から感じる『話があるオーラ』

何となく聞きたくなくって、用事があるふりしたりして無視しているけど…。

 

あいつって、誰かと結婚しないといけないから私と結婚したんだよね。

本命の彼女が出来たら、その人と結婚したくなるよね。

 

なんとなくこのモヤモヤした気持ちを吹き飛ばしたくなって────。

私は付箋の《YES》の文字の上に〇をして、仕事に取り掛かった。

この時点で帰宅が遅くなるってわかっていたけど、道明寺には連絡しなかった。

 

 

夜、仕事が終わった織部くんと向かったのはイタリア風の居酒屋。

前と同じように、織部くんは私にソフトドリンクを進めてきた。

でも、私は初めてお酒を頼んだ。

 

きっかけは、織部くんの言葉。

「酒って、嫌なことや辛いことを忘れられるんですよね。楽しくなる。」

「仕事でミスした時とか、疲れた時に飲むと最高ですよ。」

 

《嫌なことや辛いことを忘れられる》

この言葉に惹かれた私は、織部くんが選んでくれたお酒を飲んだ。

 

織部くんが選んでくれたお酒は、甘くておいしかった。

その上、織部くんが話してきてくれる、地元の話や仕事の話が楽しい!

 

確かに、気分がいいかもしれない。

ずっとニコニコ笑っていられる。

 

嫌なことばかりだったのが薄れた。

この時だけは、道明寺への気持ちが薄れた。

無断外泊のことも、大河原さんのことも薄れた。

ずっと、突き詰めて苦しくなるほど考えていたけど楽になった。

 

道明寺に連絡していないけどいいよね。

大人なんだから大丈夫だもん。

そう、私は大人だから大丈夫。

外でお酒を飲むなって言われていたけど、あいつの言うことなんて誰が守るかっつーの!

 

あいつの夜ご飯も作っていない。

勝手になにか食べるでしょ。

 

無断外泊より、マシ!

いい大人なんだから外泊する時くらい連絡しろっつーの!

私もいつか無断外泊してやるー!!

 

お酒ってスゴイ。

ここ数日悩んでいたことが軽くなる。

ウフフ。

私は、初めて飲むジュースのように甘くて美味しいお酒を楽しんでいた。

 

 

 

 

お読みいただきありがとうございます。