八十八夜

学生時代から大好きなマンガの2次小説です

まやかし婚84

2022-01-03 08:00:00 | まやかし婚(完)

 

 

夕方、ペントハウスに着くと────。

牧野はキッチンでメシの支度をしていた。

 

「よぉ…。ただいま。」

俺は牧野に声を掛けながら、リビングに入った。

 

実は一緒に住むようになって、俺が自分から初めて言う「ただいま。」だったりする。

なんで、俺が気を使いながら家に帰っているんだ?

俺は見られた側なのに。

 

一瞬、牧野はビックリしたように目をデカくさせた後で、優しく笑って声を掛けてきた。

「おかえりなさい。」

 

これには俺がビックリすることになる。

「ただいま。」って言葉を言うだけで、こんなに優しく笑って「おかえりなさい。」って言ってもらえるのか?

明日からも『ただいま。』って言ってみるか?

 

俺がこんなことを考えていると

「楽しかった?」

こんなことを聞いてきたんだ。

 

俺は牧野の質問に直ぐに答えることが出来なかった。

俺が帰ってきてから今までのこの数分ってスゲー夫婦っぽくないか?

こんなことを考えていた俺の思考はストップしていたらしい。

 

「どうしたの?疲れたの?大丈夫?」

メシの支度をしていた牧野が手を止め、俺の目の前まで移動して心配そうに見上げてくる。

 

マジで夫婦みてーじゃん。

こいつに心配されるのって良いな。

 

目の前のこいつを俺の胸に閉じ込めてーなんて思いが湧いてくる。

俺の胸に閉じ込めたら最後。

恐らく俺は自分を止める自信なんてねーから、そんなことはしねーけど。

 

そんな俺の思いなんて全く気付かねー牧野が聞いてきた。

「ゴルフ。行ってきたんでしょ?」

牧野の言葉で、あいつらとゴルフに行っていたことすら忘れていたことに気付く。

 

「あぁ。今日は最悪だった。」

「なにが?」

俺の言葉にソッコーで返事をしてくる牧野。

 

ゴルフに行って最悪って言ったら最悪だったんだよ!

あいつらが《つくし》だとか《旬》だとか言い出して、《昼は少女で夜は娼婦》なんて言うから想像してしまって動揺してしまったじゃねーか。

 

「二度とゴルフしねーって思うくらい酷かった。」

さすがに、今日のスコアは酷すぎた。

親父には絶対に見せられねー。

 

「ふーん。そう。私、したことないからわからないけど。良い時もあれば、悪い時もあるんじゃないの?」

牧野の返事に納得できるが、出来ねー俺がいる。

 

そうなんだけどな!

今日のは、あいつらが余計な事を言ってきたから最悪なスコアになったんだ!

 

あの最悪なスコアを思いだし、俺から漏れてしまった弱気な言葉。

「今日のスコアはマジで最悪だった。俺、Aクラスから落ちるかもしんねー。」

「Aクラスって何?」

 

ゴルフをしたことがねー牧野らしい返事が返ってくる。

そうだよな。

牧野はゴルフをしねーから、そんなの全く知らねーよな。

俺はこの後、ざっとゴルフの事を説明することになる。

 

牧野はあまり興味がなさそうで、散々教えた後に

「あんたの言っていること、よくわかんない。」

こんな可愛くねー言葉で終わらせた。

 

そして、牧野は俺を見上げて

「あんたはゴルフだとか月例杯とか。今までの私が聞いた事の無い言葉ばかりだね。あんた、御曹司だもんね。この家もすごいもん。ほんと、世界が違うよ。」

こう、言ってきた。

 

そして、話を続けた。

「知ってる?お金ってね、とっても寂しがりなんだよ。仲間がいる所に集まるの。だから金持ちはずっとお金持ちで、貧乏はいつまでもどこまでも貧乏なの。」

こんなことを言ってきたんだ。

 

牧野は、俺が知らないと決めつけたような口調で話してきた。

実際、牧野の話してくる《金が寂しがり屋》だなんて初めて聞く話だ。

 

それでも、俺とお前の世界は違う事なんて絶対に無いからな。

お前の父親が金の使い方を知らなかっただけで、お前には何も問題はないんだ。

お前は家族をずっと支えていたんだろ。

 

「俺は、金が寂しがりかなんて知らねー。でも、金も上手に使ってもらうところに集まるに決まってんだろ?金に敬意も払えねーような、何も考えてない奴の所にいくわけねーよ。金にも選ぶ権利があるんだよ。」

俺は、思ったことを素直に言った。

 

俺にしてはスゲーいい言葉だろ?

どうだ、俺のこと少しは見直したか?

 

こう思っているのに、牧野から出た言葉はスゲー可愛くねー言葉だった。

「ありがと!そうだよね。お金にも権利があるよね!私、その権利を持っている先生を探す!」

 

クソっ。

先生なんていねーんだよ。

未来の旦那もいねーんだ!

いつになったら、俺とお前は本当の夫婦になれるんだよっ!!

 

 

 

 

お読みいただきありがとうございます。