八十八夜

学生時代から大好きなマンガの2次小説です

まやかし婚92

2022-01-11 08:00:00 | まやかし婚(完)

 

 

うぉー!だぁー!

俺は、このクソ暑い中スゲー勢いであきらの家を目指して走っている。

 

今日は土曜日。

牧野の花嫁修業の日で、総二郎がメールで連絡してきた浴衣の練習日だ。

 

それなのに、西田が取引先との商談を朝から入れていた。

なんで、よりによってこの日に予定を入れるんだよ!西田。

スゲーむかつくけど、この道明寺系列のホテルからならあきらの家の近くだ。

 

殆ど最終確認。

なんで俺がそんなことしねーといけねーんだよ。

 

それよりも、俺は牧野の事が気になって仕方ねー。

こんなことを思わないわけでもねーが、西田に丸投げはもう出来ない。

俺はイライラしながら、少しでも早く最終確認が終わるように確認しだした。

 

一時間ほどで終わる予定だったのに、商談相手のジジイが自分の娘の自慢をしだした。

お前の娘の話なんてききたくねーだろ。

こう思いながらも適当に流していた。

 

適当に流しながらも、気になるのは牧野が総二郎に教えてもらう実技の浴衣の練習。

総二郎が牧野の首筋を見てねーかとか、見るだけじゃなく触ってねーかとか。

 

総二郎はマダム専門じゃねーが、一期一会だしな。

って、今日はマダム専門のあきらの家って言ってな。

 

俺が早く終わらせるために適当に流しているのを、勝手に良いように解釈したジジイは、

自分の娘は俺と同い年だとか、娘もゴルフをしているから一緒に回ろうとか言い出した。

 

なんで、俺がテメーの娘と一緒にゴルフしねーといけねーんだよ。

俺、これでもプロ並みだぞ。

(この前の月例杯ではスゲー叩いてしまったけど。)

 

俺が何度も部屋の時計を見ているのに、完全に無視してくるジジイ。

「テメー、ふざけんなよ。取引はここで終了だ。」

「なんで俺がお前みたいな、チビ・ハゲ・デブの娘と結婚しねーといけねーんだよ。」

西田が何度も俺の靴に体重を掛けて踏みつけてこなければ、こんな台詞が口から出ていたはずだ。

 

いつもなら書類に目を通すついでにチェックする腕時計を、今日はごまかしもしねーで堂々と見る。

見なくとも隣に座っている西田が、呆れたような顔をしているのが気配でわかる。

 

今日の腕時計は、俺のコレクションの中でもかなり気に入っているものだ。

北半球の星座の描かれたダイヤル、綺麗な音まで奏でる腕時計。

 

沢山のコレクションの中で唯一、牧野が『カッコいい時計だね。』って言ってきた腕時計。

牧野にこう言われてから、俺はずっとこの時計を腕にするようになった。

目の前のジジイは、俺が腕時計を堂々と見ても全く何も思わねーみたいだ。

 

マジでクソだな。

こんな奴には何をしても無駄だ。

こう理解した俺は「失礼。これから大切な用事がありますので。」こう伝えてその場を去った。

 

西田にジジイを押し付けた、俺はホテルからあきらの家に向かう。

車に乗っての移動より、走る方が早いと判断した俺はこのクソ暑い中を走り出した。

汗だくになった俺が、あきらの家に着いたのは10分後くらい。

 

俺がリビングのドアを開けると同時に聞こえてきた声。

「つくしちゃんも花火見に行くの?」

と同時に、全員が俺を見る。

 

牧野は、あきらの妹たちと一緒に浴衣の帯を結ぶ練習をしていた。

白地にピンクの朝顔が満開に咲いている浴衣を牧野は着ていた。

そして、紫がかった紺色の帯を結ぶ練習をしていた。

 

恐らく総二郎が牧野の為に選んだだろう浴衣と着物。

これがムカつくほど、牧野に似合っていた。

 

俺は、この時、それ以上に似合う浴衣を牧野に贈る。

こんなことを思った。

 

同じように、あきらの妹たちも色とりどりの夏らしい柄の浴衣を着ていて、そこだけが華やかだ。

あきらの妹たちが一緒にいるだけで妙に安心してしまう。

 

自分で浴衣を着る時は結び目を前にするんだなって、こんな余計なことを浮かべながらも、牧野の衣紋が抜けていないことに安心する。

俺はホテルから全速力で走ってきた疲れと、今まで心配していた気持ちが一気に押し寄せてきて、リビングのソファーに倒れ込むように横になった。

 

ドサッ!

俺がソファーに倒れ込むなり、バタバタって音と同時にソファーまで近寄ってくる牧野。

 

俺をのぞき込むように

「道明寺、大丈夫?」

こう言った後、

 

「すごい汗じゃない。」

って言いながら、どこからか出してきたハンカチを渡してきた。

 

俺がハンカチで汗を拭きだすと、

「美作さん、冷たい飲み物お願いしていい?って、すごーい!もう用意してくれたの?ありがとう。」

あきらが用意してくれた冷たい水を、俺は一気に飲んだ。

 

水を飲んだ俺は、牧野に声を掛けた。

「俺たちも行こーぜ。」

 

花火を見て喜ぶ、牧野を見たい。

その時、牧野が浴衣ならスゲー嬉しい。

 

「へ?どこに?」

牧野の素っ頓狂な返事。

 

「花火に決まってるだろ。お前、浴衣着ろよ。」

お前の着る浴衣は俺が用意する。

 

っつーか、これから先。

こいつらの花嫁修業だろうがなんだろうが、お前が着るものは俺が用意する。

 

 

 

お読みいただきありがとうございます。