あの日以来─────。
道明寺に優しく見つめられているような気がする。
もしかしたら、前からあったのかもしれないけど、多くなったような気がする。
それに、見つめられるだけじゃなく、道明寺が笑うようになった。
道明寺も前から笑っていたんだよ!
なんて表現したらいいのかなぁ…。
優しく笑ってくれるっていうのかな?
距離が近くなったっていうのかな?
それにね、なんとなく…。
気のせいかもなんだけど、スキンシップが増えたような気がするの。
で、一番変わったなって思うのが道明寺が優しくなった。
元々、優しかったんだけど、最近はもっと優しくなったような気がする。
そして、いつの間にか私も少しずつ変わってきたことに気付く。
私は、いつの頃からか道明寺のことを《お金様》って思わなくなった。
一年が早く過ぎるようにだけを切望していたのに、いつの間にかそんなこと思わなくなっていた。
それどころか、私は未来の本当の旦那様の事を考えることが無くなってきている。
どうしちゃったの?私。
こんなことを思い始めた、8月末の最終土曜日。
出社直前の道明寺が私に声を掛けてきた。
「今日の花火大会、一緒に行こうぜ。あの浴衣、着てくれよ。」
急にドキドキしてきた私。
「うん。」とだけ言って頷いた。
私が返事をすると、道明寺がすごく嬉しそうに子供みたいに笑うから…。
まだドキドキしてしまった。
道明寺が会社に行った後、私は急いで家事をする。
そして、自分の部屋のクローゼットへ直行!
引出しを開けると、そこには二着の浴衣。
一つは西門さんが、実技に必要だからって用意してくれた浴衣。
すごく可愛らしい浴衣の柄に、シックな帯。
西門さんの趣味の良さがわかってしまう。
クリーニングして西門さんに返そうと思っていたら、私の背丈に合せて作ったものだからと断られてしまった。
そして、もう一つは────。
あの浴衣教室の翌日に、道明寺がプレゼントしてくれた浴衣。
これも、西門さんが選んでくれた浴衣並みにとっても可愛い浴衣だった。
淡い水色の浴衣にピンクの牡丹の花が満開に咲いている。
すごく可愛いんだけど、帯で締まるって言うのかな?
麻の葉の模様が入った灰色にもシルバーにも見える帯が、可愛いだけじゃなく少し大人な雰囲気を出してくれていた。
鏡の前で合すと…。
自惚れじゃなく、私に似合っている。
道明寺が私に似合うのを選んでくれたんだ。
それなのに…。
道明寺が浴衣を持って帰ってきてくれた時…。
「西門さんが前に用意してくれたのを持っているから、勿体無い!」
私から出たのは、こんな可愛くない言葉だった。
間違っていないとは思っているけど、私の言葉に道明寺が拗ねた。
「総二郎からはもらったんだろ?俺がプレゼントして何が悪い?」
この後は、しばらく二人で押し問答を繰り返した。
でも、この押し問答は道明寺の言葉で終わることになる。
「俺、お前の旦那だろ?旦那が妻に浴衣をプレゼントして何が悪いんだよ?」
私はこの道明寺の少し照れたような顔と…。
急に言われた《旦那》と《妻》って言葉に自分の目が大きくなるのがわかった。
同時に心臓がきゅーってなる。
そんな言い方って反則だよ。
それに、そんな照れたような顔も反則!
私たちは契約結婚でしょ。
旦那とか妻って言わないでよ。
あんたにとっては大したことなくっても、私にとってはドキドキするんだよ。
・・・。
なんで私、ドキドキしているの?
少し前から…。
私、ずっと道明寺にドキドキしている。
なんで?どうして?
おかしいよ?変だよ。
契約が始まった当初は、道明寺と二人きりで出掛けるなんて絶対に嫌だったのに――――。
でも、今の私は、今夜の花火大会をすごく楽しみにしている。
道明寺と花火に行くのを楽しみにしている。
お読みいただきありがとうございます。