八十八夜

学生時代から大好きなマンガの2次小説です

まやかし婚96

2022-01-15 08:00:00 | まやかし婚(完)

 

 

あの日以来─────。

道明寺に優しく見つめられているような気がする。

もしかしたら、前からあったのかもしれないけど、多くなったような気がする。

 

それに、見つめられるだけじゃなく、道明寺が笑うようになった。

道明寺も前から笑っていたんだよ!

 

なんて表現したらいいのかなぁ…。

優しく笑ってくれるっていうのかな?

距離が近くなったっていうのかな?

 

それにね、なんとなく…。

気のせいかもなんだけど、スキンシップが増えたような気がするの。

 

で、一番変わったなって思うのが道明寺が優しくなった。

元々、優しかったんだけど、最近はもっと優しくなったような気がする。

 

そして、いつの間にか私も少しずつ変わってきたことに気付く。

私は、いつの頃からか道明寺のことを《お金様》って思わなくなった。

 

一年が早く過ぎるようにだけを切望していたのに、いつの間にかそんなこと思わなくなっていた。

それどころか、私は未来の本当の旦那様の事を考えることが無くなってきている。

どうしちゃったの?私。

 

こんなことを思い始めた、8月末の最終土曜日。

出社直前の道明寺が私に声を掛けてきた。

「今日の花火大会、一緒に行こうぜ。あの浴衣、着てくれよ。」

 

急にドキドキしてきた私。

「うん。」とだけ言って頷いた。

 

私が返事をすると、道明寺がすごく嬉しそうに子供みたいに笑うから…。

まだドキドキしてしまった。

 

道明寺が会社に行った後、私は急いで家事をする。

そして、自分の部屋のクローゼットへ直行!

引出しを開けると、そこには二着の浴衣。

 

一つは西門さんが、実技に必要だからって用意してくれた浴衣。

すごく可愛らしい浴衣の柄に、シックな帯。

 

西門さんの趣味の良さがわかってしまう。

クリーニングして西門さんに返そうと思っていたら、私の背丈に合せて作ったものだからと断られてしまった。

 

そして、もう一つは────。

あの浴衣教室の翌日に、道明寺がプレゼントしてくれた浴衣。

 

これも、西門さんが選んでくれた浴衣並みにとっても可愛い浴衣だった。

淡い水色の浴衣にピンクの牡丹の花が満開に咲いている。

 

すごく可愛いんだけど、帯で締まるって言うのかな?

麻の葉の模様が入った灰色にもシルバーにも見える帯が、可愛いだけじゃなく少し大人な雰囲気を出してくれていた。

 

鏡の前で合すと…。

自惚れじゃなく、私に似合っている。

道明寺が私に似合うのを選んでくれたんだ。

 

それなのに…。

道明寺が浴衣を持って帰ってきてくれた時…。

 

「西門さんが前に用意してくれたのを持っているから、勿体無い!」

私から出たのは、こんな可愛くない言葉だった。

 

間違っていないとは思っているけど、私の言葉に道明寺が拗ねた。

「総二郎からはもらったんだろ?俺がプレゼントして何が悪い?」

 

この後は、しばらく二人で押し問答を繰り返した。

でも、この押し問答は道明寺の言葉で終わることになる。

「俺、お前の旦那だろ?旦那が妻に浴衣をプレゼントして何が悪いんだよ?」

 

私はこの道明寺の少し照れたような顔と…。

急に言われた《旦那》と《妻》って言葉に自分の目が大きくなるのがわかった。

同時に心臓がきゅーってなる。

 

そんな言い方って反則だよ。

それに、そんな照れたような顔も反則!

 

私たちは契約結婚でしょ。

旦那とか妻って言わないでよ。

あんたにとっては大したことなくっても、私にとってはドキドキするんだよ。

 

・・・。

なんで私、ドキドキしているの?

 

少し前から…。

私、ずっと道明寺にドキドキしている。

なんで?どうして?

おかしいよ?変だよ。

 

契約が始まった当初は、道明寺と二人きりで出掛けるなんて絶対に嫌だったのに――――。

でも、今の私は、今夜の花火大会をすごく楽しみにしている。

道明寺と花火に行くのを楽しみにしている。

 

 

 

お読みいただきありがとうございます。