八十八夜

学生時代から大好きなマンガの2次小説です

まやかし婚103

2022-01-22 08:00:00 | まやかし婚(完)

 

 

俺があきらに指定された場所――――。

メープルのスィート専用エレベーター前には滋が一人。

 

いつもの服装とは全く違う滋。

マスタード色の体のラインを強調するようなロングドレスで、胸元と背中が大きく開いている。

裾から大きく入ったスリットが、際どい所で止まっている。

 

まるで記者に「私はここ!」と主張しているような服装。

マスコミ対策をしている滋が、こんな服装をするわけがねー。

この服装の滋に、引っ掛かるバカな記者なんているのか?ってことすら思う。

 

滋は俺を確認すると小声で話してきた。

「私は類くんに頼んでいたのに司かぁ。イマイチだな。でも、仕方ないから司で我慢してあげる。」

 

この俺様に向かってイマイチってなんだよ。

仕方ねーとか我慢してあげるとか、余計なことばかり言ってんじゃねーよ。

俺は滋の為に協力してんじゃねー!

牧野にヤキモチ妬いてもらう為にしてんだよっ!

 

滋が言うには、日本は男に甘く、女に厳しい国らしい。

「嫁が浮気をするのは絶対に許せないのに、自分は若い女について行くどころか自ら誘う。」

「男なら、何人と付き合っても勲章になるのに、女だと尻軽扱い。」

 

そして、この国への不平をわめき出した。

「何が男女平等?企業のトップも政治家も大臣も地方議員も男ばかり。」

「女は子宮でしか物事を考えないと決めつけている。」

「まともに発言する機会すら与えてない現実に気付け!」

「女が参加できる会議がどれだけか少ないか世界に発信したい。」

「自治会みたいな小さなコミュニティですら、男が牛耳ってる。」

「男尊女卑の先進国!」

 

滋は隣の俺にだけ聞こえるように文句を言い続けている。

俺も男だよ。

 

確かに日本は男女不平等、いや男尊女卑に近いものが多すぎる。

道明寺の部長クラスですら、女子社員を掃除にお茶酌みやコピー係だと思っている奴もいる。

 

そんな奴は、家庭でもそうなんだろう。

ジェンダーギャップ指数も日本は156か国中120位。

話になんねーよな。

 

滋の男は永林の1つ上。

大河原ほどの規模じゃねーが、都内で医療器具を販売している会社の次男坊。

 

双方の親も公認。

結婚後は、滋の家に婿養子になることが決まっている。

ここまで決まっているが、少し前に相手の祖父が亡くなったとかで発表は年明けになるらしい。

 

その年明けまでのカモフラージュ。

なんでも滋は婚約発表する時に、このカモフラージュのことも今までの恨みも全て言うのを決めているらしい。

 

そんな滋が類に依頼した理由っつーのが…。

「もちろん映えだよ!映えるでしょ。類くん。」

「紀明くんもイケメンだけど、類くんみたいな王子様じゃないんだよねー。」

なんだよ、映えって。

 

滋は今回の作戦を相手の男とその両親、自分の親にも連絡済み。

あきらと総二郎も練りに練った作戦だと言っていた。

ここまで用意周到にされているっつーのもあって、俺はこいつらを信じた。

 

まさか、あいつらの中で《一石二鳥作戦・しくじっても滋だけはなんとかなる作戦》

こんな、いい加減な名前がついているなんて思ってもいなかった。

 

そんなことを全く知らねー俺は、今から、この作戦を決行する。

俺は、フロアに目を走らせる。

階段付近に、人影が確認できる。

 

滋も気付いているようで目配せしてきた。

記者だと判断した俺たち。

 

エレベーターの扉が静かに開く。

俺が乗り、滋が後に続いた。

 

俺は、滋の腰に手を回した。

俺は笑い出したくなるのを抑えながら、滋に伝えた。

「そのドレスの選択、センスあるんじゃね。」

 

滋も俺の言いたいことに気付いたらしく答えてきた。

「ありがと。司なら気付いてくれると思った。」

 

俺は、あいつらから指示されたように滋の方へ体を屈めた。

滋も、今にもふき出しそうな顔をしながら、俺の胸に手を添えた。

 

エレベーターの扉がゆっくり閉まりだす。

閉まる直前、エレベーターホールから鋭いフラッシュの光が俺と滋を照らした。

 

 

 

お読みいただきありがとうございます。