八十八夜

学生時代から大好きなマンガの2次小説です

Redoing Love8

2024-05-11 20:39:13 | Redoing Love

 

 

 

弁当の約束した次の日。

俺はスゲー期待していた。

 

わかんねーけど…。

弁当が、消えてしまった記憶を呼び起こすような気がした。

これでまた、頭の中の靄が消えるはずだって、思えたんだ。

 

そんな時。

いつものように天真爛漫な笑顔で、俺の部屋に入ってくるこの女。 

 

「はい。約束したお弁当だよ。愛情たっぷり海オリジナル。美味しいよ!」 

こう言いながら、俺に弁当の包みを渡してきた。

 

弁当の蓋を開けた瞬間─────。 

違う。

これじゃねーって思えた。

 

病室で食った弁当とは、全く違う。

この弁当は、色彩が人工的な色ばかりな上、臭い。 

 

食わねーでもわかる。 

俺が探していたのじゃねー。 

 

「前の弁当、お前が作ったんじゃねーだろ?」

俺の言葉に、

 

「前のも海が作ったんだよ。」 

悪びれもせず言ってくるこいつ。

 

その上、

「前のは失敗したからなー。今日の方が、絶対に美味しいんだよ。」

だとか、

「ほら、見て。今日の方が、デコっていて可愛いでしょ。」

なんてことを言ってきた。

 

あ?

前のは失敗?

今日の方が美味いだと…。

こいつ、頭も味覚も狂ってんじゃね。

 

こいつは、失った記憶の女なんかじゃねー。

前の弁当を作った女が、記憶の女なんだ。

 

「前の弁当は、誰が作ったんだ?」 

「前のお弁当も、私が作ったんだよ。今日の方が美味しいんだから、早く食べてよ。はい、あーん。」 

 

こいつは、玉子焼きを俺の口元に持ってきた。

添加物だらけの匂いが鼻につく。

俺は、無意識に女の腕を振り払っていた。

 

なにもわかってねーバカ女は、

「キャッ。なに?」

なんて言って、

いつもの笑顔を浮かべながら、俺にベタベタと纏わりつこうとしてきた。

 

俺は、こいつのこの笑顔に騙された。

ウソ偽りないような話し方や、物怖じしねーでポンポン言ってくる態度に騙された。

 

その上、こいつは─────。

作ってもいねー弁当を、自分が作ったように言ってきた。

 

こいつには、素材を生かした弁当なんてものは作られねー。

こいつは、俺の忘れた女じゃない。

だから、俺の頭の中には、未だに靄が掛かったままで、心が渇ききっているんだ。

 

しぶといくらいに、俺にベタベタとくっついてくるこの女に、俺は弁当を投げつけた。

 

「ひどぉーいっ。せっかく海が作ったのに。」

「この服、お気に入りだったんだよ。」

「新しい服、買ってくれたら許してあげる。」

頬を膨らませながら、こんなことを言ってくるこの女。

 

このバカは何を言ってるんだ

なんで、俺がこのクソバカ女の服を買わねーといけねーんだよ。

そもそも俺は、自分のことを名前で呼ぶようなバカは嫌いなんだ。

 

「今すぐ出て行け。」

俺が言っても、

 

「なんでっ?道明寺くんっ。どうして?」

「海、何かした?」

「どうして急に怒ってるの?」

「この前のお弁当より、今日の方が絶対に美味しいのにっ。」

「食べても無いのに、酷いよっ。」

「いやっ、海、絶対に出て行かない。」

 

こんな訳のわからねーことを、泣き叫ぶように女は言い出した。

イライラする女の泣き声に、俺はSPを呼び、女を邸から追い出した。

 

タマの報告によると─────。

あのバカ女は、邸から出る直前まで喚き散らしていたらしい。

 

報告の後、

俺の部屋から出て行こうとしながら、タマは、

「あのように手癖が悪く、狂った女性が、坊ちゃんのタイプだとは知りませんでした。」

なんてことを言ってきた。

 

あんな女が俺のタイプなわけねーだろっ。

こう思いながら─────。

俺の記憶から消えた女は、どんな女だったんだ?って、自問した。

 

この時─────。

英徳の制服を着た女の後ろ姿が、頭を過ぎった。

 

あ?

記憶から消えた女は、英徳の生徒だったのか?

 

さっきの残像を、思い出そうとすればするほど─────。

俺の頭の中には、大量の靄が発生した。



こんなことがあった数日後。

ババアが、俺の自主退学を撤回した。

 

やっと英徳に行ける。

あの残像が頭に過ぎってから─────。

いつの間にか、俺は英徳に登校するのを心待ちにしていた。

 

朝から登校したのは、頭に浮かんだ女を探すためだ。 

わからねーが、

俺の本能が、朝から登校しろと訴えていた。 

 

俺の頭から消えることがねー靄。

この靄は─────。

記憶から消えた女を思い出した時、完全に消えるってことだけはわかっていた。





お読みいただきありがとうございます。

 

 

 

 


コメント返信9

2024-05-11 20:36:19 | コメント返信

 

 

Redoing Love7へのコメント返信

クラゲ様

切ないですよねー

こんな状態で、週一更新にしてしまい本当にすみません。

海ちゃんへの制裁(笑)

どのあたりがいいでしょうねぇ。

前回も悩みましたが、今回もここでかなり悩んでいます(汗)

少しずつ書く時間も確保できるようになってきたので頑張りますね。

コメントをありがとうございました。

 

はるとも様

お久しぶりです。

お元気ですか?

再開とは程遠い週一どころか10日毎更新で申し訳ないのですが、なんとか頑張ってラストを目指します。

コメントをありがとうございました。

 

 

Redoing Love6へのコメント返信

きな粉様

こんばんは。

もう毎回返信が遅くなってしまい本当に申し訳ございません。

言い訳にしかならないのですが(汗)

我が家の末っ子も入学式だったんです。

その為、家族の生活リズムがガラリと変わってしまいバタバタしております。

少し慣れたかなと思ったのに、ゴールデンウィークに入ってしまい(泣)

早く話を書く時間を確保できるように頑張りますね。

いつも驚いてしまうのですが、きな粉様は過去の話まですごく覚えてくださっていて本当にありがたいなと感謝の気持ちでいっぱいです。

いつもいつもありがとうございます。

コメントもありがとうございました。

 

 

Redoing Love5へのコメント返信

きな粉様

返信が遅くなってしまい申し訳ございません。

本当にサクラが咲いて良かったです。

ありがとうございます。

私の方ではすっかり葉桜になってしまったのですが、真新しい制服に身を包んでいる学生を見かける度、笑顔になっています。

そんなウキウキしている季節だというのに、話はどんよりしてしまって…。

その上、更新も遅れがちで申し訳ございません。

今からアップしますね。

いつもコメントをありがとうございます。

 

M○○ko様

返信が遅くなって申し訳ございません。

ありがとうございます。

本当に受験の時って、親もドキドキのヒヤヒヤですよね。

ほんとうに諭吉もバンバン飛んできました(泣)

第一子は文系だったので、理系の学費に目玉が飛び出ています。

話の方は無理せず続けていきますね。

いつも気を使って頂きありがとうございます。

そのリクエストを話の中に入れ込めるように頑張りますね。

いつもコメントをありがとうございます。

 

 

Redoing Love3へのコメント返信

きな粉様

何度も読んで頂きありがとうございます。

本当に辛いシーンですよね。

私も修正しながら『なんでこんなシーン書いたんやろ?これ書いた時病んでたんちゃう(病んでいたと違う)か?』なんて思ってしまいました。

早くギャグコメ書きたいです(笑)

私もきな粉様と同じで、こんなクソ男ならぶった切ってますし、次にいきます。

いつもコメントをありがとうございます。

返信が遅くなってしまい申し訳ございませんでした。

 

 

雑記へのコメント返信

m様

ありがとうございます。

そのようにコメントを頂戴しホッとしております。

出来るだけ週1くらいで更新していきたいなと思っておりますので、これからもよろしくお願いいたします。

コメントをありがとうございました。



Redoing Love2へのコメント返信

クラゲ様

こんばんは。

ワクワクして頂けました?

過去の話なのに、そのようにコメントを頂戴して嬉しく思っております。

私も海ちゃん、大嫌いなんです。

でも、こんな子、学生時代から常にいましたよね。

お弁当の作り主に、司くんが気付く日(笑)

楽しみに待っていてくださいね。

不定期更新なので、時々遊びに来て下さい。

コメントをありがとうございました。

 

 

RedoingLove1へのコメント返信

しろ様

始まりました。

長い間、待っていただき申し訳ございませんでした。

切ないですよね。

私も、早くギャグコメを書きたいです(笑)

真面目な話ばかり書いていて疲れ切ってしまい、その結果がまやかしのおまけ話となりました。

今回より不定期とさせて頂いておりますので、ご了承いただきたいと思っております。

コメントをありがとうございました。

 

きな粉様

ついに始まりました。

タイトル、同じですよ。

そう思われたのは写真ですかね?

前回の時は、この写真を使わせてもらっていなかったような記憶があるんです。

それとも、違う話ですかね?

お蔵入りのフォルダには、まだあるんですよね。

また、違う形で読んで頂けるように頑張ります。

コメントをありがとうございました。



M○○ko様

そうです。

こちらがリクエストのあったお話です。

でも、私も最終話まで書けてないんです。

真面目な話は書いていると、違う話が浮かんできてこっちを書きたくなって全く進まないんです。

でも、頑張って書き進めていきますね。

話の内容のリクエストは、出来るだけ盛り込めるように頑張りますね。

勝手なお願いとは思わないで下さい。

そのようにリクエストして頂けると、私の中でもまた妄想が広がっていくので助かります。

いつもコメントをありがとうございます。

 

M様

待っていただきありがとうございます。

不定期なので申し訳ないのですが、時々遊びに来て下さいね。

コメントをありがとうございました。

 

 

 

 


Redoing Love7

2024-04-30 23:44:28 | Redoing Love

 

 

校門で桜子と別れた後─────。

亜門とあたしは、ずっと無言のまま小さな公園に来た。 

 

公園のベンチに腰かけた途端、真剣な顔で聞いていた。

「お前、メシ食っているのか?」

 

いつもはニヒルな亜門なのに─────。

顔だけじゃなく声まで真剣で…。

そして、あたしのことを心配してくれているってのがわかった。

 

頷いた途端、

「どんな女なんだ?」

なんてことを、亜門は聞いてきた。

 

思わず黙ってしまったあたしに、

「道明寺司の新しい女は、どんな女なんだよ?」 

って、また聞いてくる。

 

どんな女って言われても、どう答えていいのかわからない…。

でも、こんなことを聞いてくるってことは─────。

亜門は、全てを知っているってことなんだろうな。

 

無言のあたしに、意地悪そうな顔をした亜門は聞いてきた。

「大方、お前よりスタイルが良くって、顔も良いんだろ?」 

 

なんで、そんな意地悪そうな顔をして聞いてくるかな?

あたしの心を壊した、あの二人のことなんて話したくなんかない。

考えたくもないし、口にしたくも無いし、会いたくも無ければ、見たくもない。

本当にあたしの記憶から消えてくれたらいいのに…。

 

こう思ったあたしの口から出た言葉が、

「道明寺の付き合っている人のことなんて、知らない。関係ないし興味も無い。」 

これだった。

 

このあたしの言葉に、

「ふーん。そうか…。その女、あざといんだろ。」

なんて、亜門は言ってきたの。

 

なんでっ?

なんで亜門にはわかるの?

 

驚いているあたしに、

「女の本性に気付かねーで、スタイルと顔で女を選ぶのは、ヤリたい盛りのガキだからな。」

なんて言ってきた。

 

・・・・・。

まさかの確信。

やっぱ大人だから亜門にはわかるの?

 

思わず黙り込んでしまう。

でも、大人な亜門には─────。

これが返事だってことが、わかってしまうんだろうな。

 

だからといって、

『亜門の言う通り。』なんてこと、口が裂けても言いたくない。

 

そんなあたしの気持ちがわかるのか?

「辛かったな。」

なんて言ってきてくれた亜門の言葉に、あたしの目頭が熱くなる。

 

なんでわかったの?

なんで?

なんで、亜門には、あたしの気持ちがわかるの?

 

そう…。

あたし、ずっと辛かった。

 

そんなあたしに、

「頑張ったんだな。」

なんて、亜門は言ってきてくれた。

 

うん。

あたし、頑張った。

 

桜子や滋さんに、優紀。

西門さんや美作さんに類も、ずっとあたしのことを心配してくれていた。

でも、あたしは、みんなの前で泣きたくなかった。

どれだけ辛くても、みんなに心配させたくなかった。

 

それなのに─────。

なんで、亜門の前だと、涙腺が緩むんだろう…。

 

亜門が大人だから?

道明寺とあたしのことを知っているから?

 

大人な亜門は、今のあたしの状態が直ぐにわかったらしい。

「泣けよ。俺の前でまで、我慢するな。」

この亜門の言葉で─────

あたしの中で、亜門に甘えようって思いが一瞬で芽生えた。

 

亜門に甘えよう。

踏ん切りを付けさせてもらおう。

泣くのはそれからでいい。

 

「今は泣かない。後で泣く。」

この言葉の後で、

 

あたしは、亜門にお願いした。

「お願いがあるの。一瞬だけ、道明寺になって欲しい。」

 

あたしのお願いに、亜門の顔が真顔になった。

道明寺になって欲しいなんて、嫌なお願いだったかな…。

断られるかもしれない…。

 

こう思った時、

小さく息を吐き出した亜門は、言ってきてくれたんだ。

「何をしたらいいんだ?」

 

「一歩前に立って。」

あたしの言葉に、ベンチから立ち上がった亜門は、一歩前に立ってくれた。

 

本当に道明寺みたい。

少しだけ大人になった道明寺。

あと数年したら、道明寺も亜門みたいな大人の男性になるのかな?

 

「あのね、今からあたしが話すことに、何も言わずに聞いていて欲しいの。」

あたしのお願いに、亜門は黙って頷いた。

 

亜門が会いに来てくれて良かった。 

道明寺に伝えられなかったことを伝えよう。 

 

心は壊れてしまったけど、きちんと別れて次へ進みたい。

きちんと踏ん切りをつけて、前に進もう。

あたしなら、きっと、いつか乗り越えられる。

 

目の前にいるこの人は、大好きだった道明寺…。

静かに心の中で唱える。

 

「ありがと、道明寺。 道明寺と過ごした時は、かけがえのない時だった。バイバイ。」 

こう言ったあたしは、

思いっきり亜門の胸に飛び込んだ。 

 

そして、あたしは─────。

ずっと、道明寺に言えなかった言葉を口にした。

「どうして、あたしのことだけ忘れてしまったの?」

 

後から後から流れてくる涙を拭うこともせず、

あたしは、亜門の胸の中で思いっきり泣いた。

 

本当に大好きだった。

バイバイ、道明寺。





お読みいただきありがとうございます。




Redoing Love6

2024-04-17 23:42:09 | Redoing Love

 

 

急いで乗り込んだ電車は、満員電車だった。

扉が閉まる。

 

ぼんやり窓の外の景色を眺めていたら─────。

扉の窓ガラスに写っている自分の顔に驚いた。

 

酷い顔。

あたしって、こんなに酷い顔をしていたんだ…。

 

まだ高校生なのに、こんなに疲れた顔だったんだ。

天真爛漫の海ちゃんと比べると…。

道明寺じゃなくても、男の人なら誰でも、あたしじゃなく海ちゃんを選ぶ。

 

道明寺の香りを思い出した瞬間─────。

窓ガラスに写っているあたしの頬に、涙が伝いだした。

周りの人に気付かれないように、そっと涙を拭った。

 

無意識のうちに電車を降り、家まで歩いていた。

気付くと、あたしは家の前にいた。

 

深く深呼吸して、鍵を開ける。

そして、いつものように

「ただいまっ。」

って、元気に玄関のドアを開けた。

 

「姉ちゃん、おかえり。ご飯だけセットしといたよ。」

進の声に、ホッとした。

 

いつものように夜ご飯を用意して、どうでもいい会話をしながら進と2人で食べる。

進の声と笑顔、あたしの目の前にいるってことが、

今のあたしのささくれた心を、少しだけ癒してくれた。

 

食べ終わった後、あたしは自分の部屋に入った。

入った途端、出てしまう大きな溜息。

心が疲れている時は、体もすごく疲れるんだ。

 

それでも、あたしは、タンスの中からあるものを取りだした。

土星のネックレス、初めてのデートの時のホームランボール。

魔女から預かったウサギのぬいぐるみ。

 

これらの道明寺との思い出の品を、小さな紙袋にまとめた。

 

翌朝。

1時間目のホームルームをサボったあたしは、類に紙袋を託した。

 

類は、一瞬、納得してなさそうな顔をしたけど、何も言わず受け取ってくれた。

 

でも、受け取ってくれた後で、

「司に伝言は?」

って、類は聞いていた。

 

この類の言葉に、あたしは手紙すら書いてないことに気が付いた。

でも…、それでいい。

その方が良い。

 

終わった恋の相手からの手紙なんて、重いはず。

それに、道明寺には海ちゃんがいるんだ。

 

「ううん。何もない。」

「わかった。」

 

これだけの会話で、道明寺とあたしの思い出は、あたしの手許から離れていった。

 

そう…。

こうして忘れていくんだ。

 

時間に癒してもらえなくても…。

乗り越えられなくても、いつか、きっと懐かしいと思う日が来る。



それから、しばらくして─────。

道明寺が、再び学校に登校するようになった。

 

道明寺と付き合っていたことを、オープンにはしていなかったけど…。

いつの間にか、あたしは

『道明寺司に捨てられた女。』

『道明寺様に捨てられた庶民。』

なんて、呼ばれるようになって、好奇な目線で見られるようになっていた。

 

このことを心配してくれたからなのか─────。

あたしのそばには、桜子かF3の誰かがいるようになった。

 

休み時間、昼休み、登下校時は、常に誰かが付いていてくれた。

何度も「あたしは大丈夫。」って言ったんだけど、受け入れてもらえなかった。

 

あたしは知らないけど…。

道明寺は毎日、登校しているらしい。

 

ある日、美作さんに、

「あたしは一人でも大丈夫だから、道明寺といてあげて…。あいつ、友達なんて、美作さん達しかいないしさっ。」

って、軽く言ってみたんだけど…。

 

優しく笑った美作さんは、

「そんなこと、牧野が気にしなくていい。たまには、牧野も甘えるくらいしろよ。」

あたしの髪をクシャってしながら言ってきた。

 

美作さんの大きな手が、あたしの髪に触れた時─────。

道明寺も大きな手で、あたしの髪をクシャってしてきたのを思い出した。

クシャクシャって何度もするから、鳥巣みたいになって…。

 

って!!

なんで、道明寺のことなんて思い出しているの?

 

ストップ!

道明寺のことは考えない。

 

終わってしまった恋に、いつまでもしがみつきたくない。

それに、道明寺には海ちゃんがいる。

何度も願った奇跡は、起こらなかったでしょ。

こんなことを、呪文のように心で唱えた。

 

傷付いたあたしの心が、元の状態に戻ることは無いけど…。

なんとかあたしは、それなりに日々の生活を送れていた。

 

そんな、金曜日の下校時。

いつものように、桜子と校門まで歩いていると─────。

 

「スッゲー。」

「似ているわっ。キャー!こっち見た。」

「ご親戚の方かしら?」

 

校門前が、やけに騒がしい。

完全に人混みが出来上がっている。

 

よく見ると、西門さんや美作さんまでいる。

何があったの?

 

こんなに騒ぐなんて、道明寺でもいるの?

ギュッて、鷲掴みにされたようになるあたしの心臓。

 

いやだ。

会いたくない。

 

「牧野、指名だ。」

この西門さんの一言で

校門前の人たちが、一斉にあたしを振り返った。

 

西門さんっ!

時と場合を考えてよっ。

 

人混みをかき分けるように、桜子と校門の外に出ると─────。

そこには、道明寺そっくりな亜門がいた。




お読みいただきありがとうございます。

 

 


Redoing Love 5

2024-04-07 00:59:02 | Redoing Love

 

 

みんなが心配してくれているのがわかったから…。

あたしは

「休み時間、終わってしまうよ。お昼、食べようっ。」

って、元気よく声をかけた。

そして、ランチバックからお弁当を取りだした。

 

正直、食欲も無い。

しかも、お弁当を見ると────。

道明寺に作った最後のお弁当を思い出してしまって、

食べることを拒否してしまいそうになる…。

 

でも…。

あたしは、元気よく食べだした。

食べているのか、押し込んでいるのか、全く分からないけど…。

 

道明寺が登校するようになったら、このテラスに来るのは止めよう。

今ですら、みんなに気を使わせている…。

 

その証拠に─────。

あたしの視界の端で、西門さんと美作さん、桜子の3人が目配せしているのがわかる。

 

でも、そんなこと気にしない。

もうなにも気にしたくない…。

 

道明寺があたしだけを忘れたこと、

好きな人に、自分だけを忘れられるっていう惨めな気持ちも、

勇気を出して作ったお弁当が、海ちゃんが作っていたことになっていたことも…。

 

もう、全部忘れたい。

消えて無くなってしまいたい。

それが無理なら、全ての感情を捨て去りたい。

 

何も考えたくない。

でも、どれだけこんな風に思っていても─────。

 

現実は、待ってくれない。

この日のお昼からの授業は、ホームルームで進路選択の説明会。

 

どれだけ悩んでいても、進路選択はしないといけないよね…。

なんで、こんなに悩んでいる時に、進路のことまで悩まないといけないんだろ。

 

この説明を受けている人の殆どが、親の敷いたレールを歩いていくのに…。

庶民のあたしは、レールから自分で作っていかなければいけないんだ…。

 

事件に遭わない時の道明寺なら─────。

うるさいくらいに、あたしの進路に口出ししてきたはず。

こんなことを思うと、あたしの心はチクってなった。

 

チクってなっても、進路選択はしていかないといけない。

どうしたらいいのか、どうすればいいのか。

 

あたしは、どうしたいの?

・・・・・。

あたしは、今のこの苦しみから脱出したい。

 

《全てのことは、時間が癒してくれる》なんて嘘。

それは、辛いことを乗り越えた人だけが、口に出来る言葉。

 

あたしも、時間が癒してくれるのかな?

この辛さを乗り越えられるのかな?

 

1秒でも早く、この辛さから逃げ出したい。

本当のことをいうと、自分自身の存在を消したい

あたし以外のあたしになりたい。

でも、そんなことは出来ない。

 

どうして現実は、こんなに厳しいの?

どうしてあたしだけ、次から次へと色んな事が起こるの?

 

日が暮れるのが早くなった冬至前。

殆どの子が、家からのお迎えの車に乗り込んでいく。

あたしは一人とぼとぼと、薄暮れの道を駅まで歩き始めた。

 

駅まで歩くと─────。

今、一番会いたくない海ちゃんが、あたしの方へ向かって歩いてくる。

 

なんでっ?

なんで、海ちゃんがここにいるのっ?

海ちゃんの家と高校って、全く別方向なのにっ。

 

最悪…。

会いたくないのに、どうして会ってしまうのかな?

 

「つくしちゃーんっ。今、帰り?遅いね。」

天真爛漫な笑みの海ちゃんは、

長くて綺麗な髪を、風に靡かせながらあたしに声を掛けてきた。

 

『お弁当のこと、怒っているんだからねっ!』

って言ってしまうと、

盗み聞きしたみたいに思われるのが嫌だから、言わないけど…。

 

だからといって、話したいわけでもない。

こう思ったあたしは、

「うん。進路説明会で遅くなって…。またね。」

って、声を掛けて、海ちゃんの横を通り過ぎようとした。

 

でも─────。

この時、わかってしまったんだ。

 

道明寺の香りがする…。

海ちゃんから、道明寺の香りがする。

 

間違えるわけない。

道明寺の香りだ。

 

移り香。

ううん。

むせるくらいの道明寺の香り。

ずっとあたしを包んでくれた香り。

 

それが、海ちゃんから香るってことは─────。

つまり、そういうことなんだ…。

 

ほふく前進して、あたしがお邸に忍び込んだあの日。

あたしが怖くなって出来なかったことを、道明寺は海ちゃんとしたんだ…。

 

『待つわ。』って言ってくれた道明寺に会いたい。

どうして、いなくなってしまったの?

どうして、あたしを忘れてしまったの?

 

道明寺の香り逃げるように、

道明寺の香りに包まれている海ちゃんから逃げるように、

あたしは、改札へ向かって走り出した。

 




お読みいただきありがとうございます。


我が家の受験生にも、最後に満開のサクラが咲きました。

その為、バタバタしており更新がゆっくりになってしまいすみません。