八十八夜

学生時代から大好きなマンガの2次小説です

まやかし婚87

2022-01-06 08:00:00 | まやかし婚(完)

 

 

2021.07

夏になった。危険な季節だ。

好きな女の露出が増える。これがマジ拷問。

 

ノースリーブのワンピースやショートパンツで俺の目の前をウロウロする牧野。

襲いたくなるのを、ただひたすら我慢する日々。

俺以外の男に、その姿を絶対に見せるんじゃねーぞ!

 

この拷問のような生活も、今月末で半年になる。

それなのに、俺たち二人は完全なる同居人だ。

俺の気持ちに全く気付かねー牧野。

 

その上、明日は牧野の同窓会だ。

中学生の時の同窓会。

西田の情報によると、織部兄も来るらしい。

 

中学生の頃、牧野を好きだった男。

部屋に牧野の写真を飾っていた男。

俺の知らねー牧野を知っている男。

 

俺は学生の頃に女を好きになったことがねーから、わからねーが…。

でも、好きだった女と数年ぶりに再会したら?

その女が、綺麗になって目の前に現れたら?

 

絶対に声を掛けるに決まってるだろ!

二人で抜け出そうってのもあるかもしんねー。

ダメだ!ダメだっ!

そんなの許せねー!!

 

 

―――同窓会当日―――

牧野は数日前から楽しそうにこの日を待っていた。

これが、どうしても気になった俺は、どうしようもない超重要な問題の為に昼過ぎにペントハウスへ帰ってきた。

どうも西田が笑っているように感じたのは気のせいか?

 

玄関のドアを開けるとカレーの匂いが充満している。

今夜はカレーを1人で食えってことだな、と俺は理解した。

 

「もう、行くのか?」

マジで行ってもらいたくねーのに、『行くな。』の一言が言えない俺。

 

牧野からは、スゲー嬉しそうな顔で「うん。」っつー返事が返ってくる。

 

俺は、数日前から何度も繰り返し言った言葉をもう一度伝えた。

「終わったら、迎えに行くから電話しろ。」

 

俺の言葉の本当の意味を全く理解してねー牧野は、笑いながら答えてきた。

「アハハー。あんたって見えないけど本当に心配性だよね。このペントハウス、駅から直ぐだし大丈夫。」

 

駅から近いのくらい知ってるっつーんだ。

それよりも、同窓会でお前が織部に会うのが嫌なんだ!

それ以上に、同窓会の途中で、お前と織部が抜け出したりするんじゃねーかってことが心配なんだ!

 

西田情報によると(俺は同窓会になんて行ったことがねぇ。)

同窓会っつーのは、だいたい2時間で終わるらしい。

思わず2時間くれーならなんて思った。

 

が、能面メガネが余計な情報を言ってきた。

「同窓会はその後、二次会、三次会と流れていきます。」

 

この二次会・三次会も心配な俺は、牧野に聞いてみた。

「だいたい、何時に終わるんだよ?」

「うーん。何時なのかな?私も同窓会なんて今までに参加したことないからわからない。」

っつー返事が返ってきた。

 

そうだよな。

お前は親父さんの作った借金が大変で、同窓会どころじゃなかったんだよな。

 

って、そんな返事で納得いくわけねーだろ!

俺は西田から『だいたい2時間』って聞いているんだよ。

 

「でも、2時間から3時間くらいなんじゃないの?じゃあね~。」

こう言いながら、牧野は『嬉しい!楽しい!!』っつー気持ちを隠そうともせず出かけて行った。

 

あいつは、いつも以上に可愛らしい服装だった。

牧野の服装は、ベージュの半袖ニットにイエローのパンツ。

 

スカートじゃないのに安心はしたが…。

でも、そのウエストの黒いベルトは要らねーだろ!

お前の細い腰が強調されるんだよ。

クソっ。

 

俺が牧野の心を手に入れていたら?

こんな思いもしねーで、余裕であいつを同窓会に送り出すことが出来たのか?

いや、できそーもねーな。

 

その後、俺は牧野が作っていったカレーをヤケ食いした。

サラダもスープも完食。

 

開始から1時間しても1時間半が過ぎても、牧野から全く連絡がない。

最低でも二時間は終わらねーからな。

 

牧野が研修明けの織部弟とメシを食いに行った時のように、イライラしながら待つのは嫌だ。

俺はもうすぐ2時間になるって時に、地下の駐車場へ移動し車のエンジンをかけた。

ハンドルを握ってフットブレーキを解除する。

 

ここから牧野の同窓会の場所まで半時間弱。

今からだと、行き違いになるか?

それとも、間に合うか?

 

俺は時間だけじゃなく、あらゆるものに焦るような気持ちになりながらハンドルを握った。

もうすぐ、牧野の同窓会の場所。

俺は、速度を緩めた。

 

その時、前方から歩いてくる男女だけが視界に入った。

土曜のこの時間帯。

人なんてたくさん歩いているのに、俺の車も運転中なのに、俺にはこの男女だけがくっきり見えた。

 

楽しそうに牧野の歩調に合せて歩いている男。

織部の兄────。

 

牧野の同級生だ。

西田の報告書と同じ男。

こいつが楽しそうに笑っている牧野と、駅に向かいながら歩いていた。

 

 

 

 

お読みいただきありがとうございます。