八十八夜

学生時代から大好きなマンガの2次小説です

まやかし婚107

2022-01-26 08:00:00 | まやかし婚(完)

 

 

私が自分の部屋に籠っていた時に、道明寺は会社から帰ってきた。

私は直ぐに涙を拭いて、急いで鏡台の前に立つ。

そして、私は目が腫れていないか、赤くなっていないかのチェックをした。

 

大丈夫。

目も腫れていないし、赤くなっていない。

ついでに、鼻も赤くなってない。

涙の痕も無い。

 

私は道明寺がいるリビングに、いつものように私らしくってことに意識して入っていった。

道明寺は、そんな私の顔を見ると困ったような顔をした。

 

そりゃ、そうだよね。

私には、今までにいっぱい規制を掛けていたのに、自分は大々的にスクープされたんだもん。

いくら道明寺でもバツが悪いよね。

 

こんな時、素直に謝りにくいものだよね。

でも、恋愛は自由なんだ。

 

ましてや、私たちは一年って期間限定の契約結婚なんだから。

その契約期間が半年をきって、その後に向けて動き出すのは当然のことなんだから。

 

この契約が終わったら、男の道明寺は直ぐに結婚することができる。

数年前まで、女は離婚しても、半年経たないと再婚出来なかった。

今は法改正によって100日に短縮されているし、離婚時に妊娠していないことを医師が証明さえしてくれた場合は100日以内でも再婚できるようになった。

 

私の場合、契約が終了しても…。

もう、誰かと結婚するかどうかなんて、全くわからない状態。

 

ずっと先生みたいな人と結婚したいって思っていたのに。

いつの間にか、学生時代に大嫌いだった奴に惹かれて、いつの間にか好きになっていたなんて…。

 

私、頑張ったよ。

普通に言えたよね?

道明寺が、私に何かを話したがっているのは気が付いていた。

 

でも、道明寺から

『好きな女がいる。』

『お前との契約が終わったら、滋と結婚するんだ。』

『お前も、早く理想の教師を見つけろよ。』

なんて、絶対に聞きたくなかった。

 

そんなの辛すぎるし、悲しすぎる。

だから、私から話し出した。

明るく、元気に、いつものように話し出したんだ。

「報道見たよ。大河原さんって、あんたには勿体ないくらいの綺麗な人だね。」

「私も素敵な人、見つけないとね。」

 

私は食べ終わった後、いつものように片付けをして自分の部屋へ戻った。

ドアを閉めた途端、我慢していた涙が溢れてくる。

「ぅうー。うっ…。」

 

私の部屋は、玄関から直ぐの所にある。

道明寺の部屋は、リビングの向こう側。

 

だから、少しくらい泣いていたって泣き声が聞こえることはない。

でも、万が一がある。

絶対にバレてはいけない、この気持ち。

 

また、今朝のあの写真が私の目の前に、頭の中に出てくる。

道明寺と大河原さんが、キスする直前の写真。

スマホで見て一瞬で画面を消した写真。

見たくないのに、何度もテレビに映ってくるあの写真。

コンビニで買った新聞にも、一面に大きくカラー印刷されているあの写真。

 

道明寺と大河原さんのキスする直前の写真。

道明寺の顔は、クルクルの髪の毛で半分隠れていて表情は見えなかった。

 

でも、大河原さんの腰に腕をしっかり回していた。

大河原さんも、道明寺の胸にキレイな手を添えていたよね。

 

私は、今日何度目?

いや、何十回目になるだろうと思いながら、頭を振った。

必死になって頭を振った。

でも、あの写真が私の記憶から消えることはなかった。

 

いつの間にか、私はしゃくりあげて泣いていた。

私はベッドに顔を押し付けて、泣き声が漏れないように泣いた。

「ひっく…。ひっ、ひっく…」

 

好きって気付いた日に、失恋するなんて私くらい。

なんで、道明寺と大河原さんの報道で自分の気持ちに気付くのかな?

 

バカだよね。

一緒に住んでいるのに、自分の気持ちに全く気付いてないなんて。

 

いつから好きになっていたんだろ?

気付いたら好きになっていたって、一番たちが悪いよね。

だって、道明寺の良い所も悪い所も全部ひっくるめて好きなんだから。

全てが好きってことなんだから。

 

道明寺の負担にならないように────。

道明寺には私の気持ちを知られてはいけない。

あいつは優しいから、私の気持ちに気付いたら困ってしまう。

道明寺は優しいから、きっとすごく悩んでしまう。

 

この想いは、消さなくてはいけない。

絶対に。

約束だから。契約だから。

 

私が小さい頃、ママに言われた言葉。

『つくし、ウソはついてはいけません。ウソをつくと、そのウソのためにまたウソをついてしまうから。』

 

これは、本当の言葉だった。

私はこの嘘だらけの結婚に、また新たな嘘を重ねる。

 

これから契約が終わるまで…。

契約が終わっても、この気持ちを隠し通そう。

自分の気持ちに、嘘を重ねよう。

 

 

 

 

お読みいただきありがとうございます。