八十八夜

学生時代から大好きなマンガの2次小説です

まやかし婚104

2022-01-23 08:00:00 | まやかし婚(完)

 

 

「なにが『そのドレスの選択、センスあるんじゃね。』よ。もう!滋ちゃん、吹き出すかと思ったよ。」

エレベーターのドアが閉まった途端に、滋の笑い声。

 

「お前こそ、なんだよ?『ありがと。司なら気付いてくれると思った。』って。あの記者が隠れてるところばかり見ていたじゃねーか。滋には、女優は無理だな。」

俺も、笑いながら滋に言った。

 

エレベーターは最上階を目指す。

エレベーターを降りた後、滋は俺に珍しいくらいに礼を言ってきた。

 

「司、ホントありがと。むっちゃ感謝だよ。しばらく、記者の尾行に気を付けて。ま、司は万年童貞だから、心配ないけどね。」

万年童貞は余計だ。

少しくらい恥じらいを持て。

 

「もう滋ちゃんは売約済みだけど、童貞卒業するなら良い子見つけてね。ほんと、いい年なんだからマジメに恋愛しなよ。」

滋の忠告。

 

もう見つけているんだよ。

恋愛もしている。

あいつこそ俺に売約済みだ。

 

滋は大河原がキープしている部屋へ足早に向かいだした。

俺は、牧野の待つペントハウスへ急ごうとした。

 

が、突然足を止めた滋が言ってきたんだ。

「司がマジメに恋愛するとしても、年明けの滋ちゃんの婚約発表までダメだからね!でないと、ややこしいことになるからね!」

 

あ?なんだと…。

でも、俺とあいつは既に結婚しているし問題ねーだろ。

 

仮に、今日のことが報道になったとしても、少し前の時の牧野との報道程度だろと俺は思っていた。

まさか、直ぐに報道されるとは思いもしなかった。

 

 

 

今日は、どうしたのかな?

道明寺が帰ってこない。

 

急に仕事が忙しくなったのかな?

先に晩ご飯を食べようか、待っていた方が良いのかな?

冷めてしまうよ。

こんなことは初めてで、どうしようかと思ってしまう。

 

道明寺から何か連絡が無いかとスマホチェックする。

でも、道明寺からの連絡は無かった。

電池の残量が減ってきているのに気付いた私は、部屋に戻りスマホの充電を始めた。

 

部屋から出るタイミングで道明寺が帰宅した。

いつものように一緒に晩ご飯を食べ、いつものように過ごした。

でも、何となく道明寺の視線が気になっていた。

 

翌朝─────

私は出社して、昨夜の道明寺の視線の意味を知る。

 

朝、いつものように出社すると、会社の正面玄関前はマスコミで溢れかえっていた。

なに?この人たち?

もしかして、道明寺と私の契約がバレた?

 

私は、恐怖で足がその場ですくむのがわかった。

同時に、手が震えだす。

 

どうしよう。

なんでバレたの?

まさか、道明寺が話してしまったの?

いや、道明寺はそんなことしない…。

 

私が呆然としていると、後ろから来た天草主任に腕を取られた。

「つくし。あいつらに何を聞かれても、絶対に答えるな。」

天草主任は、はっきりした口調で言ってきた。

 

そして、マスコミ各社が辛うじて社員用に残したであろう人垣の中を足早に歩きだした。

一方的に投げかけられる質問。

 

「大河原滋さんは、よく道明寺社長に会いに来られるのですか?」

え?大河原滋さん?

 

「社員向けになにか説明とかありましたか?」

社員向けに説明?

 

「道明寺司さんと大河原滋さんについてどう思われますか?」

えっ?

あいつと大河原滋さんについて?

 

なに?

何を聞かれているの?

私のことではなかったって安心と、何を聞かれているのか全く分からない不安が交差する。

 

こんな質問と同時にマイクが向けられる。

マイクを持つ手が近づくと同時に、眩しいライトやフラッシュが四方から光っている。

 

私は質問やマイク、眩しすぎる光から逃れるようにやや下を向きながら歩く。

私の後ろには、天草主任が私の背中から守るように一緒に歩いてくれている。

 

「あっ!!あなたは、天草議員のご長男さんですよね?確か、道明寺司さんと同い年ですよね?」

こんな質問が天草主任に気が付いた人にされた瞬間!!

 

今まで以上に眩しいライトが私と天草主任を照らしてきた。

この瞬間、天草主任は私の顔をカメラから守るように、私の顔を守るように後ろから自分の腕を回してきてくれた。

 

「失礼。」

天草主任は、声を掛けてきた人に一言だけこう言った。

そして、今さっきよりもっと、私の背中に自分の体を添わすようにして、社内へ私を誘導した。

 

何が起こったの?

何があったの?

 

大河原滋さんって、大河原グループのお嬢様だよね?

昨日、道明寺の様子が変だったのってこれと関係があるの?

 

私は、いつの間にか毎朝乗るエレベーターホールまで来ていた。

何が起こっているのか、何があったのか知りたかった。

でも、今さっきの出来事は衝撃的で私の思考をストップさせた。

 

呆然としている私に、天草主任は声を掛けてきた。

「つくし。あんな男は…。」

 

天草主任は少し困った顔をした後、私の髪をクシャってしながら…。

「今日、スゲー忙しいんだ。庶務にフォロー回すから頼むわ。」

こう言って、私に笑ってきたんだ。

 

 

 

お読みいただきありがとうございます。


九州地方にお住まいの方、大丈夫でしたか?

地震はいつも突然で…。

本当に驚かれ怖い思いをされたと思います。

どうか皆様がご無事でありますように。