八十八夜

学生時代から大好きなマンガの2次小説です

まやかし婚106

2022-01-25 08:00:00 | まやかし婚(完)

 

 

ウソツキ。

大河原さんと約束しているなら、私に花火に行こうなんていわないで!

私、バカみたいじゃない。

 

花火を誘ってきたのも、道明寺からしたら社交辞令みたいなものだったんだね。

大河原さんとの約束が入ったら、そっちが本命だから優先するだけのことで…。

私が勝手に本気にしてしまっただけ。

 

あいつが喜んでくれるかもって、あいつがプレゼントしてくれた浴衣まで着て。

必死になって着たのに見てすらもらえなかった。

 

そりゃ、そうよね。

本命の、あんな綺麗な彼女がいるんだもん。

 

その彼女と、最上階のあの執務室で二人きりで花火を見たんだ。

最初に道明寺と会った日に、私も入った執務室。

 

そして…。

道明寺って、私も入ったメープルのスィートで会ってたんだ。

 

最低。

彼女がいるのに契約結婚なんてしないで!

 

ドレスを着た私と写真を撮る必要なんて無かったじゃない!

毎日、帰って来ないで!

 

私の帰宅が遅いのに文句なんて言わないで!

花火、誘わないで!

優しくしないで!!

 

道明寺が結婚に興味が無いって言っていたのは、私との結婚に興味が無いってことだったんだ。

あれ…?

ちょっと待って。

契約前に西田さんが『結婚相手は見つかっていません。』って言っていたよね。

 

ってことは!!

私と契約してから大河原さんと付き合いだしたの?

それとも、契約が始まるまでの数か月あった時に付き合いだしたの?

 

どっちにしても、契約結婚するのが決まっているのに付き合うなんて最低!

私に恋愛禁止令を出したのに、自分は付き合っているとか頭沸いているんじゃない?

 

道明寺のバカ!

バカバカバカ!

ついでに、もう一回バカ!!

 

この瞬間。

ずっと、私の目でなんとか堪えていたものが溢れ出た。

 

私の頬を、温かいものがつたった。

どんどん溢れてくる私の涙。

 

道明寺が優しく笑った顔、私の髪を梳いてきた時の顔、嬉しそうに笑った顔。

道明寺の困った顔、ビックリした顔、怒った顔。

いろんな道明寺の顔が、私の中で追いつかないほど溢れ出てくる。

 

なんでっ!!

あいつの顔ばかり出てくるのよ。

 

私は、いつの間にか自分の目から流れ落ちた涙を自分の手の甲で拭いた。

でも、涙は後から後から零れ落ちてきた。

私の涙は、私の服を濡らした。

 

バカは私。

私、いつの間にか道明寺のことを好きになっていたんだ。

 

だから、こんなに悲しくて辛くて苦しんだ。

だから、あの朝の報道から苦しくて仕方がないんだ。

 

なんで、道明寺を好きになってしまったの?

なんで、道明寺と契約結婚なんてしてしまったの?

お金の為に結婚なんてするから、こんなことになってしまった。

 

どうしよう…。

好きになった人には、大切な人がいる人だった。

 

好きになった人は、好きになってはいけない人だった。

あいつの誕生日までどうして過ごしたらいいのかな?

 

 

 

この日の夜、俺が帰宅すると真っ暗だった。

牧野の部屋からは微かに光が漏れていて、牧野が帰宅しているのはわかった。

俺は電気を付けながらリビングに移動した。

 

キッチンのテーブルには、二つのベントウらしきもの。

なんだ、これが今日のメシか?

 

こんなことを思っていると

「おかえりなさい。」

自分の部屋から出てきた牧野が、いつものように笑いながらリビングに入ってきた。

 

「おぅ。」

俺の返事に、「ただいまくらい言いなさいよ。」このいつもの言葉は無く…。

 

「今日はね、初めてスーパーのお弁当を買ってきたんだ。手抜きとか契約と違うなんて言わないでね。」

こう笑いながら、レンシレンジで、スーパーで買ったベントウを温めだした。

 

滋にはわりぃが、俺は牧野に全て素直に話すと腹を括った。

お前のことを想っているってことを…。

 

赤札の謝罪は、一名残っている。

それでも、こいつが他の男といるのを二度と見たくない。

俺の気持ちを伝えねーと、始まらない。

 

俺は、牧野の言葉を待たずに話すことにした。

「サル――――。」

俺の言葉は牧野の言葉に掻き消されてしまった。

 

「今朝、天草主任にムチャクチャ仕事回すって宣言されてしまって。本当にスゴイ量が回ってきたの。今日はクタクタになってしまったからお弁当ね。」

 

天草からの仕事?

ふざけんな!

もうこれ以上、我慢できねー。

 

俺がもう一度、口を開いた時

「俺、────。」

 

「あんた、どっちにする?《超大盛!ドデカチャーハンとから揚げセット》と、《ガツンと!トンカツ特盛セット》」

またもタイミング悪く、牧野の声に消されてしまった。

 

「さ、座って。温かいうちに食べよう。いただきまーす。」

さっさと椅子に座った牧野は、美味そうに食いだした。

 

なんで、いつもと一緒なんだよ?

お前は何も思わねーのかよ?

 

仮にも旦那が他の女とホテルで密会していたんだぞ!

あんな写真まで撮られても、怒ることも悲しむことも無い牧野。

 

ヤキモチを妬いてもらうなんて論外。

俺のことを何も思ってねー。

その証拠に文句すら言ってこない。

 

俺は、お前が同窓会に行った時は迎いに行っただろ。

織部とメシ食って帰ってきた日は怒っただろ?

 

「報道見たよ。大河原さんって、あんたには勿体ないくらいの綺麗な人だね。」

「私も素敵な人、見つけないとね。」

笑いながら言ってきた牧野。

 

俺のことを全く気にしてねーことに、目の奥が熱くなってくるのがわかる。

やべぇ。鼻まで痛くなってきた。

 

こんな辛くて苦しい想いは産まれて初めてだ。

どうしたらいいんだよ…。

 

 

 

 

お読みいただきありがとうございます。