ウソツキ。
大河原さんと約束しているなら、私に花火に行こうなんていわないで!
私、バカみたいじゃない。
花火を誘ってきたのも、道明寺からしたら社交辞令みたいなものだったんだね。
大河原さんとの約束が入ったら、そっちが本命だから優先するだけのことで…。
私が勝手に本気にしてしまっただけ。
あいつが喜んでくれるかもって、あいつがプレゼントしてくれた浴衣まで着て。
必死になって着たのに見てすらもらえなかった。
そりゃ、そうよね。
本命の、あんな綺麗な彼女がいるんだもん。
その彼女と、最上階のあの執務室で二人きりで花火を見たんだ。
最初に道明寺と会った日に、私も入った執務室。
そして…。
道明寺って、私も入ったメープルのスィートで会ってたんだ。
最低。
彼女がいるのに契約結婚なんてしないで!
ドレスを着た私と写真を撮る必要なんて無かったじゃない!
毎日、帰って来ないで!
私の帰宅が遅いのに文句なんて言わないで!
花火、誘わないで!
優しくしないで!!
道明寺が結婚に興味が無いって言っていたのは、私との結婚に興味が無いってことだったんだ。
あれ…?
ちょっと待って。
契約前に西田さんが『結婚相手は見つかっていません。』って言っていたよね。
ってことは!!
私と契約してから大河原さんと付き合いだしたの?
それとも、契約が始まるまでの数か月あった時に付き合いだしたの?
どっちにしても、契約結婚するのが決まっているのに付き合うなんて最低!
私に恋愛禁止令を出したのに、自分は付き合っているとか頭沸いているんじゃない?
道明寺のバカ!
バカバカバカ!
ついでに、もう一回バカ!!
この瞬間。
ずっと、私の目でなんとか堪えていたものが溢れ出た。
私の頬を、温かいものがつたった。
どんどん溢れてくる私の涙。
道明寺が優しく笑った顔、私の髪を梳いてきた時の顔、嬉しそうに笑った顔。
道明寺の困った顔、ビックリした顔、怒った顔。
いろんな道明寺の顔が、私の中で追いつかないほど溢れ出てくる。
なんでっ!!
あいつの顔ばかり出てくるのよ。
私は、いつの間にか自分の目から流れ落ちた涙を自分の手の甲で拭いた。
でも、涙は後から後から零れ落ちてきた。
私の涙は、私の服を濡らした。
バカは私。
私、いつの間にか道明寺のことを好きになっていたんだ。
だから、こんなに悲しくて辛くて苦しんだ。
だから、あの朝の報道から苦しくて仕方がないんだ。
なんで、道明寺を好きになってしまったの?
なんで、道明寺と契約結婚なんてしてしまったの?
お金の為に結婚なんてするから、こんなことになってしまった。
どうしよう…。
好きになった人には、大切な人がいる人だった。
好きになった人は、好きになってはいけない人だった。
あいつの誕生日までどうして過ごしたらいいのかな?
この日の夜、俺が帰宅すると真っ暗だった。
牧野の部屋からは微かに光が漏れていて、牧野が帰宅しているのはわかった。
俺は電気を付けながらリビングに移動した。
キッチンのテーブルには、二つのベントウらしきもの。
なんだ、これが今日のメシか?
こんなことを思っていると
「おかえりなさい。」
自分の部屋から出てきた牧野が、いつものように笑いながらリビングに入ってきた。
「おぅ。」
俺の返事に、「ただいまくらい言いなさいよ。」このいつもの言葉は無く…。
「今日はね、初めてスーパーのお弁当を買ってきたんだ。手抜きとか契約と違うなんて言わないでね。」
こう笑いながら、レンシレンジで、スーパーで買ったベントウを温めだした。
滋にはわりぃが、俺は牧野に全て素直に話すと腹を括った。
お前のことを想っているってことを…。
赤札の謝罪は、一名残っている。
それでも、こいつが他の男といるのを二度と見たくない。
俺の気持ちを伝えねーと、始まらない。
俺は、牧野の言葉を待たずに話すことにした。
「サル――――。」
俺の言葉は牧野の言葉に掻き消されてしまった。
「今朝、天草主任にムチャクチャ仕事回すって宣言されてしまって。本当にスゴイ量が回ってきたの。今日はクタクタになってしまったからお弁当ね。」
天草からの仕事?
ふざけんな!
もうこれ以上、我慢できねー。
俺がもう一度、口を開いた時
「俺、────。」
「あんた、どっちにする?《超大盛!ドデカチャーハンとから揚げセット》と、《ガツンと!トンカツ特盛セット》」
またもタイミング悪く、牧野の声に消されてしまった。
「さ、座って。温かいうちに食べよう。いただきまーす。」
さっさと椅子に座った牧野は、美味そうに食いだした。
なんで、いつもと一緒なんだよ?
お前は何も思わねーのかよ?
仮にも旦那が他の女とホテルで密会していたんだぞ!
あんな写真まで撮られても、怒ることも悲しむことも無い牧野。
ヤキモチを妬いてもらうなんて論外。
俺のことを何も思ってねー。
その証拠に文句すら言ってこない。
俺は、お前が同窓会に行った時は迎いに行っただろ。
織部とメシ食って帰ってきた日は怒っただろ?
「報道見たよ。大河原さんって、あんたには勿体ないくらいの綺麗な人だね。」
「私も素敵な人、見つけないとね。」
笑いながら言ってきた牧野。
俺のことを全く気にしてねーことに、目の奥が熱くなってくるのがわかる。
やべぇ。鼻まで痛くなってきた。
こんな辛くて苦しい想いは産まれて初めてだ。
どうしたらいいんだよ…。
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