八十八夜

学生時代から大好きなマンガの2次小説です

まやかし婚100

2022-01-19 08:00:00 | まやかし婚(完)

 

 

俺は、あきらの家に行った日から、牧野に対して態度を変えた。

後半年も無い、俺たちの契約結婚。

 

俺は、この期間を最大有効活用することに決めた。

あいつに、俺の気持ちが少しでも届くように

牧野に告白できる時がきたら、直ぐに伝えられるように────。

 

花火大会に行けなかったのは、俺にとって大誤算だった。

牧野の為に選んだ浴衣を着ているのを見たかった。

 

それなのに、牧野はいつもの普段着で残念そうな素振りも全く無かった

この距離が、今の俺と牧野の距離だ。

これを少しでも近くしねーといけねー。

 

俺が春から手掛けている赤札を貼ってしまった方への謝罪。

これが思った以上に大変だった。

 

全員が東京に住んでいるわけじゃねー。

親の転勤で学生時代に引っ越した人。

自らの進路で地方へ進学した人。

就職後に地方に出た人ってのもいる。

 

それでも、なんとか週末を使い、仕事に影響の出ない範囲で謝罪を続けてきた俺。

この謝罪も残り一名になった。

ただ、この一名がかなりの遠方ってのが問題だ。

 

これが、距離が俺の悩むところとなる。

牧野と毎晩一緒にメシを食うってのを勝手に決めている俺としては、この長距離の移動がスゲー負担。

 

でも、俺が学生時代にしでかしたことっつーのと、牧野が俺のことを赤札で嫌っていたってのを考えると謝罪は絶対に必要。

でも、牧野と一緒にメシを食いてーってループに陥る。

 

俺のこの気持ちを汲みとった結果なのか?

謝罪の前後は、西田が殺人的なスケジュールを準備している。

 

そのことに関して、俺が少しでも否定的な言葉を口にした瞬間!!

西田が水を得た魚のように生き生きと反撃してくるのが、どうも俺にとって腑に落ちねー。

《赤札を貼った奴》だったのも《赤札を貼ってしまった方》《赤札の被害者》等に言い方を変えるように指示してきたのも西田。

 

「本当に謝罪する気があるのですか?」

から始まった西田の説教は…。

 

「加害者である司様の態度がでかくある必要はありません。」

「自分の父親の事情で退学した牧野さんですら辛かったんです。赤札と言う名のいじめで、退学まで追い込んでしまったと猛省してください。」

とこんなことを延々と言われた。

 

こんなスゲー嫌な事を言ってくる西田に、俺は一切口応えが出来ない。

西田がなんとなく優越感に浸っているように感じるのは俺の気のせいなのか?

そして、何となく西田の顔が嬉しそうに感じるのも、俺の気のせいなのか?

でも、俺はこんな西田に感謝することになる。

 

何度謝罪に行っても、謝罪に行く日は緊張する。

門前払いをされるもの覚悟して謝罪へ行っている。

最初に、謝罪に行った日。

俺の突然の訪問に、もちろん相手とその家族はビビっていた。

 

でも、そこの母親が話してくれたこと…。

「西田さんが言っていました。もしかすると、いつか道明寺さんが謝りに来る日が来るかもしれないと。」

 

その後、そこの母親から聞いた話によると…。

西田は俺たちのバカな遊びの《赤札》で被害に合せてしまった方への謝罪と、ババアからの指示で十分すぎる慰謝料を手配していたらしい。

 

そして、その時に西田が話したことってのが…。

『この世で自分が一番偉いと思っている世間知らずのボンクラです。きっと、あのボンクラが道明寺を背負うと道明寺も直ぐに行き詰まるでしょう。』

 

この流れで言うと、ボンクラって俺だよな?

この母親も、俺を目の前にして堂々とボンクラってどうなんだよ?

直ぐに行き詰まる?倒産だよな?

だから、あいつが俺の変わりに仕事をしていたのか?

 

『でももし、あのボンクラがいつか自分のしでかしてしまったことに気が付いて、謝罪をしに来ることがあったら…。その時は、ボンクラに同じ目に合ってもらいましょう。』

やっぱり、俺がボンクラで決定。

 

しかも、同じ目に合ってもらいましょうってどうなんだよっ!

自慢じゃねーが、あの当時の赤札はシャレにならねーことをしていたんだぞ!

 

そして、西田はこんな余計な一言まで付け足していた!

『この世で一番偉いと思っている世間知らずのボンクラは、多少の事では死なないと検証済みですので、安心してください。』

 

あ?

多少の事では死なないと検証済みって、いつそんな検証をしたんだよ?

しかも、勝手に安心させんじゃねー!!

 

『ただ、謝罪したいって気持ちは本当だと思いますので、その時は、話だけは聞いてあげてください。』

っつーのを、西田は赤札の被害者とその家族に頼んでいたらしい。

 

そして、その時に謝罪と慰謝料を支払っただけでは無く、西田はその後も連絡を取り続けた。

赤札の被害者全員に対してその後の体調は勿論、進路や就職先にも気を使っていたらしい。

 

 

本来なら俺がするべきだったことを、ずっとしてくれていた西田。

連絡を拒否した者に対してまで、ずっと連絡を取り続けた西田に感謝した。

俺の突然の謝罪にも門前払いもなく、謝罪は俺が思った以上にスムーズに進んでいる。

 

俺が礼を言いかけた────。

が、素直に出てこなかった。

 

そんな俺の気配を感じた西田は、真顔で言ってきたんだ。

「ご心配は無用です。扱いにくい人間には慣れています。赤札の方への謝罪は、司様が失脚した時の自分への保険です。」

 

 

 

お読みいただきありがとうございます。