八十八夜

学生時代から大好きなマンガの2次小説です

まやかし婚94

2022-01-13 08:00:00 | まやかし婚(完)

 

 

あきらの双子の妹たちが、牧野を自分の部屋に連れて行った後…。

リビングは一瞬にして静寂に包まれた。

 

そして、その静かな中、あきらが口を開いた。

「司、お前たち夫婦ってどうなっているんだ?マジで結婚したのか?」

 

恐らくバレた。

あきらだけじゃなく、総二郎と類にもバレている。

 

さっきの牧野の言葉。

『道明寺、大丈夫?』

 

この言葉で、こいつらに気付かれてしまった。

普通の夫婦は名字で呼び合うようなことはしねーよな。

 

この前、俺が牧野の花嫁修業に(勝手に)付き添った時は、あいつは俺の事を『あんた』って呼んでいた。

あの日は、始まる前に玄関であいつを待っていた。

だから、あいつは俺の呼び方に気をつけることができた。

 

でも、今日は。

初めて浴衣の実技を習っている時に、突然、俺が汗だくになって現れた。

しかも、俺は前以て牧野にここに来ることを伝えていなかった。

 

予測できないことに牧野が対応しきれなかったんだ。

シッカリしている牧野も、こいつらに慣れてきて気の緩みがでた。

俺なんて牧野のうなじが気になって、秘密なんて完全に忘れていた。

結婚してることはバレているくらいに思ってた。

 

「司とつくしちゃんからは、大人の男女の親密さが全く感じられない。お前たち見てると、中学生みたいなんだ。マジで結婚しているのか?司は、大丈夫なのか?」

あきらが、俺に言ってきた。

 

こんな時にまで俺のことを気付かってくれるあきら。

俺は小さくため息をつく。

 

こいつらには、隠しきれねー。

今、俺がどれだけ誤魔化したとしても、来週から牧野一人では誤魔化しきれない。

 

「お前がつくしちゃんに惚れているのはわかるよ。」

総二郎が、少しだけ口角を上げながら言った言葉にあきらと類が微かに笑う。

俺が牧野に惚れているのがわかるのに、なんで肝心な牧野にわかってもらえねーんだ?

 

そして、その会話の後で総二郎は俺の方へ向きなおして聞いてきた。

「で、お前は何を隠している?司。」

 

「俺とあいつは結婚している。それは間違いねぇ。」

こいつらの顔を見ながらキッパリ言った。

 

そして、俺と牧野の出会いから今日までのことを話しだした。

それこそ、牧野が西田に俺の執務室に連れてこられた日のことから…。

 

契約期間は一年。

そこには男女の関係にならないことが含まれているってこと。

もちろん、俺が牧野に惚れていること。

でも、そんな俺の気持ちに牧野が全く気付いてねーこと。

 

牧野は英徳に通っていた時の担任のような教師と結婚したがっていること。

学生時代、俺はあいつに嫌われてたことまで話した。

俺が話し終るまでは、さすがのこいつらも黙って話を聞いていた。

 

話し終わった後に、類が遠くを見ながら言い出した。

「俺、司の話を聞いて思い出した。」

 

「俺、よく高等部の非常階段で昼寝していただろ。その時に、よく叫びに来る女がいたんだ。いつも『ふざけんなー。』とか叫んでいたんだ。」

俺は類の話を聞いて、叫んでいた女が牧野だと判断した。

同じようにあきらと総二郎もそう思ったはずだ。

 

「いつかまでは覚えてないけど『なんでっ!親にお金があるだけで学校に来られるの?私より勉強なんて全くしない子や、勉強の出来ない子が通えるのに、どうして、私は転校しないといけないのよ。どうしてっ!』って泣きながら叫んでいた女がいた。」

 

「マジかよ。それ、キツイな。」

あきらが静かに答えた。

 

俺もマジでキツイと思う。

辛かっただろうなって、高校生の頃のあいつを思い可哀想に思う。

 

今より一回り小さかっただろう高校1年生だった牧野が、どんな気持ちでその言葉を叫んだ?

その隣で俺は何をしていたんだ。

高校生だった俺を怒鳴りたい。

 

もし、あの時の俺が英徳の大学にそのまま進んでいたら…。

俺は間違いなくバカなことを繰り返していただろう。

だから、親父とババアは俺をアメリカの大学に通わせたのか?っつー疑問が湧いてきた。

 

「最初は一年後に離婚が決まっていたとしても、好きになったんだろ?なんでもっと早くに、破棄しなかった?」

あきらの疑問。

 

「そうだよ。お前、交際報道されていただろ。その間に時間なんてあったから、契約書なんてどうにでも出来ただろ?」

総二郎まで、こんなことを言いだした。

 

「俺が一番思っているよ。俺が最初に、あいつが好きだって気付いたのは俺の誕生日。契約が始まったその日なんだよ。」

「タイミングの悪い奴だな。」

俺の言葉に、総二郎から漏れた呆れた声。

 

「それでも、成人した男女が共に暮らしているんだ。ましてや、好きな女と。キスとかなかったのか?」

いつもの調子で総二郎が聞いてきたのに、俺は首を左右に振って否定した。

 

「男だろ?お前から仕掛けたりとかなかったのか?」

総二郎が再び聞いてきた。

 

「仕掛けた。」

俺は小さく呟いた。

 

嬉しそうにしたあきらが聞いてきた。

「おー!どうだった?好きな女との甘い時間は?」

 

「やっぱ若い男女が一緒に住んでいるんだ。なにかねーとな。おもしろくねーよな。」

総二郎も楽しそうに反応した。

 

俺はそんな3人を見ながら、答えた。

「キスしようとしたら…。イチゴ、ぶっ込まれた。」

俺の返事に、こいつらが固まった。

 

 

 

 

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