初めての着物の実技の授業。
今日は美作さんのお宅で、美作さんの妹の双子ちゃんと一緒に浴衣を西門先生に教えてもらう。
美作さんの妹さんたちは、高校生。
美作さんの妹さんってのがよくわかる、とても可愛い女の子たち。
私が一時期通っていた、あの英徳に通っているんだって。
すごく可愛らしいお嬢さんたちなの。
「着物を着るより、浴衣の方が断然簡単!」
西門さんが断言してたけど、私には全くわからないー!
西門さんに実技に入るまでに覚えるようにいわれていた冊子。
文字だけは頭に入れていたつもりだけど、全く役に立って無い。
昔の人たちって、こんなに大変な着物を毎日着ていたの?ってことにビックリする。
だって、浴衣を着るだけでも大変なんだよ。
その上、帯まで!
もう、頭がパンクしそう。
そんな時、汗だくになって突然、美作さんのお家に現れた道明寺。
スゴク汗をかいたのか、髪の毛がクルクルから緩やかなウェーブになっている。
朝からいつもと同じように仕事に行っていたのに、どうして急に美作さんの家に来たの?
なにか、仕事の話でもあったのかな?
美作さんが入れてくれた冷たいお水を、道明寺はゴクゴク飲んだ。
道明寺がお水を飲んでいる間、私は道明寺から目線を話すことが出来なかった。
道明寺が無駄にカッコいいのは知っていた。
でも、私はイケメンより性格がよくって優しくって人間ができている先生が好きだから、道明寺がいくらイケメンでも時々ドキッてするくらいだった。
でも、今は。
お水を飲んでいる道明寺に、すごくドキドキしている。
色気っていうのかな?
髪の毛が、いつものクルクルじゃなくって緩やかなウェーブだからそんな風に思うのかな?
私、喉仏フェチなんかじゃないのに…。
道明寺がゴクゴク飲むたびに動く喉仏から目が離せない。
ううん。
喉仏だけじゃない。
グラスを持つ大きな手、長い指にドキドキしてくる。
えっ?どうしたの、私。
なに?何考えているの、私。
その時に聞こえた道明寺の声。
「俺たちも行こーぜ。」
頭の中がついてきてない私から出た、焦ったような変な声。
「へ?どこに?」
「花火に決まっているだろ。お前、浴衣着ろよ。」
口調はエラそうなのに、照れているように見える道明寺。
えっ────。
どうしよう。
ますますドキドキしてきたじゃない。
なんで、こんなにドキドキするの?
この前から、私、ドキドキばかりだよ。
私は自分の目が、どんどん大きくなって道明寺を見ているのがわかった。
ドキドキドキ。
自分の心臓が異常なほど動き出す。
突然、美作さんの双子の妹ちゃんの声が響いた。
「「きゃーっ!!」」
この瞬間、私の頭はリセットされた。
今、私は何を考えていたの?
「つくしちゃん、司くんと花火大会に行くの?」
「二人は付き合っているの?」
双子ちゃんが口々に聞き出した。
そうだった。
この二人は私と道明寺が契約結婚をしていることを知らない。
双子ちゃんは、今、高校生。
私には無縁だったけど、高校生くらいになるとそんな話題大好きだよね。
「総二郎くん。今日はもうここまでね。」
「私たち、つくしちゃんと今から女子会。」
双子ちゃんは、西門さんの許可を得る前に私の腕をひっぱりだした。
さすがに西門さんに悪いよねって思い、西門さんを見ると、西門さんは完全に諦めている顔で右手を上げた。
これは、双子ちゃんたちと行けってことだ。
私は二人に押し出されるようにして、リビングを後にした。
そして、絵夢ちゃんの部屋に入るとドアが閉まるなり双子ちゃんは猛烈に話し出した。
「司くんって、つくしちゃんのこと好きだよね?」
なんて二人で勝手に確認した後で
「あきらお兄ちゃまなんて『司は、ゲイ疑惑だからなー。』とか言っていたんだよ。」
え?道明寺のゲイ疑惑?
「司くんってうちの家がフリフリだって嫌っていたのに、急に来るようになった理由がわかった。」
家がフリフリってなによ?
道明寺らしい発想すぎるでしょ。
「つくしちゃんはいつから司くんと付き合っているの?」
こんなことばかり、質問された。
恋愛に憧れている女子高校生に
『道明寺は親を諦めさせるため、私はお金の為に一年間の契約結婚をしています。』
なんて言えない…。
だから、私は道明寺のかなり遠い親戚で、今は道明寺ホールディングスに勤めていて、道明寺とは上司と部下だって話したの。
私の話なんて全く信用してくれない双子ちゃん。
この後、双子ちゃんは、道明寺の高校生の話をしてくれた。
道明寺が学生時代に荒れていた理由とか…。
すごくモテたってこと。
そして、幼稚舎から道明寺のことを思っていた旧家のお嬢様のこと。
道明寺が高校生の時に婚約していた財閥のお嬢様のことまで教えてくれたんだ。
なんとなく、心の奥がチクチクする。
わかんないけど、モヤモヤする。
初めて感じる心の痛み。
パパの借金の時とは違う苦しさ。
なに、これ。
「桜子ちゃんも滋ちゃんも、すごくスタイルが良くって可愛いの。でも、司くんは見向きもしなかったんだって!」
こんな絵夢ちゃんの言葉は、私には届いていなかった。
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