八十八夜

学生時代から大好きなマンガの2次小説です

まやかし婚88

2022-01-07 08:00:00 | まやかし婚(完)

 

 

「ただいま。」

玄関のドアをそっと開ける。

 

今回は道明寺の仁王立ちを見なくて良かったみたい。

あの時の顔は、ホント怖くてホラーだった。

 

ホッとしながら家の中に入る。

電気がついているから道明寺が家にいるって思ったんだけど、道明寺がいない。

リビングにも、道明寺の部屋にもいない。

 

シャワーかな?とも思ったんだけど(前の事件からノックをするようにしているの)ここにもいなかった。

どこかに行ったのかな?

 

私は身の回りのことを一通りした後、キッチンのシンクを覗いてみた。

そこには、道明寺が使った食器が綺麗に洗われ、食器拭きの上に並べられていた。

 

『一人分で食洗機を回さないで!勿体無い。』

いつか、私が道明寺に言った言葉を覚えていてくれたみたい。

だから、道明寺が使った今日の食器も自然乾燥待ち。

 

道明寺ってこの契約結婚が始まった頃は、

使った食器をシンクに運ぶどころか、テーブルの上に置いたままにしていた。

私はあいつに、使った食器をシンクに運ぶことを教えて、食器を洗うことを教えた。

最初なんてお水を出しっぱなしで、洗剤もスポンジにこれでもかってくらいつけるから教えるのが大変だったんだよね。

 

こうして綺麗に洗ってくれた食器を見ると、道明寺が1人で食べた後、ブツブツ言いながらでも食器を洗ってくれている姿が頭に浮かんでくる。

私は、嬉しくなって自然に口元が綻んできた。

 

 

 

俺が車で向かっている途中で、楽しそうに歩いている織部と牧野を見かけた。

なんで、あいつらはあんなに楽しそうに笑っていたんだ?

 

俺は、直ぐにペントハウスに戻るって気が全く起こらず。

大きなため息をついた後、適当に流して帰ることにした。

 

あの二人の姿を見てからずっと思う事。

ペントハウスの玄関のドアを開けて、牧野が帰ってねー場合。

帰ってない場合は、牧野は織部と二人でどこかに行ったことになる。

 

どうするんだよ?

俺は、どうしたらいいんだよ?

 

やべっ。

牧野が帰ってねーなんて思うだけで、俺の心が折れそうだ。

俺の心を半分くらいもぎ取られたような、バッサリ切られたような気になる。

 

半時間くらいウロウロした後、俺はペントハウスに戻ってきた。

玄関のドアのフックを握っている手に力が入る。

このペントハウスは、邸と違い靴で帰って来たかどうかがわかる。

 

俺は思いっきりドアを開けた。

俺が玄関のドアを開けて、直ぐに確認したのが牧野の靴。

 

そこには、俺の靴のサイズよりかなり小さな牧野の靴があった。

牧野の靴を確認した俺は、すげー安心した。

 

っつーか、今までスゲー緊張していたのがわかるほど脱力した。

と、同時に湧き上がってくる嬉しさ。

 

あいつもスゲーが、靴もスゲーな。

なにがスゲーのかわからねーけど、玄関にあいつの靴があるのはスゲーことだ。

牧野のこんな小さな靴で、俺は安心することが出来た。

 

俺がリビングのドアを開くと、キッチンに牧野の姿を確認する。

牧野は出掛けた時の服装とは違い、いつもの部屋着に着替えていた。

 

あの時、見かけたのはマジで駅まで一緒に歩いていただけだったのか?

牧野が部屋着でここにいるってことだけで安心する。

 

『ただいま。』

俺は、この言葉を言うタイミングを逃してしまった。

 

牧野がシンクの一点を見て、ふわって優しく笑ったからだ。

その顔に思わず見とれてしまった。

 

「うわっ!あれ?あんた、いつ帰ってきてたの?」

牧野が俺の姿を確認して声を掛けてきた。

 

「あぁ、今。」

「おかえりなさい。私もね、少し前に帰ってきたの。」

牧野がいつものように言ってきた。

 

あまりにもいつもと変わらねー牧野。

でも、俺は織部兄と一緒に歩いている所を見た。

でも、それは言えねー。

 

「迎えに行くっつっただろ?なんで電話してこねーんだよ?」

俺の疑問。

 

他にも聞きてーことがいっぱいだ。

でも、今の俺が言える最大限の言葉。

 

「早い時間だったし、お酒飲んでないから大丈夫。」

牧野の返事に、酒を飲んでいなかったことに安心する。

 

「電話もなにも…。あんたも出掛けていたんでしょ?」

牧野からは、俺が用事で出掛けたと思っているような返事が返ってきた。

 

そして、この次に牧野が言ってきた言葉。

俺が、全く想像していなかった言葉が返ってきた。

 

「それに…。あんた、ここんとこずっと休みなしでしょ。たまにはゆっくりしなよ。体、壊すよ。」

こんなことを言ってきたんだ。

 

確かに、先月から俺は休みを俺は殆ど休みを取ってねー。

仕事と同時進行に進めたことが、思いの外、時間が掛かっているからだ。

 

でも、それは俺自身がしでかしたことをしているだけで、仕事じゃねー。

こいつが俺の体を気遣ってくれていることにスゲー嬉しく思う。

 

「サンキュ。」

俺から素直に出た言葉。

そして、「同窓会、楽しかったか?」こんなことを聞いてしまっていた。

 

 

 

 

お読みいただきありがとうございます。