八十八夜

学生時代から大好きなマンガの2次小説です

まやかし婚90

2022-01-09 08:00:00 | まやかし婚(完)

 

 

俺の胸元にある牧野の頭。

このまま牧野を胸に閉じ込めてーって思いが俺を支配する。

 

その時、牧野から出た色気のねー言葉。

「私、勉強してくるね。」

あ?勉強?なんのだ?

 

俺が頭で考え出した途端、牧野からの返事。

「西門さんの着物の授業が始まったの。覚えることが多くて大変なんだ。」

 

総二郎の着物の授業?

あの日、ゴルフ場で総二郎が言っていた言葉を思い出す。

 

『着付けって相手の体、触りたい放題なんだよな。』

おい…。牧野の体のどこを触るんだ?

 

『着物以外知識も手取り足取り教える予定。』

総二郎の着物以外の知識なんてアレしかねーだろ。

手取り足取りってスバリじゃねーかっ!

 

『俺、帯は締める方じゃなく《帯を解く》の専門だからな。』

牧野が総二郎に帯を解かれたらどうすんだよ!!

 

「ダメだ!総二郎に着物なんて教えてもらうな!絶対に禁止だ。俺がお前に教える。」

「え?道明寺が教えてくれるってムリでしょ。既にやり始めているんだけど、難しくって困っているだよ。」

 

!!

こいつなんつった?

 

「既にヤッ、ヤリ始めた?お前っ!俺という旦那がいながら、なんてことシてんだよ!」

俺は怒鳴った。

 

「えっ?なに言ってんの?私は、着物の勉強をしたんだよ。」

こんな牧野の言葉も、総二郎の言葉に惑わされている俺には『シタ』だけが強調されて聞こえてきた。

 

シター!?おまっ!総二郎になに教えてもらってんだ!」

したって言葉に焦った俺。

 

そして、最後にはバカな発言をしてしまっていた。

「お前、悪徳代官みたいな総二郎に『いいではないか』とか言われて、『あっれー』とか言いながらグルグル回って帯を解かれているんじゃねーだろうな。」

 

俺のこの言葉を聞いた、牧野は一瞬冷たい顔をした後で口を開いた。

「なにが『あっれー』よ。なにが『悪徳代官』よ。あのね、私がしているのは着物の勉強。」

 

悪代官発言に呆れた牧野は「お風呂に入って寝る。」と言い出した。

 

牧野はリビングから出ていく直前────。

「織部くんね、大学の時から付きあっている彼女と来年結婚するんだって。幸せそうに話す織部くんを見ていたら、私も嬉しくなって笑っていたと思う。」

こんなことを言ってきたんだ。

 

俺が駅まで仲良さそうに歩くこいつらを見た時…。

織部の結婚の話をしていたってことか?

 

ここ数日、ずっとイライラしていたのから解放された。

気持ちが楽になったのもあって、冷蔵庫のいつものドアポケットに手を伸ばした。

が、俺が思ったのはそこに無かった。

 

ビールがないじゃねーか!

クソ。最悪だ。

昨日、飲んだ時に最後だって思っていたのに、牧野の同窓会が気になって完全に忘れていた。

こう思った時だった。

 

「あっ!道明寺のビール。」

牧野が思い出したかのようにリビングに戻ってきた。

 

「あんたに言い忘れていた。ビールのこと。」

こう言った後

 

「待ってて。直ぐに、買いに行ってくる。」

こう言った後、「鞄、どこだった?」だとか「財布。」こんなことを言い出して、部屋の中をウロウロしだした。

 

こいつ、まさか…。

その姿で買いに行く気じゃねーだろうな?

 

部屋着の牧野は、紺のコットン素材のノースリーブのワンピース。

眩しいほどの白い肩がむき出しになっている。

思わず咬みつきたくなるような白くて華奢な肩。

 

牧野が鞄を持った時、俺は牧野のその白い肩を掴んで引きとめた。

「行くな。」

 

「えっ?でも、あんたのビールないよ。」

こんなことを言いながら、こいつは既に玄関へ向かって歩き出している。

 

「こんな時間にそんな格好で行くんじゃねー。」

「へ?まだ10時にもなってないよ。それに、そこのコンビニに行くだけだから大丈夫。」

俺が今、言った言葉で気付けよ!

 

全く気付いてねーこいつは、

「この服、そんなにみすぼらしいかな?」とか

「え?安かったから毛玉ができた?」とか

見当違いなことを小声で言いながら、自分の姿を確認しだした。

 

「お前が行くなら俺が買いに行く。そもそも、俺が飲むビールだ。」

「あんた、いつもお風呂上りにビール飲んでいるもんね。」

こんなことを言ってきたんだ。

 

俺はこの牧野の声に、一瞬言葉に詰まった。

好きな女が俺のことを覚えてくれているって、スゲー嬉しいことなんだな。

 

「こんな時間にお前がフラフラするのも、そんな格好でウロウロされるのも嫌なんだよ。ビールは要らね。明日、買ってくる。だから、こんな時間にどこにも行くな。」

俺の言葉に、牧野は今日二回目の不思議そうな顔をした。

 

 

 

 

お読みいただきありがとうございます。