八十八夜

学生時代から大好きなマンガの2次小説です

まやかし婚86

2022-01-05 08:00:00 | まやかし婚(完)

 

 

今日の道明寺は機嫌が悪い。

帰って来るなり機嫌を悪い事を隠そうともしないで《俺は機嫌が悪いんだー》オーラ全開。

 

なにか仕事で嫌なことがあったのかな?

ご飯の用意も手伝ってはくれるんだけど…。

 

何となくなんだけど、私に対して怒っているのかなぁ?って思ってしまう。

でも、私は何もしてないよ。

 

道明寺がナスの煮浸しに思いっきりお箸を突き刺した。

今のって《刺し箸》だよね。

食べ物にお箸を突き刺して食べること。

マナーに疎い私ですら、お箸ではしてはいけない食べ方ってことくらい知っている。

 

道明寺は口が悪いとか悪い所もあるけど、お箸の持ち方や食べ方が綺麗。

その道明寺がなんでそんな食べ方?

 

でも、ナスの煮浸しは柔らかいから、道明寺が突き刺してもお箸からスルンって離れてしまった。

ますます、道明寺がイライラした時に…。

 

「どうしたの?何か嫌な事でもあったの?」

私の言葉にガンを飛ばしてくる道明寺。

 

ムカッ。

もう、なんなの?

 

「お前、合コンに誘われただろ?」

道明寺が仏頂面で聞いてきた。

 

えっ。なんで、道明寺がそれを知っているの?

確かに、私は今日、海外事業部の人に合コンに誘われた。

 

でも、そんなのに行かないよ。

契約でも、私は道明寺と結婚しているんだもん。

既婚者の私が参加するなんて、相手の人たちに失礼かなって思うもん。

 

「私、会社での飲み会は基本的に断っているよ。」

私の返事に、少しだけホッと安心したような顔をした道明寺。

 

なんであんたがそんな顔をするの?

あっ、そっか。

帰ってきた時にご飯が無いと困るからかな?

この前、織部くんとご飯に行った時なんて、帰ってきてから作らされたもんね。

 

そうだった。そうだった。

ご飯さえ用意していたら大丈夫だよね。

 

私は、少し前に優紀から連絡をもらっていたことを道明寺に伝えた。

「今度の土曜日、中学校の同窓会があるの。この日は出掛けてくるね。」

 

 

 

牧野は合コンに行かねーらしい。

俺が昼からイライラしたことが漸く治まった瞬間、牧野から信じられねー言葉。

中学の同窓会って言わなかったか?

 

「織部くんがね、お兄さんの織部くんに私と同じ会社だって話をしたらしくって急に決まったの。」

牧野が嬉しそうに言ってくる。

 

「そいつは来るのか?」

「さぁ?私は幹事じゃないから知らない。」

 

おいっ!知らないってどういうことだっ!

俺の体中の細胞が、牧野の中学の同窓会って言葉に拒否しだす。

 

それなのに、目の前の牧野は

「大丈夫!あんたの晩ご飯は作っていくからね。」

俺を見上げながらニコニコして言ってきたんだ。

俺のメシの心配なんていらねーよ。

 

翌日。

昨日に引き続き、機嫌のわりぃ俺。

合コンに行かないっつーのには安心した。

 

が!!同窓会ってなんなんだよ。

俺は行ったことねーけど、学生時代の奴らと久しぶりに会うやつだろ。

そこに、織部兄が来たらどうすんだよっ!

 

 

俺はイライラしながら出社し、そのイライラしたまま帰宅した。

玄関のドアを開けるなりスゲー良い匂いがする。

どことなく懐かしい匂い。

 

いつもの牧野の香りは、この匂いによって消されている。

イライラしていた気持ちは、この一瞬だけ落ち着いた。

食い物の匂いで落ち着くって、俺の腹はどうなってんだ?

 

「ただいま。なぁ、今日の晩メシなに?」

俺はリビングに通じるドアを開けると、さっきよりももっと濃厚な甘いソースの香り。

 

「おかえりなさい。今日はね、B級グルメ代表のお好み焼き!エビイカミックスと豚でしょ。豚キムチとベーコンチーズも今、焼いてるの。色んな味、食べたいから半分こね。」

牧野が嬉しそうに話し出す。

 

俺が着替えている間に、牧野がテーブルに並べたお好み焼き。

まだ熱いらしく、鰹節がふわふわと踊っている。

 

ガキの頃、姉ちゃんに作ってもらって以来のお好み焼き。

思わず出た「うまそ。」っつー俺の声。

 

「そうでしょ、美味しそうでしょ。」

こう言った牧野がププッと笑い出す。

 

「何だよ?なに笑ってるんだよ。」

「なんか、こんな会話していたら本当の夫婦みたいだね。」

俺の疑問に笑いながら言ってきた牧野の言葉。

 

俺は顔中赤くなってくるのがわかった。

俺は、むちゃくちゃお好み焼きを食った。

慌てた牧野が追加で何枚か焼いたくらいだ。

 

「あんたって坊ちゃんなのに、お好み焼き好きだったんだね。」

なんて言ってきた牧野に俺は頷いた。

坊ちゃんだろうが旨いものは旨いんだよ。

 

そんな俺を見て、牧野が話してきた。

「良かった。あんたがお好み焼きが好きで。」

 

そして、この後、牧野は俺を見たままこんなことを言ってきたんだ。

「気のせいかもだけど…。あんた、昨日から機嫌が悪いような気がしたから、気になっていたんだよね。美味しいのいっぱい食べたら元気になるよ。」

 

俺の機嫌が良くなるのも悪くなるのも、全てはお前なんだぞ。

旨いものじゃねーよ。

お前に傍にいて欲しいんだよ。

俺が元気になるのはお前だよ。

 

 

 

 

お読みいただきありがとうございます。