八十八夜

学生時代から大好きなマンガの2次小説です

まやかし婚83

2022-01-02 08:00:00 | まやかし婚(完)

 

 

俺はラウンド開始ギリギリの時間にゴルフ場へ着く。

常識的にゴルフは開始一時間前に入っておくのがルールだ。

 

やべって思いながら車を降りると、支配人が俺を待っていた。

車を降りると直ぐに支配人から、あきらからの指示で俺たちがコンペの最終組で回るように変更したことを聞く。

時間を確認すると、最終組まで半時間ほどある。

 

俺がいつものラウンジの個室へ入ると

「遅いぞ!司。」

総二郎が少しイラついた声で言ってきた。

 

「司、ゴルフは紳士のスポーツだぞ。一時間前には着くようにしろ。」

あきらが当たり前のことを言いだす。

 

わかっているんだよっ。

寝坊した上に、牧野に素っ裸を見られてフォローしているうちに出発が遅くなったんだ。

 

俺はこの日、今までのゴルフ人生で最悪のスコアをたたき出すことになる。

人生最悪のスコアの日の会話は、総二郎のこの言葉から始まった。

「つくしの旬っていつだ?」

 

あいつの旬?

そんな目で牧野を見るなー!

 

俺たちの組がスタートする。

個人的な会話をする為に、俺たちはキャディを付けない。

スタートと同時に、俺にとって動揺しまくるトークが始まった。

 

「今だろ?あれって食べられるんだよね?」

類が総二郎へ返事をした。

 

牧野を『あれ』呼ばわりするな。

あいつを食えるのは俺だけだー!

 

「食える。つくしの旬は3月末から4月だな。」

あきらが至って真面目に返事をする。

 

あ?

つくしってあの雑草の方のつくしか?

 

こんなことを思っていた時だった。

「あきら、専門だろ?」

総二郎があきらにこんなこと言いだした。

 

あきらの専門は人妻だろ。

こいつらは、牧野の話をしているのか?

雑草の方のつくしの話をしているのか?

 

「俺は雑草より人妻。」

あきらがレーザー距離計を覗き込みながら返事をしだす。

2019年のルール改正から、こいつら3人は使っているレーザータイプの距離計測器。

 

「いいよなー。結婚しても人妻っぽくない女。」

総二郎の気にくわねー流し目。

 

「バージンぽい雰囲気、スゲーあるよな。司、あの子。初めてだったんじゃねーの?」

こんなことをあきらが聞いてきた。

 

なんとなく、牧野が初めてだとか、まだしてねーとかを他の男に知られたくない俺は

「知らね。」

と、全く興味なさそうに答えることしか出来なかった。

 

「あの子、メイク落とすと幼さそうだよね。」

類の言葉に同意する、あきらと総二郎。

 

こいつらって、見たこともねーのにそんなのが想像できるのか?

俺は、女をそんな風に見たことがねーぞ!

牧野をそんな風に見るんじゃねー!!

こんなことを考えていると────。

 

「昼は淑女、いや少女。夜は娼婦。男の理想だな。」

この総二郎の言葉に、俺は手元が狂い3メートルしか飛ばすことが出来なかった。

 

この後も、俺は何度も球を打つことになる。

ムカつくことにアリソンバンカーにも入ってしまい、何度もたたくことになった。

 

誰だよ、このゴルフ場を設計した奴はっ!

あのクソ親父じゃねーかっ!

 

ゴルフ場の設計した奴と総二郎に腹が立ってくる。

牧野が昼は少女で夜は娼婦…?

いや、それはそれで見てみてーんだけどな。

 

「総二郎、あいつの個別授業ってなんだよ?」

俺は総二郎からきたメールの事を聞いてみた。

 

「俺、西田からつくしちゃんの着付けを頼まれているんだわ。」

あ?着付けだと…。

 

俺と総二郎の会話を聞いていたあきらが

「総二郎に女の着付けは不可能だろ?」

こんな会話をしだし安心したと同時に思い出した。

 

そうだ。総二郎が学生時代に言っていた言葉。

「『男の帯は角帯と屁こき帯しかねーから簡単だけど、女の帯は難しい。』なんだろ?」

俺は総二郎の言葉を思い出して言ったつもりだった。

 

が、俺の言葉にこいつら3人が笑い出す。

「ヘコキ帯ってなんだよ?」

「そんな帯、ねーよっ!」

「帯が《屁》をするわけ無いだろ。」

 

「キャディ無しで良かったよ。」

「あー、キャディに聞かれたら恥だったよな。」

「ヘコキ帯。ププっ。」

こんなことを、呆れたように話し出す。

 

「あ?屁こき帯じゃねーの?」

俺の言葉に

 

「帯が屁こいてどーすんだよ。《兵児帯(へこおび)》だ。」

総二郎が呆れたように言ってきた。

 

なんだよ?

一文字、多くなっただけじゃね?

 

「西田に頼まれた時はうっかりしていたんだけどよ。俺、女の帯は浴衣と簡単な太鼓くらいしかできねーけど、それでもいいか?」

総二郎に、こんな風に言われても俺にはなんのことか全くわからねぇ。

 

「いいんじゃね?」

俺の返事にニヤって笑った総二郎は

 

「着付けって相手の体、触りたい放題なんだよな。そこんとこよろしく。」

こんなことを嬉しそうに言ってきた。

 

触りたい放題っ!?

「ダメだー!!絶対にダメだっ。許せねーからなっ。」

俺のバカでかい声がゴルフ場に響き渡る。

 

「ギャハハ~。」

あきらが笑い出す。

 

「着物以外知識も手取り足取り教える予定。」

俺がイライラしているのに、総二郎は嬉しそうな顔をしながら言ってくる。

 

そして、総二郎は許せねぇ一言を言ってきた。

「ま、俺は…。帯は締める方じゃなく《帯を解く》の専門だけどな。」

こう言ってきたんだ。

 

「《帯を解く》って男女の仲になるって言葉だからね。」

類までこんなことを言ってきた。

そのくらい俺でも知っているんだよっ!!

 

 

 

お読みいただきありがとうございます。