八十八夜

学生時代から大好きなマンガの2次小説です

まやかし婚89

2022-01-08 08:00:00 | まやかし婚(完)

 

 

思わず俺から漏れた「同窓会、楽しかったか?」っつー言葉。

俺の言葉に嬉しそうな顔をしながら頷いた牧野は、いそいそとソファーの俺の隣に座りだした。

 

そして、スマホで撮った写真を見せてきて

「伊藤さんはね、結婚してもう子供がいるの。」

「門田くんは、少し前まで仕事でノルウェーに行ってたんだって!」

「生徒指導の鬼の殿田先生は一生独身ってみんなで言ってたのに、結婚したんだって。」

こんなことを話しだしたんだ。

 

俺は伊藤も門田も知らねーよ!

なんだよ、生徒指導って。

 

でも、嬉しそうに話しているこいつを見るのは嫌じゃねー。

ここ数日、モヤモヤしていたのが少しだけ浮上した。

 

その時、牧野から発せられた気になる言葉。

「みんなは二次会に行ったんだけど、織部くんと私は帰ったの。」

 

織部が帰るから、お前も帰ってきたのか?

それとも…。

お前が帰るから、織部も帰ったのか?

俺の中で出てくる疑問。

 

「織部くん。明日、朝早くから出張なんだって。」

こんな牧野の言葉。

 

!!!

「織部が帰ったから、お前も帰ったのか?」

俺自身がビックリするような低い声が出た。

 

そんな俺の声に肩をビクンとした牧野。

「えっ…。違うよ。私は…。えっと…。その…。」

こんなことを歯切れ悪く言い出す。

 

目も左右に動き、明らかに挙動不審だ。

織部が帰るからって、お前も帰って来たってことか?

 

「てめー、織部が帰るからって帰ってきたのかよ。この淫乱女!」

俺から出てしまった余計な言葉。

 

この俺の言葉に、ムカってした表情の牧野は怒りながら言ってきた。

「なんでそんなこと言われないといけないのよ?」

 

牧野が怒るのは当然だ。

織部と何かあったのなら、こいつはこんなに早く家に帰ってくることは出来ない。

淫乱女っつーのは俺の言い過ぎだ。

でも、ここ数日ムシャクシャした思いが一気に俺に纏わりつく。

 

これ以上、こいつの話なんて聞きたくねー。

こう思った時だった。

「私が帰ってきたのは、道明寺が心配するかなって思ったからなのに!」

思いもしねー言葉が牧野から発せられた。

 

こいつが早く帰ってきた理由って────。

俺が心配するって思ったからなのか。

 

ヤバイ…。

俺、スゲー余計なこと言ったぞ。

急に焦りだす俺の心。

 

そんな俺の思いなんて知らねー牧野は悪態をついてきた。

「もう、信じられないっ。楽しい同窓会だったのに、あんたのせいで気分悪い。最低!こんなことなら二次会に行けばよかった。」

 

!!!

だからって二次会に行けばよかったっつーのはねーだろ。

俺がどんな思いでここ数日を過ごしたと思ってんだ!

 

「お前が、織部と楽しそうに歩いていたからそう思ったんだろ!」

思わず俺の口から出てしまった言葉。

 

「へっ?なんで、あんたが私と織部くんが一緒に歩いていたのを知ってるの?」

不思議そうに俺を見つめてくる牧野。

 

やべっ!

俺、余計なことを言ってしまった。

俺は牧野の質問も視線も無視した。

 

そんな俺をデケー目で見てくる牧野。

「もしかして…。今さっき、あんたが出掛けていたのって…。迎えに来てくれたの?」

 

 

 

私は道明寺から目が離せなかった。

照れたような困った顔をしている道明寺。

なんで、道明寺がそんな顔をしているの?

 

なんで、迎えに来てくれたの?

迎えに来てくれたのに、どうして声を掛けてくれなかったの?

私は、織部くんと駅まで一緒に歩いていただけだよ。

 

わからないことだらけの私は、道明寺の顔を見続けてしまった。

それが悪かったのかどうか…。

 

「見んなっ。」

道明寺はこう言いながら、私の頭をグッと手で押さえ付けてきた。

もともとソファーの隣に座っていた私たち。

 

道明寺が私の頭を押さえつけてきたから…。

私の頭は道明寺の胸元近く。

 

道明寺の体温が感じられるこの距離に、私の心臓が急にドキドキと動き出す。

なんでかわかんないけど、ドキドキする。

道明寺の香りに、緊張してクラクラする。

なんで緊張するのかわからないけど、クラクラしてしまう。

 

私は道明寺を下から見上げた。

まだ照れたような顔をしている道明寺と目が合って…。

 

「その上目使い、止めろっ!」

こう言った道明寺は、また私の頭を押さえつけてきた。

 

ねぇ、なんであんたの顔が赤いの?

なんで私はドキドキしているの?

なんで、迎えに来てくれたの?

 

 

 

 

お読みいただきありがとうございます。