八十八夜

学生時代から大好きなマンガの2次小説です

まやかし婚81

2021-12-31 08:00:00 | まやかし婚(完)

 

 

〜総二郎side〜

 

千葉県某所

道明寺カントリークラブ

 

千葉県でも、いや関東で5本の指に入るグレードの高さで有名なゴルフ場。

今日は、Aクラスの月例杯の日だ。

 

もちろん、俺たちはメンバーであり当然Aクラス。

俺たちっつーのは、俺の幼なじみのあきら・司・類、そして俺の4名。

 

少し前に道明寺カントリークラブに着いた俺は、奥のラウンジの個室で寛いでいる。

このラウンジは、ここのメンバーで支配人が認めた者しか入られない。

 

そして、ラウンジの一角にある個室は俺たち専用。

ここのゴルフ場は360度、どの角度から見ても綺麗に管理されている。

 

その中でも、この個室からの景色は格別だ。

海外からの貴賓が来るたびに、このラウンジの個室を茶室に変更するって話が何度も出ているのも納得できる。

 

絶景の俺たち専用の個室は、ラウンド前の待ち合わせ、そしてラウンド後の雑談を楽しむ場所だ。

個室はカウンターバーも付いていて、限られたスタッフしか入れないように司が指示している。

 

ラウンド前の練習?

そんなの俺たちには不要だろ。

 

俺、西門総二郎は大学入学時にゴルフを始めた。

俺と同じ時期に、あきらと類も始めた。

司は高校卒業と同時に渡米して、ゴルフは帰国する1年前から始めたとか言っていた。

 

司が日本に帰国すると、俺たちは常にゴルフ場とメープルで会うようになった。

仕事絡みだと、あいつらの会社へ出向くこともある。

 

が、これをすると女子社員がうるさいってことで、司と類の機嫌が悪くなる。

俺とあきらは、女の子が騒ぐのはいつでもウェルカム。

うるさいくらい騒いでもらうのも、男として旬だからだ。

 

俺たち4人は、ゴルフにはまった。

コンペはもちろん、月例杯以外に三大競技(クラブチャンピオン杯・キャプテン杯・理事長杯)に出場する。

 

流石に、三大競技はスゲーのが集まっていて俺たちじゃ全く話にならなかった。

いくら若くても27ホールは、正直キツかった。

この時、味わった悔しさが俺たちがゴルフにのめり込むきっかけになる。

そして、夜はメープルに移り司が年間キープしている部屋で飲むのが決まりだった。

 

 

メープルでの俺たち?

そうだな、常に話しているな。

 

半年に一度あるかないか程度で、滋と桜子が参加することもある。

滋と桜子も、俺とあきらと同じくらいハンターだ。

常に男を物色している。が、俺たちは眼中に無いらしい。

なんでも理由は《性格に欠陥があるから》らしいが、あの2人にだけは言われたくねー言葉だろ。

 

司は、ニューヨークで受けたおばさんからの仕打ちを延々と話し、後は西田の文句。

あとは、今まで擦り寄ってきた名前も知らない女の話。

 

あきらは、相変わらず人妻との真剣な恋愛の話。

人妻に真剣って不毛だな。

 

類は基本、ボーと俺たちの話を聞いているか寝ている。

でも、相変わらずフランスで静と会っているらしいし、付き合ってないがヤルことはヤッているらしい。

俺の一期一会やあきらの秘密の純愛とも違う、類と静の関係はよくわからねー。

 

そんな話で常に盛り上がっていた俺たち4人だった。

が、少しだけ変わったことがあった。

 

司の恋愛報道。

あの司に恋愛報道?

ガセだなっつーのが俺たちの見解だった。

 

そりゃそうだろ。

女が出来たら、あの童貞の司だぞ!

 

報道があっても、司からは全くそんな気配はなく、俺たちと常につるんでいた。

だから、俺たちは完全にガセだと思い込んでいたんだ。

週刊誌の写真を見ても、画質が悪い。

髪型すらショートなのかロングなのかすらわからない女が、司と微妙な距離で撮られていた。

 

この写真を見た時に、俺たちは確信した。

やっぱりガセだ。

 

この男女には親密さが全くない。

男と女の距離じゃない。

 

仕事絡みで会った女と運悪く撮られた。

週刊誌のいつもの手口だなって思っていた。

それでも、メープルのバーで飲んでいた写真にはビックリしたけどな。

 

そんなことも完全に俺たちの記憶から消え去った、今年の一月末の司の誕生日。

運の良いことに日曜日ってこともあり

「昼からハーフ周って、メープルで飲むか?」

こんな俺たちの誘いを司が断ってきた。

 

司がゴルフを断るなんてことは今までに無かった。

趣味なんて無い、仕事もしない司が、唯一楽しんでいたのがゴルフ。

 

そのゴルフの誘いを断る。

しかも、自分の誕生日に。

この時、『女だ。』と、『司に女が出来た。』

俺の第六感が訴えてきた。

 

この日を境に司の様子がおかしくなる。

あいつは嘘をつけない。

なんて言っても、司は単純だからな。

 

いや、司も大人になり表情を消すことは出来るようになった。

だが、他の奴に嘘をつけたとしても俺たちには無理だ。

 

なんていっても、俺たちはガキの頃から兄弟のように育っている。

司が俺たちの事がわかるように、俺たちも司の事が手に取るようにわかる。

 

そんな時、西田が道明寺の遠縁の女に花嫁修業を頼んできた。

期間は、来年の1月まで。

司の親父さんが、司の支社長就任披露は1年後って宣言したのもこの頃。

怪しいだろ?この1年っていう期間が。

 

 

 

お読みいただきありがとうございます。


今年もお世話になりました。

皆様のところでは雪は大丈夫でしょうか?

今年は2回の引っ越しにお付き合い頂き、

そして、過去の話にたくさんの応援を本当にありがとうございます。

来年もよろしくお願いいたします。

           まぁこ


まやかし婚80

2021-12-30 08:00:00 | まやかし婚(完)

 

 

世間はゴールデンウィーク一色。

内勤の私はカレンダー通り。

でも、道明寺はゴールデンウィークでも、休みなしで出社している。

 

今日がゴールデンウィークの最終日だけど、道明寺は仕事なんだろうな。

道明寺が休みなしって思うと、代表取締役なんだから当たり前だとか仕方ないんだろうなって思う。

でも、その反面、少しだけ可哀想に思ったりもする。

 

一緒に住みだしたからかな?

代表取締役でも、人間なんだから休みは必要じゃないのかなって思ってしまうんだよね。

 

だから、夜ご飯は道明寺の好きなメニューにしてあげようかなとか思ったり。

あんな顔して味覚が結構お子様なんだよ。

ハンバーグに目玉焼きをのせてあげると喜んだりするの(笑)

ちょっと可愛いでしょ。

 

さぁ!折角の良いお天気なんだから洗濯しよう!!

明日からは仕事なんだから、おかずの作り置きもしたいな。

こう思った私は、洗濯をしようとウォッシュルームのドアを思いっきり開いた。

 

!!!

途端に目に入ったもの────。

えっ?

これって…。

 

視線を少しずつ上にあげると、贅肉が全くついてない均整のとれた綺麗な体。

えっと…。

イタリアの彫刻?

そう。

私の目の前には、ややストレートになった道明寺がバスタオルで髪の毛を拭いていた。

 

!!!

「ぎゃー!!!」

私は思いっきり叫んだ後、ドアをバタンと勢いよく閉めた。

 

「ごめっ、なっ、なっなっ・・・。」

ドキドキドキドキドキ。

私はウォッシュルームのドアの前にぺたんと座り込んだ。

 

バクバクバクバクバクバク。

私の心臓は、これ以上無理ってほど働いている。

ドキドキバクバクって音をたてながら。

 

私、産まれて初めて────。

男の人の裸を見てしまった。

 

私はフラフラになりながらリビングに移動してソファーに正座した。

つくし、平常心よ。

こう思っているのに、完全に目に焼き付いてしまった残像。

 

「ギャー!イヤー。」

こんなことを叫んでいると

道明寺が「俺が見られたんだっ!」って怒っていたけど。

 

叫びたくもなるでしょ!

男の人の裸だよ!

しかも、素っ裸!

 

 

ソファーの背もたれに頭を打ち付けている間に道明寺は出かけて行った。

なんでも、今日は急にゴルフの予定が入ったらしい。

焦っているらしく、急いで出かけて行った。

 

じゃ、なっ、くっ、てっー!!

みみみ、み、見てしまったよ。

ギャー!!

道明寺の、そそそ、その、あれを―――――。

 

私、男の人のあれって初めて見たんだけど!

あれって、あんなに大きいの?

みんな、あんなのが入るの?

 

いや、無理でしょ。

痛いとかのレベルじゃないよね。

裂けちゃう。

 

って!

ちーがーうー!!

 

私ったら、何を考えているの?

私ったら、何を想像しているの?

私ったら、何を妄想しているの?

 

道明寺と…。

そのー、あのー、あれをするわけじゃないんだから、入るとか関係無い。

関係ないー。

 

あれを見た衝撃って、こんなに凄いんだ。

精神的ダメージ?

 

いや、それともカルチャーショック?

私には無いモノが付いてたよー!

 

パパと進とは全く違った。

いや、パパと進のを見たことは無いけど…。

えっと、その違うって思ったのは上半身だよ!

 

キャー。

思い出して、またドキドキしてきたじゃない。

もう、心臓に悪すぎる。

 

男性経験無い乙女(って年でもない?)に私に、なんで見せるのよー!

犯罪!変質者!痴漢!露出狂!!

ノックもしないで、私が勝手に入ったとしても!!

隠すくらいしてよー。

 

だめ。

やっぱり、目の奥に焼き付いている残像が消えないっ。

 

今、私の気持ちを読んでいる人たちって、私が道明寺のあそこを忘れられないんだって思ったでしょ!

まぁ…、それはそれで忘れられないんだけど。

 

だって!衝撃的だったんだもん。

初めて見たんだから仕方ないでしょ。

 

それだけじゃなく、無駄な肉が一切ついてない胸板とか、割れてた腹筋とか…。

男の人の体なのに綺麗って思ってしまった。

 

沈まれ、私の心臓。

落ち着いて、私の気持ち。

 

私はソファーに、顔を埋めるように寝転んだ。

道明寺が帰ってきたらどんな顔をして顔を合わせたらいいのよ。

こんなことを思いながら────。

 

 

 

 

お読みいただきありがとうございます。


まやかし婚79

2021-12-29 08:00:00 | まやかし婚(完)

 

 

2021.05

ゴールデンウィークに入った。

 

世間はゴールデンウィークでも、俺は西田と仕事だ。

なにが嬉しくて西田とゴールデンウィークに過ごしているんだ?

俺は牧野と過ごしてーんだっ!

 

どうやら思っていたことが、声に出てしまっていたようで…。

「それは、私が思っていることです!」

スゲー不機嫌な低い声を出しながら、俺の執務室の机にドンって音を響かせながら書類の束を置く西田。

 

「さっさと仕事を終わらせてください。これが終わるまで、司様と私のゴールデンウィークは来ません。」

俺を睨みながら言ってくる西田。

 

「私は一切手伝いません。」

まだ、睨みながら言ってくる西田。

 

「今まで私が甘やかした結果が、今になり跳ね返ってきました。まさか、司様が仕事を真面目にする日が来るなんて全く思いもしませんでした。これぞ、青天の霹靂でございます!お蔭で、私は休日返上なうえに、司様に仕事を一から教えないといけない。はっきり言って、二度手間なのです。」

これは文句だろ。

でも、西田に少しは認められたのか?

 

そもそも、あいつと結婚するまで仕事らしい仕事なんてしたことが無かった。

西田に任せきり、いや、西田に丸投げ状態だった。

 

牧野と結婚して、あいつを好きになって

あいつに振り向いてもらう為には、とりあえず仕事を頑張らねーとって思った。

仕事と同時にもう1つ、俺はしだしていることがある。

 

仕事に関しては、高校を卒業したと同時にニューヨークへ渡り、大学へ通いながらババアに仕込まれた。

それで完璧だって思っていたのは今までの俺だけで、全く使い物になっていなかった。

 

そりゃ、そうだよな。

俺が手掛けた仕事なんてなかった。

全て西田が、陰で動いてくれていたってことがわかった。

こんなこと口が裂けても言えねーけど。

 

俺が珍しくこんなことを思ってるっつーのに、この能面秘書は

「これからはご自分で、今まで使い物にならなかった時期を取り戻してください。」

こんなムカつくことを言ってきた。

 

おい、西田。

お前は俺の秘書だろ?

使い物にならなかった時期って、それはあまりにも酷くねーか?

 

西田の言うことも一理あるって思った俺は、今まで西田に丸投げだった全ての仕事のデータに目を通しながら、今の仕事を同時にすることになった。

これが大変だった。

 

今の仕事は、数か月前、もしくは数年前から始まっているプロジェクトだ。

目を通すだけでも何時間も掛かる。

当り前だが、今の俺では話にならねぇー。

なにしてたんだよ、今までの俺。

 

ゴールデンウィーク最終日。

俺と西田が願った休日が、やっと最後の最後でとれた。

 

本来なら牧野を横目に、ペントハウスでゆっくり過ごしたい。

が、そんなことも言ってられねーことになった。

俺は、久しぶりにゴルフに行くことになった。

 

あきらから、いつものように世話焼きメールが届いた。

【来年のハンデを決める為にも、月例杯には出とけ。お前はいつアメリカに行くかわからねーだろ?】

これだけなら無視していた。

 

【人生の墓場の生活はどうだ?】

【近い内にペントハウスに行くわ。】

【たまにはゴルフに参加しろ。】

こんなどうでもいい総二郎からのメール。

 

あきらのメールと同様に無視していると…。

【今後のつくしちゃんの個別授業について相談あり。明日の月例杯で話す。司の枠はあきらが予約済み。】

っつーのが、昨日の寝る前に届いたんだ。

気になった俺は久しぶりにゴルフに参加することになった。

 

翌朝。

俺は起きて直ぐ、寝坊したことに気付く。

急いで跳び起きシャワーを浴び、バスタオルで髪を拭いていると!!

ウォッシュルームのドアが突然、開いた。

 

そこには、ベッドのシーツを持った牧野が立っていた。

まさか、ウォッシュルームのドアが開くとは思っていなかった俺は判断が遅れてしまった。

 

そうだ。

仁王立ちで髪をバスタオルで拭いていた俺は、その状態で固まってしまった。

人間とは予測できねーことが起こると、咄嗟の判断が出来ねーらしい。

 

牧野の視線がある一点で釘付けになった後、少しずつ上がってきて目線が合った。

牧野は、完全に困ったような、今にも泣きだしそうな顔をしている。

 

《こいつ、見たな。》俺は確信した。

なんで、このタイミングでドアを開けるんだよ!

 

「ぎゃー!!!!!」

牧野は思いっきり叫んだ後、ドアをバタンと勢いよく閉めた。

 

「ごめっ、なっ、なっなっ・・・。」

こんな声がドア越しに聞こえた。

 

急いで服を着てリビングに入っていくと、牧野はスゲー顔をしながらソファーで正座をしながら叫んでいた。

「ギャー。」

「なんで?」

 

そして、ソファーの背もたれに頭をゴンゴンぶつけながら叫んでいた。

「えー。もうヤダ。」

「キャー。」

「見てしまったよ。ギャー!!」

 

おい、俺が見られたんだぞ。

なんで、お前がヤダなんだ?

なんで『ギャー』?

 

俺様の素っ裸だぞ!

しかも、お前が見たのは絶妙な角度の時だ!

 

今までどの女にも見せたことがねーんだぞ!

それを一番先に見て、なんで悲壮な顔をするんだ?

なんでお前が落ち込んでいるんだ。

 

 

 

お読みいただきありがとうございます。


まやかし婚78

2021-12-28 08:00:00 | まやかし婚(完)

 

 

総二郎の家の玄関で俺から漏れた言葉。

「うおっ。」

 

なんつー凶暴な女なんだっ。

まさか腹にパンチがくるとは思っていなかった俺は、痛みに声が漏れてしまった。

姉ちゃん並みに強い女だ。

 

三月に入って牧野が週末ごとにするようになった花嫁修業。

なんでも、講師が俺の幼なじみのあきら・総二郎・類。

 

気になるのが…。

三人一緒に教える必要なんてないのに、毎回こいつらが牧野の為に全員が集まっているらしい。

 

あきらが言い訳がましく言いだした。

「俺たちも社会人になって会う機会が減ったから。」

 

総二郎は俺を見ながら、ニヤニヤしながら言ってくる。

「急に付き合いが悪くなった奴もいるんだけどよ。」

 

俺にだって色々あるんだよ。

こいつは他の女たちとは違うんだ!

道明寺司って名前だけでは靡いてくれねーんだ。

 

最初は一緒に過ごす時間を作るようにした。

ただ、こいつは一緒に過ごすくらいじゃダメなんだ。

牧野に振り向いてもらうには、もっと違う所で頑張らねーといけねー。

 

俺は、牧野が真面目に働く男が好きなんじゃねって思い、仕事を真面目にするようになった。

始業前から出社するようになった。

 

働きアリの法則の良くない方の2じゃなく、良い方の2になるって決めたんだ。

経営の神様が決めた法則の良い方の2なら、牧野だって少しは評価してくれるだろ?と俺は思っている。

 

思ってはいるが…。

俺の日々の努力が報われたことは一度もねー。

まだまだ頑張らねーといけねーのか?

 

俺の幼なじみと仲良さそうに話している牧野を見て…。

なんとなくムカついた俺は、牧野の隣に座った。

 

俺が牧野の隣に座ったと同時に、総二郎が俺を見てニヤッと笑ったのがわかる。

牧野の隣のあきらと類も、どうせ笑っているんだろ?

 

笑われているのを無視しながら

「お前はどんな茶菓子が好きなんだよ?」

俺が聞いてみた。

 

「西門さんが出してくれる和菓子って全部美味しくって見た目もスゴク綺麗なの。」

こう言いながら、俺に皿の上の懐紙にのせられた茶菓子を見せてきた。

 

そこには、桜の花の形の綺麗な練り切り。

懐紙まで、小さな桜の花びらの模様が入っていた。

 

「この練り切りとかすごいでしょ。桜で可愛いくって、春って感じでしょ?」

こう言いながら、いつものようにデケー口を開けて綺麗な桜色の練り切りを頬張った。

 

牧野は、嬉しそうな顔をしていつもの言葉を言った。

「おいしー。」

 

その時、地の底から響くような声を出す総二郎。

「つくしちゃん。」

 

総二郎!

牧野の事をつくしちゃんって呼ぶんじゃねー。

俺でも牧野呼びなんだぞ。

 

牧野は総二郎の低すぎる声にハッとして、俺を睨んだ後

「あんたが突然、話しかけてくるからでしょ!もう、向こうに行ってよ。」

なんて言いながら、俺の肩をグイグイ押してきた。

 

なんで俺の所為なんだ?って、思わなくもねーけど、

俺にだけはスキンシップがあるって思ってもいいのか?こんなことを思った。

俺は牧野が終わるまで、何をするわけでも無く牧野を見ていた。

 

途中で類が

「牛乳を入れたい。」なんて言いだしたのに牧野が同意して

「生クリームも合いそうだよね。」

なんて言っている二人を総二郎が睨みだした。

 

そんなことに全く気が付いてないこいつらは、どんどん会話を膨らませる。

「抹茶のムースに生クリームをたくさんのせて食べたいな!」

「あー、俺は濃い抹茶のクッキーがいい。」

 

聞いてるだけで胸焼けがしそうなお菓子の名前が飛び交った後。

類が牧野の隣にゴロンと寝転んだ。

 

類!寝転ぶんじゃねー。

なんで、牧野の隣で寝転んでいるんだよ。

俺ですらその距離で寝たことねーぞ!

 

「類。茶室で寝転ぶな。牧野、来週は俺の家に来いよ。調度今、母親が抹茶のお菓子にはまっているんだ。」

こんなあきらの提案に、

 

「やったー。美作さんのお母さんのお菓子大好き。やっぱり花より団子って本当だよね。」牧野が自分で言いながら、頷いた。

 

そんな牧野を見て含み笑いをした総二郎。

「つくしちゃんは、食い気より色気を増やさねーとな。」

こんなことを牧野に言ったんだ。

 

そして、総二郎は、明らかに俺の顔色を目の端で捉えながら

「マダムはあきらが専門だけど…。つくしちゃんが、色気増やすために勉強するっつーなら特別講義も受けるから。さすがにその色気ゼロじゃ、司も困るだろ?」

なんて鼻で笑いながら言ったんだ。

 

色気なんか必要ないだろっ。

お前は可愛いから、それで十分だっ!!

 

そんな、俺の心の叫びは通じることなく

牧野から出た言葉は信じたくないものだった────。

 

「うーん。そうなんだよね。私って色気が無いからなぁ。ね、西門さん。もし、一年後以降に必要になったら教えてもらっても良いかな?」

こんなことを言ったんだ。

 

だめだ!ダメだ!ダメだっ!!

一年後以降って、俺と離婚するの前提じゃねーかっ!

俺は絶対にっ!1年後に離婚なんてしねーからなっ。

 

教師の為に色気なんて必要ねーんだよっ!!

総二郎の色気の特別講義なんて受けさせねー!

俺が増やしてやる!!

 

 

 

 

お読みいただきありがとうございます。


まやかし婚77

2021-12-27 08:00:00 | まやかし婚(完)

 

 

道明寺は心配性。

前の織部くんとご飯を食べに行った時は笑えた。

 

今は笑えない。

そう、今日は土曜日。

私は週休二日制だから、土日はお休み。

 

道明寺もずっと休みだったみたいだけど、3月に入ってからは土日のどっちかは出社するようになった。

正直、道明寺ホールディングスの代表取締役は暇なのかなって疑っていたから、少し安心。

結構、土曜日に出社することが多かったように思う。

だから、私は安心していた。

 

それなのに、今日は何故か道明寺の仕事が休みで、

「俺も、お前の花嫁修業に一緒に行くわ。」

なんて言いだした。

 

いや、その花嫁修業って名前が気に入らなかったから《お行儀見習い》に変えたんだよ。

こう、心の中で突っ込んでみた。

 

その上、

「俺、その為に土曜日に休みとったんだぞ!」

なんてことを堂々と言いだした。

 

なんで、あんたが一緒に行く必要があるの?

冗談じゃないっ!

 

一体、何の為に?

そう、道明寺は私の毎週土曜日恒例のお行儀見習いに一緒に行くって言い出したんだ。

 

「絶対に付いてこないでっ!」

私はかなりキツイ口調で、道明寺に言ってからペントハウスを後にした。

 

目指すは駅っ!

私は道明寺に追いつかれないようにダッシュで走った。

 

ホント、何考えているの?

今だけの私の仮の旦那。

本当にバカじゃないの?

 

道明寺がお喋りだった所為で、道明寺の幼なじみにはこの結婚が殆どバレている。

私が認めていないだけで。あの口の軽いバカバカ男っ!

 

日本語が不自由なくせに、なんでそんな事はベラベラと喋っているのよ。

喋ったのは、どうやら日本に帰国して直ぐだったらしいけど。

 

西田さんが、あの四人はお互いに友達が四人しかいないので外部にバレませんとは言ってくれていたから、なんとか大丈夫って思っている。

でも、わざわざ自分からこの秘密をバラさなくても良いでしょ。

 

私は絶対にあの三人に今まで話さなかった。

認めなかった。

だから、あの三人はあの手この手を使って私の口を割らそうとしている。

 

道明寺がペラペラと余計な事を話すから殆どバレているのに、あんたが私に付いて来た時点で認めたようなものになるじゃないのっ。

本当に、本当にっ!!道明寺のおバカー。

 

私は公共交通機関を乗り継いで、約束の時間の少し前に西門邸に着いた。

本当にいつ見ても、いつ来てもすごいお邸よね。

 

花沢さんのお宅も、美作さんのお宅も豪邸過ぎて、お行儀どころじゃないの。

私は将来の本当の旦那様と結婚する時の為にインテリアの勉強もしたいのに、素晴らしいお宅を目の前に目で見る事だけで精一杯。

 

こんなことを考えていると、西門さんの家の前に見慣れないド派手な青いスポーツカー。

美作さんや花沢さんの車とは違うような気がするな。

西門さんのお宅に、お客様が来ているのかもしれない。

 

こんなことを思いながら、私は西門さん宅の日本庭園を進み玄関に向かう。

本当にすごいお庭なの。

日本三大庭園みたいなんだよ。兼六園や後楽園の。

 

今は春だから、新芽の黄緑色が本当に綺麗なの。

少し前までは桜が綺麗だったんだ。

だから、次は秋の紅葉の季節が楽しみだなって思いながら、西門さんちの玄関の扉を右に引いた。

 

「こんに…。」

私の挨拶は、最後まで言うことは無かった。

開けたドアを閉めようとした時────

 

私の頭上から聞こえるドスの効いた声。

「てめー、旦那を巻くとはどういう了見だ?」

 

私の目の前には道明寺がいる。

そして、その後ろにニヤニヤしながら道明寺の幼なじみがいる。

ホントにバカ。

バカバカバカバカっ!

 

人をまくの《まく》は巻くじゃないわよっ!

撒くよ。

それに、なんで他の人に完全に秘密って決めたことを言うの?

 

契約不履行じゃないのーーーっ!

大声で叫びたい。

 

でも、今。

この場で私たちの結婚が、契約だったって事がバレた方がややこしいよね。

確かに、こいつの幼なじみを騙し続けるのは限界に近かった。

私が認めていないだけでバレバレだった。

 

女は度胸と愛嬌よ。

そして、往生際の悪い事はしない方が良い。

私は道明寺にニッコリ笑いながら、右手で握り拳を作った。

 

「西田さんに発表は1年後って言われていたでしょ。」

こう言った後、

三人に見えないように、右手の握り拳を道明寺のお腹にくい込ませた。

 

 

 

 

お読みいただきありがとうございます。