八十八夜

学生時代から大好きなマンガの2次小説です

まやかし婚170

2022-03-30 08:00:00 | まやかし婚(完)

 

 

2021.12.25

朝ご飯を道明寺と二人で、ダイニングで食べていると、西田さんが道明寺を迎えに来てくれた。

わざわざ西田さんがお迎えに来てくれたっていうのに、道明寺は悪態つき放題。

 

「西田!お前、今日が何の日が知っているのか?」

「今日は、2021年12月25日土曜日ですね。」

いつものような二人の会話が始まった。

 

「クリスマスだぞっ!しかも、それも土曜だっつーのに、なんで俺だけ仕事なんだよ。」

すごく嫌そうな道明寺の声に、なんとなく可哀想だなって思ってしまう。

 

でも、西田さんは、そんな道明寺に慣れているみたい。

「お言葉ですが、司様の仕事の為に、私まで出勤となっているのです。クリスマスで土曜日と言うのは、私が言いたい台詞です。」

なんて言い返されて────。

 

「しかも、道明寺家はクリスチャンではありません。お寺のような名字をして、なにがクリスマスですか?バカなことばかり言うのは、仕事中だけにして下さい。今は勤務時間外なので、私もそこまで付き合いきれません。」

なんてバッサリ言われてしまったの。

 

ププっ。

お寺のような名字だって(笑)

しかも、バカなことばかり言うのは、仕事中だけにしてって。

西田さんって、なんであんなことをいつもの表情で言えるんだろ?

スゴすぎっ。

 

「あ?お寺のような名前?名字に《寺》が付いてるだけだろっ!そんな奴、日本にどれだけいると思ってんだー!しかも、バカなことばかり言うのは、仕事中だけってなんだ?あ?どういうことだ?」

道明寺が叫んだけど、西田さんは無視して玄関に向かって歩き出した。

 

そんな西田さんを追いかけている、道明寺の叫び声がダイニングまで聞こえてくる。

「西田っ、無視するんじゃねー!俺の言うことを聞けっ!服従しろっ!!」

 

道明寺と西田さんが出て行った瞬間、急に静かになったダイニング。

あの二人って、いつもあんな感じなのかな?

しかも、道明寺、西田さんに『服従しろ』なんて言ってたけど。

あの西田さんに、あんなこと言えるのって道明寺くらいじゃないのかな。

 

私は、メイドさん達にお礼を伝えてお邸を出た。

会長や社長、お姉さんはそれぞれ朝早くから用事で、お礼は言えなかった。

 

道明寺にとって、それは普通のことみたいだったけど…。

家族なのに、誰がいつ家にいるかどうかがわからないっていうのは少し寂しいんじゃないのかな…なんて思ってしまった。

 

運転手さんが、何度も

「お送りします。」

なんて言ってくれたんだけど、それは断った。

 

私は今から…。

延び延びになっていたことを、今日中にしようと決めていたから。

本当はしたくないし、避けて通れるならそうしたい。

でも、それは人としてしてはいけないことだ。

 

スマホをタップして電話を掛ける。

trrrr…

緊張してきた。

 

「はい。」

いつもより少し強張っているように聞こえる、天草主任の声。

 

そして、私の声も緊張で強張っているはず。

「牧野です。急で申し訳ないのですが、今日、大丈夫ならお時間を少しいただけませんか?」

 

 

 

晴れて牧野と夫婦になれたっつーのに、なんで俺は西田と仕事なんだ?

ジト目で睨んでも、悪態ついても、西田には全く効かねー。

 

「さ、今日の仕事です。帰宅したくてたまらない司様なら、このくらい一瞬ですかね。」

こんなことを言いながら、仕事の指示をしてくる西田。

 

なにが、一瞬なんだよっ!

いつもの倍近くあるじゃねーかっ!

 

っつーか…。

今、西田はなんつった?

帰宅してたまらないって言わなかったか?

 

「西田、気付いたのか?」

「何がでしょう?」

 

「俺と…。だな。」

俺は言葉に詰まった。

 

『俺とつくし』と言いたいところだが…。

まだ一度も、牧野のことを名前で呼んだことがねー俺。

想いが通じた今もお互い名字呼びっつーのも、問題だ。

 

「司様と牧野さんのことですね。牧野様と呼ばせてもらった方がよろしいですか?つくし様の方がよろしいですか?」

「・・・・・。」

 

俺は、西田の質問に即答できなかった。

嫌なことを聞いてくる奴だ。

道明寺つくしのあいつを、牧野様呼びなんて絶対にダメだ。

だからと言って、俺がつくし呼びをしてねーのに、西田につくし様なんて呼ばせるなんて以ての外だろ?

 

俺がこんなことを考えていると────。

「どうなるのかと思っていましたが…。あと一カ月ありますし、どうなるかはわかりませんね。」

なんてことを西田が言い出した。

 

あ?

あと一カ月ある?

どうなるかはわかんねーって!?

どういう意味だ?

 

「さぁ!牧野さんに見捨てられないように必死になって仕事をしてください!司様のスケジュールを管理しているのは、私です!お分りですか?」

西田は、こんな恐ろしいことを言い出した。

だから、お前は鬼なんだよっ!

 

「いつも、いつも、司様の心の中で、私は『鬼』と呼ばれているようなので、正真正銘の鬼になってみるのも良いかと思っています。」

こんなことを気持ちわりぃ笑顔で言ってくる西田。

 

なんで俺が鬼って呼んでるのを知ってんだよっ!

これからは鬼以外で呼ぶと心に決め、悪党の目を掠め執務室から脱出し、久しぶりに社内をウロウロと歩き出した。

 

 

 

 

お読みいただきありがとうございます。


いつも応援をありがとうございます。

長い間、お休みしてしまいすみません。

まだ、最終話までは書けていませんが(書くのが遅くてすみません)

8月最終日より再開させてもらいたいなと思っています。

よろしくお願い致します。

 


まやかし婚169

2022-03-29 08:00:00 | まやかし婚(完)

 

 

「ちょっと、触らないでよっ!」

「触らせろっ!」

 

「ダメ!」

「いいだろ。ケチケチすんなっ!」

 

「なに言ってんのよっ!私からケチを取ってどうするの?」

「お前、マジに返答するな。」

こんな色気のねー会話をしているのは、やっと気持ちが通じ合った俺と牧野。

 

今、俺たちは同じベッドにいる。

同じベッドでいるだけで、俺は愛妻の体にすら十分に触らせてもらえてねー。

 

 

気持ちを確認し合った後、

「一緒にシャワーするか?」

っつー俺の提案を、

 

「イヤ!絶対、無理。」

っつー、たった3つの言葉で、牧野は却下してきた。

 

その上、シャワーの後の

「一緒のベッドで寝る。」

っつー俺の提案を、

 

こいつは、

「却下。」

それこそ、言葉通り一言で却下してきた。

 

それこそ俺が却下するっつーんだ!!

湯上りのスゲー良い香りの牧野なんだぞ!

なんで別々に寝る必要があるんだっ!

 

こう思った俺は、牧野を抱きかかえベッドに放り込んだ。

ソッコーで逃げようとするこいつを羽交い絞めにし、なんとか同じベッドで寝ることに成功した。

そして、この話の冒頭のような会話を繰り返している。

 

「もう!触らないで!」

何回目かわかんねーくらいのこの言葉の後、牧野は俺に背を向けた。

 

それでも、好きな女が────。

愛してやまねー妻が、同じベッドの隣で寝ているんだ。

しかも、前みたいに熟睡してもねー。

触らないっつー方が無理だろ?

俺は、こいつの細腰を引き寄せた。

 

すぐさまジタバタと動きだし、俺の手から逃れようとしたこいつに俺は言ってやった。

「この一年。俺が!!どれだけ我慢に我慢を重ね、辛抱したのがわかんねーの?」

 

「わからない。」

俺の我慢と辛抱の一年は、こいつにとってはわかんねーらしい。

 

じゃ、お前にわからせてやる。

「好きな女と一緒に住んで、なにも出来ねーって辛いんだぞ!その上、お前が俺の部屋を掃除すっから、俺はゴミ箱に自由にティッシュすら捨てられなかったんだぞ!」

俺の言葉に、

 

牧野は、しばらく黙った。

そして─────。

「自由にティッシュ…?へっ?ぎゃー!!」

なんて言い出し、ベッドから逃げ出そうとした。

 

が、こいつが逃げ出すだろうと予測していた俺は、こいつを捕まえ────。

思わず、俺の下に組み敷いた。

 

咄嗟だったとはいえ、この体勢はヤベー。

止まらなくなるかもしんねー。

 

「お前から受けた痛恨の一撃にも耐えたっつー、証明していいか?」

半分冗談で言ったこの言葉。

いや、半分以上は本気だったかもしんねー。

 

そんな俺の言葉に、牧野が返してきた言葉────。

「ダメ。絶対にダメ。」

だった。

 

この体勢で止めるっつーのは正直辛い。

想いが通じた今なら、尚更だ。

 

こんなことを思っている俺に、スゲー恥ずかしそうにしながら牧野が言ってきたことが…。

「旦那さんの実家で…、こんなこと出来ない。」

だった。

 

!!!

こいつの旦那さんっつー言葉に、俺は固まった。

こいつが今まで何度も言ってた『未来の本当の旦那様』

俺がその未来の本当の旦那になったんだ。

 

焦ることねー。

今夜が無理でも明日がある。

それこそ、ずっと焦っていた来月までの契約期間。

 

それに、シーツに牧野の血でもついてみろ────。

タマが、何を言ってくるのかわかったもんじゃねー。

 

「わかった。なにもしねー。抱き締めて寝るくらいは良いだろ?」

っつーて、こいつの頬に軽くキスした俺は、こいつを胸に抱きしめたまま横になった。

 

「あったかーい。」

俺の胸に頬を預けながら、嬉しそうに話してくるこいつ。

 

さっきまで、警戒して俺に近づくことすらしなかったっつーのに。

俺が『なにもしねー。』って言った途端、近づいて来るってどうなんだ?

なんとなく、腑に落ちねー。

 

そんな俺に、こいつは話しかけてきた。

「ねぇ…。西田さんに怒られないかなぁ?」

 

「なんで西田に怒られるんだよ?」

「うーん…。契約違反?」

 

契約違反も何も────。

西田がワザとそうしたのかどうかはわかんねーが…。

あの契約書には、不測の事態の記入が一切無かった。

 

あの西田が、記入漏れなんてことは絶対にしねー。

だからと言って、俺が幸せになるのを願っているとも思えねー。

どっちかと言うと、俺に不幸が舞い込んでくるのを隣で笑いながら待ち構えているような奴だ。

一年前の西田は何を考えていたんだ?

 

 

 

 

お読みいただきありがとうございます。


まやかし婚168

2022-03-28 08:00:00 | まやかし婚(完)

 

 

「ムシャクシャしていたからって、そんなの引き受けないでよっ!私がどれだけ辛かったと思ってんのよっ!!道明寺のバカっ!」

俺の胸をドンっと叩きながら、牧野が言ってきた言葉。

 

おい…。

こいつ、今、なんつった?

 

「お前、今、なんつった?」

「道明寺のバカ。」

 

「ちげーよ。その前だ。」

「ムシャクシャしていたからって、引き受けないで?」

 

「それとバカの間だっ!!」

この言葉に、こいつは困ったように俯いた。

 

!!!

今日の夕方、執務室で急に湧いてきた疑問。

あの時、微かに感じた期待が俺の中でデカくなる。

 

いつの日か聞いた、こいつの好きな男。

それは、『公務員でも教師でも無い』奴だった。

 

先週の夜────。

天草の親父のパーティーの日、俺は滋のパートナーをしていた。

あの日、牧野が俺に言ってきたことが…。

『私が好きだった人ね…、素敵な人と付き合っていたの。すごくお似合いな二人なんだよ。』

だった。

 

そして、今さっきの牧野の言葉。

『私がどれだけ辛かったと思ってんのよっ!!』

 

俺は、俯いている牧野の顔をそっと覗き込んだ。

牧野は、俺と目線を合わせねーように、ますます俯いた。

この時の困ったような牧野の顔を見て、俺は疑問が確信に変わった。

 

「悪かった。辛い思いさせて。」

俺の謝罪に、牧野が驚いたように顔を上げる。

 

俺は、牧野の顔を覗き込むようにしながら言った。

「お前、失恋なんてしてねーよな?俺、嫁はいても、素敵な彼女なんていねー。それに、俺、嫁のことスゲー好きだからな。」

 

俺の言葉が理解出来なかったのか、目をパチクリさせてきた。

が、次の瞬間、顔中を真っ赤にさせた。

 

今だ────。

こう思った俺は、牧野に聞いた。

「お前も旦那が好きなんだろ?」

 

1分、2分…。

俺たちは、目を逸らしもしねーでお互いを見つめ合った。

何分経ったのかは、わからねー。

スゲー長い時間、俺たちは瞬きすらしねーで見つめ合っていたと思う。

 

これ以上、待てねーって時に─────。

牧野が小さく頷いた。

 

!!!

この時を俺は一生忘れねー。

 

「やりぃ!」

叫んだ俺は力いっぱい、牧野を抱き締めた。

 

「俺たち、マジで夫婦になろーぜ。嫌っつーても、俺は離婚なんて絶対にしねーからな。」

俺の胸元でコクンと頷く牧野。

 

そんな牧野の顎を上げ、俺は牧野にかすめるようなキスをした。

「スゲー嬉しい!」

 

「ねぇ…。本当に大河原さんとはキスしてないの?」

こんなことを不安そうに聞いてくるこいつ。

 

「してねー。あの時、階段の陰に隠れていたマスコミの奴がいたんだ。だから、ワザと撮らせたっつーか…。」

どう言ったら、わかってもらえるんだ?

言えば言うほど、言い訳みてーになってくる。

話せば話すほど、嘘みてーになってくる。

 

焦った俺に、こいつが言ってきた言葉が────。

「あんたさ、キスに慣れている感じだし…。あの報道の写真もさ、なんか大河原さんと抱き合っているみたいだったでしょ。だから…。」

 

だから…。の後の牧野の言葉はスゲー小さかった。

が、牧野が言ってきたことを、俺は一語一句聞き逃すことはしなかった。

「だから…さ…。あんたがどれだけ嘘って言ってくれてもさ…。あんたのこと信じてないわけじゃないんだけど、なんとなく不安に思うっていうか…。あの写真は、私にとって衝撃的っていうか…。」

 

それってヤキモチだろ?

やべー、顔がにやけてくるのがわかる。

 

そして、俺はこいつの言葉で一番気になったことを聞いてみた。

「なぁ…。あの写真がお前にとって衝撃的だったってことは…。あの報道の時には、俺のこと好きだったのか?」

 

「えっ?えっ…。えっと…。そうじゃないんだけど…。」

歯切れが悪そうに、こんなことを口にした。

 

衝撃的とか言うから、あの報道の頃には、俺のこと好きでいたのかなんて期待してしまっただろ。

 

「なんだよ。違うのかよ。」思わず出てしまった落胆した俺の声。

 

そして、ふと思ったことを聞いてみた。

「じゃ、お前はいつから俺のこと好きだったんだよ?」

 

そんな俺を上目遣いで見てきたこいつは…。

「いや、そうじゃなくて…。あの報道の時に気付いたの。」

スゲー恥ずかしそうに言ってきた。

 

一瞬、意味の解らなかった俺。

「あ?」

っつー声が、思わず口から洩れた。

 

そんな俺に、顔中を真っ赤にさせた牧野が言ってきたんだ。

「なんでわかんないのよ。だからっ!あの報道で、私は自分の気持ちに気付いたのっ!だから、次の日、あんたが帰って来なかったのもすごく辛かったの!」

 

おい…。

兄貴たち─────。

お前達の《つくしちゃんにヤキモチ妬かせる作戦》は、大成功だったのかもしんねーぞ。

 

 

 

 

お読みいただきありがとうございます。


まやかし婚167

2022-03-27 08:00:00 | まやかし婚(完)

 

 

「それでは、お休みなさいませ。」

こう言ってきた、タマさんに案内されたのは、東棟の一番端の部屋。

 

なぜか、道明寺も当然のように一緒に入って来る。

どうして、一緒の部屋!?なんて思わなくもないんだけど…。

 

道明寺は、タマさんにだけ私のことを『嫁』って紹介した。

タマさんからしたら、道明寺と私のことを夫婦って思ってくれているだけのこと何だろうけど…。

 

えっ、道明寺と一緒の部屋?

どうしたらいいの?

 

今さっきまで、私たちは道明寺邸の大広間で、ディナーをよばれていた。

お姉さんは、私と一緒にお酒を飲むのを楽しみにしてくれていたみたいなんだけど…。

私がお酒に弱いからって、道明寺が断ってくれたんだ。

私の代りに、道明寺がたくさん飲むことになってしまったの。

お酒を飲んだから運転が出来ないからって、急にお邸に泊まらせてもらうことになったんだ。

 

今までのことを考えると、いくら私でも…。

道明寺が、私のことを想ってくれているんじゃないのかな?って、思う。

 

もしかしたら、間違っているかもしれないけど…。

かなりの自惚れで頭の痛い女になってしまっているかもだけど…。

ずっと恋愛なんてしてこなかったから、こんな時にどうしたら良いのかわからない。

 

この一週間、気になっていたことを聞くチャンスだよ。

『大河原さんとの嘘ってなに?』

この言葉が、出てこない。

緊張してドキドキしているのがわかる。

 

あっ…。

天草主任も、緊張してドキドキしていたのかな?

 

私、酷いことをしてしまった。

結婚前提で付き合ってもらいたいって言われたのに…。

パーティーを抜け出したことを、電話で謝っただけ。

 

断りにくいなって思ってしまって…。

罪悪感を抱いてしまう。

 

仕事でお世話になっているのに…。

とか、

断っても今のままでいられるのかな…。

とか、余計なことを思ってしまう。

 

だから────。

今週に入ってからも、仕事で忙しいのをいいことに、天草主任に会わないのをどこかでホッとしていたり。

 

それなのに────。

私は、道明寺に対して、大河原さんのこと教えてくれたらいいのに…なんて思ったりして…。

 

そのくせ、私が仕事で忙しい時は、道明寺のことも天草主任のことも忘れてしまっていて…。

なんとなく、自分勝手だったこの一週間に自己嫌悪。

 

 

「眉間に皺入ってんぞ。何考えてんだよ?」

頭上から道明寺の声が聞こえた。

ふと見上げると、私の真ん前には道明寺。

 

とてもじゃないけど、道明寺には天草主任のことなんて話せない。

ボールペンですら捨てられるんだもん。

 

「なにも…。」

とだけ言って、私は軽く首を振った。

 

これ以上、天草主任に返事を引き延ばすなんて失礼だ。

明日、きちんと返事をしよう。

こう決めたの。

 

道明寺は私の手を引き、ソファーに座らせた。

そして、私の隣に座って直ぐ、道明寺は話し出してきた。

 

それは、私がずっと聞きたくなかったこと。

それなのに、嘘って聞いてから、聞きたいなって思っていたことだった。

 

「俺の気持ちは、先週、お前に言った通り。俺はお前が好きだ。」

道明寺は、こんなことを恥ずかしげも無くキッパリ言って話し出したの。

 

道明寺が話してきてくれたことってのが…。

大河原さんは、あの時のパーティーにいた紀明さんって人と付き合っていて…。

紀明さんの家の喪が明けると同時に、婚約発表をするってことまで決まっているんだけど…。

今までのあることないこと色んなことを、マスコミに散々書かれていた大河原さんが、紀明さんとのことだけは知られたくないって理由で、花沢さんにカモフラージュをお願いしたらしい。

 

私は、道明寺の話をずっと黙って聞いていた。

でも、大河原さんが花沢さんに頼んだって聞いた時、どうしても口を開いてしまった。

「じゃあ…なんで?なんで、大河原さんが、花沢さんに頼んだのに…道明寺が…?」

 

あの報道で、私は…。

道明寺への気持ちに気付いたんだ。

だから、すごく辛くて悲しくて。

好きって気付いたと同時に失恋して、自分の気持ちにまで嘘つこうって思ったんだ。

 

あの時、私は────。

心をもぎ取られたようになったんだ。

心が空っぽになってしまったんだよ。

 

それなのに、道明寺は平然として言ってきたの。

「滋は、俺より類の方が映えるから良いっつーてたんだけどな。」

 

・・・・・。

今、なんて言った?

映えって言わなかった?

 

呆気にとられている私に、道明寺は言ってきたの。

「俺は、お前が好きだっつーのに。お前は全く気付きもしねーで、結婚してからもずっと未来の本当の旦那ばかりでよ。調度、ムシャクシャしていた時だったから、俺が引き受けたんだ。」

 

ムシャクシャ…?

なにそれ。

それだけの理由で?

 

そう思った私は、道明寺の胸を叩きながら言っていたの。

「ムシャクシャしていたからって、そんなの引き受けないでよっ!私がどれだけ辛かったと思ってんのよっ!!道明寺のバカっ!」

 

 

 

 

 

お読みいただきありがとうございます。


まやかし婚166

2022-03-26 08:00:00 | まやかし婚(完)

 

 

緊張の食事も、後はデザートだけになった。

食事中の会話は、もっぱら仕事のことばかりだった。

 

私がここまで失敗しなかったのは…。

私が困った時に、何気に道明寺がサインを出してきてくれたお蔭。

 

お酒もね、道明寺が

「こいつ、弱いから。」

って言ってくれて、ミネラルウォーターに変えてくれたの。

これがお気に召さなかったお姉さんは、道明寺にたくさん飲ませていた。

 

運ばれてきたデザートはケーキ!

イチゴがたっぷりのっていて、まつぼっくりまでのっている!!

しかも、このまつぼっくり、チョコレートだぁ。

 

目の前のケーキに、うわーってなった時に、会長が道明寺に話しかけた。

「司。あの時に、私が指示したことは、きちんとしたんだろうな?」

 

「これからだ。」

マズイって声が含まれたような、道明寺の返事。

 

そんな道明寺の返事に、会長はキッパリ言ってきた。

「その件は、必ず司が責任を持ってするように。」

 

なんの指示かは知らないけど…。

この時の会長の目が、スゴク怖いと思ってしまった。

 

社長とお姉さんは、そんな道明寺と会長のことなんて全く気にしてないみたいで、ケーキを食べだした。

それを合図に、私もケーキを一口食べた。

 

うん?

美味しい。

だけど、でも…。

 

生クリームだから、スポンジケーキだって思って食べたからかなぁ?

このケーキは、スポンジじゃなかった。

 

しっとりとしてなめらかな食感。

これは、かぼちゃタルト?

食べかけのケーキを見てみると、かぼちゃ色。

 

えっ!?なんで?

なんて思っているのは、私だけじゃなく…。

 

社長もお姉さんも

「クリスマスなのにかぼちゃ?」

なんて言い出した。

 

思わず、隣の道明寺を見てみると────。

ニヤって笑って

「これも食うか?」

なんて、私にクリスマスかぼちゃケーキを渡してきたの。

 

まさか、まさかだよね?

確かに、先週。

天草主任に差し入れしてもらった『かぼちゃタルトと抹茶ラテ』が、美味しかったとは言ったけど…。

 

道明寺からケーキを受け取った私は、飲み物に手を伸ばした。

カップは、真っ白なクリームに覆われていて、なにが入っているのかはわからない。

でも、きっとこれは、抹茶ラテだよね。

 

カップに口を近づけると、抹茶の清々しい香りが鼻をサッと抜けていく。

そして、一口含むと、苦みや渋みの少ない上質な抹茶独特の旨味が口の中に広がった。

 

すごく美味しい!

私が、もう一口、この美味しい抹茶ラテを口に含んだ時────。

 

社長が、道明寺に話しかけた。

「司さん、あなた、出張に行きたがらないんですって?近隣の中国やシンガポールへのタイトなスケジュールでも行きたがらないって、西田が困っていたわよ。」

 

確かに、道明寺の出張は少ないと思う。

道明寺はウザそうな視線を、社長に送っている。

 

そんな道明寺の視線も全く意味が無いみたいで、社長はクスって笑いながら話し出した。

「この一年、出張は日帰りばかり。あなた、仕事をする気はあるの?」

 

「ニューヨークでの仕事を、司さんにしてもらわないと困るの。」

この社長の言葉に大きく頷いた会長が、次に話し出した。

「そうだぞ!司の仕事は、私がゴルフを減らしてしているんだぞ!」

 

「ゴルフに行く暇あるんなら、親父がしろよ。」

道明寺も、会長にキレ気味で言っんだけど…。

 

「私はもう十分、働いた。だから、これからは、ゴルフ三昧の日を送るって決めたんだ。」

なんて堂々と会長が言い出したから、社長から冷たい目線を送られていた。

 

会長は、すごい。

この社長の冷たい目線にも怯まなかった。

 

「で、最近は、いつゴルフに行ったんだ?どのくらいで回っているんだ?シャフトはなにを使っているんだ?」

なんて、道明寺に聞きだしたんだ。

 

会長って憎めない性格だよね。

道明寺も助かったんじゃないのかな?

 

でも、私は、社長がどんな態度になるのかなってことが気になっていた。

だって、今さっきの目線なんて本当に冷たかったから…。

 

私の心配をよそに────。

社長は、会長を見て軽くふき出して笑ったの。

 

社長に対して、こんなことを思うのは失礼かもしれないけど…。

なんとなく、可愛いなって思うような笑顔だった。

そんな社長を見て、会長もホッとしたような顔をして笑顔になった。

 

ママも、パパにこんな感じだった。

競馬新聞紙に赤ペンで予想ばかりしていたパパを、怒りながらもママは笑っていた。

そして、そんなママを見て、パパも引き攣りながらも笑っていた。

 

ギャンブルが好きでも、ママはパパが好きだったってこと?

パパとママの間に愛情とかってあったのかな?

 

腹を立てて怒り狂っていても、一緒にいたのはどうしてなの?

どうして、一緒に笑っていられたの?

 

パパとママ。

会長と社長。

それぞれの夫婦には、私にはわからない何かがあるのかもしれない。

 

形の無いもの。

愛とか、信頼とか?

妥協でって夫婦も、中にはいるかもしれないけど…。

 

妥協でもなんでも…。

それは、一日や二日で出来るものじゃないはず。

何年も何年も、毎日の積み重ねが、それぞれの夫婦になるのかもしれない。

 

 

 

 

お読みいただきありがとうございます。